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経済読み解き 半導体の対中輸出規制強化産業基盤に重大リスク〜すべてがNになる〜

                         2023年8月10日【経済】


日本政府は最新兵器に使われる先端半導体の製造装置などの対中国輸出規制を実施しました。米中対立が深刻化する中、米国の対中戦略に歩調を合わせました。中国側は希少金属の輸出規制を発表しました。
 (日隈広志)
 米国は「経済安全保障」を口実にハイテク分野で中国との覇権争いを強め、日本にも“対中包囲網”への参加を求めていました。
 経済産業省は5月、外国為替および外国貿易法(外為法)の関連省令を改正し、公布。対象は半導体の製造過程で生じる不純物を取り除く装置や、製造に欠かせない「露光装置」など23品目で、輸出が制限されます。7月23日の施行以降、米国や韓国、台湾など42カ国・地域には簡素化した手続きで輸出できる一方、中国への輸出には経産省の個別許可が必要になりました。
 反発を強める中国は8月1日、半導体原材料のガリウムなど鉱物資源の輸出管理を強化しました。中国商務省元高官は同国英字紙チャイナ・デーリーに対し、米国などへの対抗措置だとして「これは始まりにすぎない」と追加措置を示唆しました。報復の応酬になる危険があります。
 日本に対しても、李強首相が「大きな懸念を持っている。世界経済を妨害するものだ」(7月5日、日本国際貿易促進協会の訪中団との会談)と述べるなど、繰り返し警告を発しています。

日米蘭で7割

 米国は2022年10月、軍事的な人工知能(AI)技術を向上させる先端半導体やそれらの製造装置について対中輸出規制を強化しました。
 世界の半導体製造装置市場は、日本の東京エレクトロン、米アプライドマテリアルズ、米ラムリサーチ、米KLA、オランダASMLの3カ国5社で市場シェアの7割を占めます。米国は日蘭両国に共同歩調を求め、オランダ政府は今年9月1日から対中輸出管理を強化するとしています。
 中国は、米国企業の売上高の36%を占める最大の半導体市場になっています。米国の産業界からも懸念の声が上がっています。
 米半導体産業協会(SIA)は7月27日発表の年次報告書で、米中関係の緊張の高まりが「米国の半導体産業基盤の競争力に短期的および長期的なリスクをもたらす」と指摘。同17日発表の声明では新たな対中規制を控えるよう政府に求めました。

輸出できない

 対中輸出規制の強化は、日本の半導体産業基盤も壊しかねません。22年10月の米国の対中輸出規制の強化以降、日本の半導体製造装置の対中輸出シェアは縮小しています。
 日本貿易振興機構(ジェトロ)の企業ヒアリングによれば、日本企業からは「中国の先端半導体の生産施設に対し、製品を輸出できなくなっている」との声が上がりました。
 中国の半導体メーカーは、輸出規制の対象ではない非先端品の成熟技術の分野に投資の比重を変更しています。
 東京エレクトロンの河合利樹最高経営責任者(CEO)は5月の会見で、中国向けの先端分野の売り上げが減少し、その分を成熟分野が補っていると報告。「地政学的な関係で、最先端の投資が抑え気味」だと米中対立の影響を指摘しました。

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