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【洋書多読】The Giver(再読)

Lois Lowryの名作『The Giver」を再読、読了しました。

本書は、管理されたユートピア社会を舞台にした物語です。この社会では痛みや感情が排除され、全ての人々が平等に暮らしています。

主人公のジョナスは12歳の少年で、社会の中での役割が割り当てられる「12歳の儀式」で、珍しい「Reciever」に選ばれます。Recieverは過去の人類の記憶を保持し、社会のリーダーに助言を与える役割です。

ジョナスは前任の記憶保持者である「Giver」から訓練を受け、喜びや痛み、愛、戦争など、抑制された感情や経験の記憶を共有されます。これにより、ジョナスは社会の欠点や抑圧の本質を理解するようになります。彼は家族や友人たちが感情や自由を奪われていることに気付き、社会のシステムに疑問を持ち始める…。

というのが本書の大まかなあらすじです。Newbery賞という、アメリカで権威ある児童文学賞を受賞していることからも明らかなように、本書はネイティブの小中学生くらいの読者に向けて書かれた一冊です。

でも、上述のあらすじが示す通り、そこに含まれている内容は大人の我々にも「真の幸福とは何か?」「感情を抑圧(忘却)して生きることの代償は何か?」といった、優れて哲学的な問いを突きつけます。

児童書の枠を超えて、多読を英語学習の一環に取り入れているノンネイティブの大人が手に取るにも十分に値する一冊である、そんなふうにあらためて思いました。

Lois Lowryのもう一つの代表作『Number the Stars』と併せてより深い多読体験へ

Lois Lowryといえばもう一つのNewbery賞受賞作『Number the Stars』に言及しないわけにはいきません。

こちらは第二次世界大戦中のデンマークを舞台にした歴史小説です。1943年のナチス占領下のコペンハーゲンに住む10歳のアンマリー・ヨハンセンを中心にお話が展開します。

『The Giver』の巻末付録であるNewbery賞受賞インタビューの中で、著者は「どうして私たちはナチスの記憶を繰り返し呼び起こす必要性があるのか?」という読者からの質問に回答する形で「人類にとっての記憶の重要性」について語っています。

それが著者に『The Giver』を書かせることになった大きなきっかけの一つであると。

本書を読みながらふと、僕がまだ英検一級もTOEIC935点もなかったはるか昔、英語学習のために一生懸命試聴していた伝説的なTedtalk『The power of vulnerability』の中で、登壇者であるブレネーブラウン氏が自身のソーシャルワーカーとしての研究から導き出した、人間の一つの心理的傾向のことを思い出しました。

ブラウン氏によると「人間は、不快な感情だけを選択的に麻痺させることはできない」んだそうです。

不快な感情を麻痺させるためには、喜びなどのポジティブな感情も一緒に麻痺させなければならないと。そして、そのようにしていろんなことに不感症になった状態で生活していくことを余儀なくされているのが、まさに現代を生きる私たちである、と。

それが、ソーシャルワーカーとして「恥」を研究していく中で彼女が見つけた一つの心理学的な事実でした。

Lois Lowryが『The Giver』において描いた「記憶を失うことと引き換えに自由を一切奪われた、安全で、守られたディストピア社会」は、ブラウン博士の研究によって明らかになった現代のアメリカ社会の一つの側面を映し出しているかのように思われます。

私たちが享受していると信じている自由は、本当に自由と呼ぶにふさわしいものなのでしょうか?私たちが豊かさと信じているものは、何かとてつもない大きなものと引き換えにもたらされた何かなのかも知れません。

英語はそんなに難しくない。Give it a try!

そんなわけで『The Giver』でした。

本書の英語は、そんなに難しくはありません。英検一級レベルの単語も頻出しますから「簡単である」とはいいませんが、感情や記憶を失った人たちが話す英語は、スラングや変にこなれた英語表現がない分、私たちのような英語学習者にとってもとっつきやすい文章になっています。

ぜひ、Lois Lowryの豊かで深淵な精神世界を美しい英語で投影しているこの児童文学不朽の名作を多読していただきたい、そんなふうに思いました。


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