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【洋書多読】What I talk about when I talk about running(再読)

『What I talk about when I talk about running』を再読、読了しました。

タイトルを見てピンと来られる方もいらっしゃるかもしれませんが、こちらは日本を代表する小説家の一人、村上春樹が走ることに関する想いを綴ったメモワール『走ることについて語るときに僕の語ること』の英訳版です。

本書で彼は、ランニングが彼の創作活動にどのような影響を与えているのか、そして人生における自己探求の手段としてどのように役立っているのかを語っています。

まず、村上春樹はランニングと小説を書くことの共通点を強調します。どちらも継続的な努力、忍耐、そして規則正しい習慣が不可欠であり、日々の積み重ねが重要であると述べています。彼にとって、走ることはただの運動ではなく、心と体を整えるための儀式であり、それが創作の原動力となっています。

さらに、本書では村上が経験した数々のランニングイベント、特にマラソンやウルトラマラソンについてのエピソードが紹介されています。これらの経験を通じて、彼は体力の限界や年齢と向き合いながらも、どのようにして自分自身を高め続けているのかを語っています。

村上はまた、加齢による身体の変化についても言及し、年齢とともに変わる体力をどのように受け入れ、適応していくかについて考察しています。この点で、彼はランニングを通じて人間の限界や可能性について深く考え、それを執筆活動にも活かしています。

最後に、この本はただランニングについて語るだけでなく、人生そのものについての深い洞察が含まれています。ランニングという行為を通じて、村上は人生の意味や生きることの喜び、そして死に対する考え方についても考察を深めています。

走ることを通じて得られる心の平静と、それが彼の創作活動や人生においてどのように重要な役割を果たしているかを私たち読者に伝えてくれる、本書はそんな一冊です。

「英語学習」という営みにも通じる一冊

本書の記述にある「走ること」をそのまま「英語学習」に読み替えれば、英語学習者として深く共感せずにはいられないマインドセットに溢れているような、そんな一冊だともまた感じています。

英語を通じてどんなふうに自分自身と向き合ってきたか。この本には少なくとも40歳を超えて、衰えていく脳のパフォーマンスと向き合いながら毎日英語を磨き続けてきた僕自身のことが書かれているような、そんな気がしているからです。

40歳で仕事を辞めて旅に出る前、村上春樹と同じく市民ランナーで、頻繁にフルマラソンに出場していた当時の僕にとって、本書はランナーとしての僕のバイブル的存在であり、大ファンだった村上春樹の内面を窺い知ることのできる貴重な一冊でした。

当時の僕は英語なんて全く出来やしませんでしたので、本書は日本語で何度も何度も繰り返し読みました。今こうして本書を著したときの時の著者と同じくらいの年齢になり、英語という新たな共通点を持って本書を「英語で」読んでみると当時は気づかなかったいろんなことが心に深く染み込んできます。

そのことについてここで詳述することは本稿の主たる目的ではないので避けますが、日々の習慣的な何らかの自己向上の営みを通じて得られる観照のようなものについて深く鋭く言及された本書は、ある種の哲学書のような趣さえ漂わせているようです。

これを村上春樹の文体を忠実に英語に翻訳する技術で名高いフィリップ・ガブリエル (Philip Gabriel)の訳で英語で読めることの幸福感は、この僕が世界中の誰よりも一番感じているんじゃないかとすら思っているといったらちょっとハルキストが過ぎますでしょうか?

英語は難しい。英検一級/TOEIC満点レベルです

気になる本書の英語レベルですが、ごめんなさい、これを読みこなすには英検一級/TOEICは満点レベルの熟達した英語リーダーでないとちょっと難しいと思います。

あるいは僕のように、本書の日本語版を手垢で擦り切れるくらい何度も読み返した経験のある方なら、もしかしたら最後まで読みきることができるかもしれません。

最近英検一級を目指す方によくお会いしたりしますが、個人的には退屈な英検一級対策本をお薦めするくらいなら、本書を英語版で最後まで読んで、わからない単語に線を引くなりなんなりして、オーディオブックと併せて読んだりしていただくと、とてもいい試験対策になるんじゃないか?と思ったりしています。

単語、熟語の難易度はもちろん、文書の難易度などもまさに英検一級に挑戦する、あるいは既に合格しているくらいのレベルの英語学習者にちょうど相応しいものです。


2016年にうつ病になり、15年間従事した精神科ソーシャルワーカーの職を辞して、失意のどん底で逃げるように日本を脱出して世界一周の旅に出た僕が成田空港の第三ターミナルにあった小さな本屋さんで見つけたのがこの『What I talk about when I talk about running』でした。

その時の僕は、これから始まる世界一周に向けてまったく使い物にならなかった英語力を何とかする必要からフィリピン・セブ島に2ヶ月半の語学留学を予定していました。

セブ行きの便の出発を待ちながら、ふと立ち寄った書店で見つけた大好きな本書の英語版。「いつかこの本が読めるくらい、英語ができるようになれたらいいな」。そんな期待を胸に、全く読める気もしない本書を手にとってからはや6年が経過しました。

今の僕は、その当時なんの使い物にもならなかった英語を教授することをまさに本業とし、本書をこうして広く僕のnoteをお読みくださっている読者の皆さまに紹介するという幸福に恵まれています。あの時の僕にはただの1ミリも想像できなかったことです。

それもこれも、ただ尊敬する村上春樹が本書で伝えてくれているように、英語に、そして生きることにまっすぐに向き合ってきたからこそだと思っています。

そういう意味でも、僕にとっては本当に宝物のような、一生のうちにどれくらい出会えるかわからないくらい大切なall-time favoriteな一冊です。

ここで本書をみなさんにご紹介できたことを、心から幸せに思っているのと同時に、それを可能ならしめたこれまでの6年間の英語学習者としての自分自身にささやかな敬意を表したいとも思っています。

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