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【洋書多読】Tom's Midnight Garden(215冊目)

『Tom's Midnight Garden』 By Philippa Pearce
 総語数: 56,032 words (by「英語多読におすすめ|定番の洋書75選」)
 開始日:2023年3月25日
 読了日:2023年4月7日
 多読総語数:7,992,839+ ? words(※)

イギリスの代表的児童文学の一つという本書。日本語版の『トムは真夜中の庭で』(岩波少年文庫)がネットで紹介されていたのを見て、原作を手にとってみたいと思いました。

僕は外大卒でありながら海外の有名な児童文学作品には全く疎く、本書のこともご多分に漏れずこの歳まで寡聞にして知りませんでした。

『The Chaos Machine』(213冊目)『Tomorrow and Tomorrow and Tomorrow』(214冊目)と、10万語以上のネイティブの大人が読む洋書を続けて読んだので、ここらで児童書に戻って一息つこう、そんな風に思って購入したのですが、これが大きな誤算でした。

語りかけるような美しい英語は、お勉強英語に染まった大人の英語学習者には読みにくい

というのもこの『Tom's Midnight Garden』、イギリス児童文学の代表作の一つと言われるだけあって、とても美しい、語りかけるような英語で書かれているんです。

どういうことかといいますと、倒置を頻繁に使った修辞的な表現、二重三重に挿入句が挟まれるなど、文章の流れを見失ってしまいやすいということ。児童書を読む最大のメリットは「やさしい英語で書かれているので英語の語順のまま英語を読み進める能力が涵養できる」ことに尽きるんですが、本書はそんなイージーリーディングを許してはくれません。

「世界一有名な社説」と言われる「Is there a Santa Claus?」という文章があります。

19世紀にアメリカの「ザ・サン」紙に掲載された8歳の女の子の「サンタクロースはいるの?友達はそんなのいないっていうんだけど」という問いに答えるものです。

稀代の名文とまで言われるこちらの文章もまた、子供に語りかけるような、修辞的なとても美しい文章なのですが、英語学習者にはやや読みにくい印象があります。若干古い英語であるというのも理由の一つですが、中・高校英語だけをきちんと学んでいると倒置や挿入句、感嘆詞の連用などに気が散らされてしまって意味を取り違えてしまいます。

また「時制」もなかなか厄介で、時間の前後関係はもちろん、仮定法、仮定法過去完了といった私達日本人には極めて厄介な英文法が多用されます。

本書が「時間」を取り扱ったSFの要素を有しているがゆえに、この「仮定法の完全な理解」がないと、物語の前後関係をややもすると見失ってしまうような、そんな難しさもまた抱えているというわけなんです。

リズムの良さを感じられるか?が鍵

それに加えて、『Tom's Midnight Garden』や「Is there a Santa Claus?」などの、知的な大人が子供に向けて書いたテクストが共通して持つ特徴である「音のリズムのよさ」もまた、場合によっては文章の難易度に大きく影響してきます。

これらのテクストは、英語の音的なリズム感を優先するあまり、若干トリッキーな語順で書かれるケースが散見されます。英語にとって、音韻やリズムの心地よさは私達日本人には少し想像できないレベルで重要です。単に意味だけでなく、音やリズム、韻といった音韻論的な修辞的技法を駆使して(ネイティブは「駆使している」という意識もないんでしょうが)書かれている文章は、子供向けであるにも関わらず、日本では大学の授業なんかで題材にされるような難易度を持っていたりします。

前述の文法的な難しさに加えて音韻要素が、子ども向けでシンプルなはずの英文を、ノンネイティブである我々にとって難しくて難解なものにしてしまっているというわけです。

ただし、この「音」に関しては、ある程度学習が進んだ英語学習者なら、英語特有の音声変化には随分慣れ親しんでいるはずなので、きっと読み進めていくうちに「心地いい」と感じるはず。そしてそれがまさに僕が、本書をつらつらと読み進めることができた大きな理由の一つになっていたりもします。

単語もなかなか難解です

ここまで『Tom's Midnight Garden』が難解である理由の依ってきたるところを述べてきたわけですが、シンプルに「単語の難しさ」も、本書を読みにくいものの一つにしています。

個人的にはこれの原因は「イギリス庭園の描写」の箇所に尽きると思っています。木や花、草の名前、庭園に用いられる様々な用具類、そしてそれらの単語の一つ一つの意味が仮にわかったとしても、それを統合して「トムの庭」というこの物語の舞台を視覚的な情報として脳内に描く力が僕にはありませんでした。

なにせ、イギリスにおける庭園がどんなものであるか、ほとんどなんの知識も持ち合わせていないので。

しかしながら、黙読しているときに頭の中に流れている「英文のリズム・音の快適さ」から察するに、それは大変美しい庭であることなんだろう、という想像が膨らんだりして、どんなものなんだか知りたくなります。

そんなときは迷わずグーグル先生の画像検索を使用しました。ネット上には面白いことに「トムの庭を実際に再現しました!」という画像がわんさか転がっていて、それらを頼りに、トムがひょんなことから冒険することになったミッドナイトガーデンを脳内に描きつつ読み進めていくことができました。

いつまでも読んでいたい、素敵な英語

とまあここまで本書の「難しさ」にフォーカスして述べてきましたが、さすが不朽の名作、切なくそして温かい物語に、すっかり感動してしまったのでした。

物語のプロットとしては、子供向けの文学ということもあり特筆すべきものはありません。タイムトラベルSFと言ってしまえばそれまでの内容も、特に目新しさ・斬新さを感じさせるものでもないです。

自分とは違った時間の流れかたなるものが存在する、というテーマはある種の哲学的な考察に耐えるものではあると思いますが、それをここで論じるのは野暮だし、そもそも僕にはそんな頭はないです。

なので、本書は「テクストが持つ響きや力強さ、情景描写の美しさなど、英文が持つ力、文学作品が持つある種の芸術性を込みで堪能することで、その豊かさや奥深さに触れることができる」そんな作品だと言っておくにとどめておきたいと思います。

事実、最初は読みにくいと感じていたテクストも、中盤以降はすっかり慣れてしまって、どんどん読み進めることができました。それに伴って、TomとHattyの「時間の流れ」をめぐる二人の世界の持つ意味や、その世界が交錯するところに生じる儚さや切なさ、そして親密さといった物語の繊細なひだを感じるようになり、最後はとても爽やかな読後感に包まれたのでした。

そんなわけで、これはぜひ日本語版を読みたいと思いました。この英語がどんなふうに訳されうるのか、英語力の不足から読み漏らしている部分があるんじゃないだろうか、そして何より純粋な好奇心から、自分の母国語でもう一度読んでみたい。

そんなふうに思ったので、越してきてからよく利用させてもらっている近所の図書館の分室で岩波少年文庫版をリクエストして取り寄せてもらいました。

しばらくはトムとその不思議な時間の世界の虜になりそうです。

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