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【洋書多読】Spare(211冊目)

『Spare』 By Prince Harry, The Duke Of Sussex
 総語数:144,606 words (Word Counters)
 開始日:2023年1月31日
 読了日:2023年2月16日
 多読総語数:7,724,637 words(※)

(※語数のカウント法の見直しや未計上の洋書を追加する等で変更の可能性があります)

世紀の暴露本、イギリスのハリー王子著『Spare』を読了しました。

随分話題になった本なので、ご存じの方も多いと思います。

毎週更新される英語学習者のための新聞『Japan Times Alpha』で本書のことが大きく取り上げられているのを見たのがきっかけで、ちょっと興味をそそられました。

the only books to have sold more in their first day are those starring the other Harry,”
(「初日にこれほど売れた本は、もう一人のハリーを主人公にした本だけだ」)

"Prince Harry’s Spare is fastest-selling nonfiction book in UK, says publisher"
Japan Times Alpha 2003 1/27号 より引用

発売から1週間ですでに40万部(!)売れたという本書。「初日にこれほど売れた本はもうひとりのハリーを主人公にした本(=ハリーポッターのこと)だけだ」という出版社のManaging Directorのコメントが紹介されていて、これはちょっと読んでみたいなぁ、と思いました。

僕は基本的に暴露本のたぐいは読まないですが、これだけ話題になって飛ぶように売れている本書。日本語版がまだでていない…というのも、タドキスト・英語学習者である僕の好奇心に火をつけてくれました。

一方で、14万語にもなるという本書が、しかも英国の王室の人が書くような英語が今の自分に読めるのか…という不安もありました。

でも、ここは思い切ってチャレンジしてみようと思い、Kindle版を購入して読み始めることにしました。

3章からなる赤裸々な独白

本書は3章建てで構成されています。

まずはハリー王子が12歳の時、お母さんであるダイアナ妃をマスコミの執拗な取材によって失ってからの青年時代が描かれています。若くして母を失うことになったハリー王子。イギリス王室という特異な環境で、非常にショッキングなしかたで母親を失った彼は、お母さんの死に向き合う機会を構造的に奪われてしまったと言えるでしょう。

それが王子の心にどんなふうに影を落とすことになったのか…ハリー王子自身が語る思春期のハリー王子。これは読むに値すると思いました。

第二章は高校卒業後、自分を取り戻すために入隊した英国軍隊での経験談がメインです。アフガニスタンなどの世界的な紛争地の最前線における戦闘に参加したハリー王子は、これをきっかけにしてPTSDを始めとする様々な精神疾患に罹患します。

自分を取り戻すために入隊した軍隊で、除隊後の彼を待ち受けていたのは皮肉なことに「喪失感」だったんです。

そして第三章はメーガン妃と出会ってから。ハリー王子とメーガン妃はマスコミの餌食となり、虐待、人種差別…の波にさらされました。メーガン妃が苦しむのを見たハリー王子は、母と同じ歴史の悲劇が繰り返されるのを防ぐため、母国を脱出する決意をします。

報道からはイメージできなかった、ハリー王子の視点からの様々な告白はかなり真に迫っていると言えます。本書が史上最大の暴露本と言われ、これだけの出版部数を記録してしまうのもうなずける。そんな感じがしました。

面白い本でしたが、難しかったです。難しいけど、読めなくはないです。

さて気になる本書の難易度ですが、やはりなかなかの難しさでした。

それでもこうして最後までページを捲るスピードを緩めることなく読み進めることができたのは、ハリー王子による独白本であるということ、そして英語自体はそんなに難しいというほどでなく、おそらくはネイティブの大人が娯楽として、気楽に読めるくらいの英語で書かれていた事による、と思います。

つまり日本人英語学習者として感じる本書の「難しさ」は、決して高尚な文学作品を読む難しさであるとか、専門用語・ジャーゴンが満載の了解不可能な英語による難しさという感じではないということです。

以下に僕が本書から感じた「難しさ」の理由をいくつか列挙していきたいと思います。

1.固有名詞の難しさ

難しいと感じた大きな原因の一つがイギリスの地名、海外で流通している商業・工業製品などの名前、戦争に関わる語句など、普通に日本で生活しているとなかなか増やしていきにくい語彙がたくさんあったということです。

「多読三原則」にしたがって、読み飛ばせるところは読み飛ばしましたが、一方で気になったもの・興味をそそられたものに関してはネットで調べたりしていました。

2.イギリスの歴史・文化などに対する知識の不足

また、大英帝国の歴史的な背景、ヨーロッパの主要な国家として発展してきたイギリスの文化など、東洋の島国にすむ僕には馴染みの薄い事柄に対する予備知識がないことも、本書の読みにくさにつながっていたと思います。

3.イギリスの王室に対する知識

ぼくはそもそもイギリス王室のウオッチャーではなかったので、海外の人からすると当たり前の前提として書かれているようなことについてもいちいちWikiなどを調べたりしないと意味がわからなかったのも、難しさの原因だったと思います。

ただ、この辺に関しては、日本語の記事が驚くほどネット上にたくさん転がっていたので、情報ソースには事欠きませんでした。日本人にもイギリスの王室の情報を求める人がたくさんいるんですね。

海外のベストセラーを、翻訳される前に読める愉悦

そんなわけで、2週間以上かかりましたが当初の不安をよそに無事最後まで『Spare』を読み終えることができました。

まだまだ100%には程遠いですけど、それでもこうして最後まで興味を失うことなく14万語にもなる洋書を読み通すことができたというのは、なかなか気分がいいものです。

本書を読み終えたことで、自分の英語にかけている部分というのもはっきりと認識することができました。つまりここから上に行くためには、「英語力」よりもむしろ、海外の文化・風習や歴史・価値観などに精通し、文字通り「ネイティブが見るように世界を見る」事が必要だということです。

外大で落ちこぼれて2年も留年してしまい、這々の体で卒業した四半世紀前「もう英語なんか二度と見たくない」と思っていたあの頃の僕には、イギリス王室の王子が書いた暴露本を原書で読むことになるなんて想像もできませんでした。

人生って何があるかわからないですね。その点においては、ハリー王子も僕も、そしてこの記事を読んでくださっているみなさんも、違うところはないと思います。

ハリー王子の波乱万丈の人生を赤裸々に描いた本書は、ハリー王子だって一人の人間なんだということをあらためて強く意識させてくれます。

「だからどうした」「なにを箸にも棒にもかからないようなありきたりのことを…」と思われるかも知れませんが、立憲君主国のroyal familyの主要な人物による赤裸々な独白に触れることで意識化することになった「王族も発展途上国の貧困層も、僕のようなぼんやりとした日本人の中年のおっさんも、やっぱりみんなsentientな一人の人間なんだ」という事実には、それなりに大きな意味があると思っています。

少なくとも今の僕にとっては。

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