シリーズ 自民党の人権思想 改憲草案に見る(1)基本的人権の根本を否定〜すべてがNになる〜

2023年8月18日【2面】


 先の通常国会では、自民、公明、維新、国民民主各党による改悪入管法や4党LGBT法など、人権を踏みにじる悪法が次々と強行されました。その背景には、政権党・自民党のゆがんだ人権思想があります。自民党が2012年にまとめた改憲草案を見ながら、いまの人権後進国というべき状態をもたらした根源を改めて検証します。

 改憲草案の決定以降、自民党は「戦争する国」づくりと一体に人権侵害を加速させてきました。草案の最大のテーマの一つが、9条2項の戦力不保持規定の削除と国防軍の保持の明記による9条の全面的解体です。

 そのもとで、安保・外交に関する情報を行政の長の一存で秘密指定しアクセスするものを厳罰にする特定秘密保護法(13年)や、人々の「内心」にまで法が踏み込み処罰する共謀罪法(17年)を強行。米軍・自衛隊基地や原発などの周辺住民を監視する土地利用規制法(21年)も成立させ、国民の知る権利と表現の自由を破壊し、モノ言えぬ監視社会への動きを強めました。

 先の通常国会で強行された改悪入管法は、帰国すれば迫害を受ける恐れがある難民認定申請中の外国人の送還を可能にするもので、命の危険を伴います。4党LGBT法は、多数派が許容する範囲内で性的少数者の人権を認めることになりかねない、差別助長の文言を盛り込みました。こうした動きの根底には、基本的人権の根本思想を否定する自民党改憲草案の立場があると言わざるを得ません。

永久不可侵性

 日本国憲法は、基本的人権の永久不可侵性を宣言しています。

 第10章「最高法規」の冒頭に掲げられる97条は、「この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試練に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたもの」と規定。憲法を「国の最高法規」と定める98条の前に置かれた97条は、基本的人権を保障する法であるからこそ憲法は最高法規なのだということを示した重要な規定です。人間が人間である以上当然に人権を保障されるという天賦人権思想を受け継いでいます。11条の「基本的人権は…国民に与へられる」との規定も、この思想によるものです。

 ところが、自民党改憲草案は、11条を「基本的人権は…権利である」に改め、97条を全面削除。同党の『日本国憲法改正草案Q&A』は、「人権規定も、我が国の歴史、文化、伝統を踏まえたものであることも必要」とし、「天賦人権説に基づく規定振りを全面的に見直し(た)」と宣言しました。

 そもそも天賦人権思想は、1776年のアメリカ独立宣言に源流があります。「すべての人間は平等に造られ、造物主によって一定の譲り渡すことのできない権利を与えられており、そのなかには生命、自由および幸福の追求が含まれている…」など、すべての人間は生まれながらに自由かつ平等で幸福追求権を持つとしています。自民党は、この近代の人権思想の根本を否定しているのです。

戦前への逆行

 戦前の明治憲法下では、「神聖ニシテ侵スヘカラス」とされた天皇が絶対的な権力を持ち、天皇に従属する「臣民」の地位に置かれた国民の権利は「法律ノ範囲内ニ於テ」しか認められませんでした。天皇絶対の専制国家のもとで、明治政府は西欧思想に由来し自由民権運動に影響を与えた天賦人権思想を敵視し、自由民権運動も徹底的に弾圧しました。

 自民党内では、戦前の日本を「美しい国」などと持ち上げる政治勢力が力を持っています。そのもとで、「人権より国家優先」という逆立ちした政治思想が支配的となっています。

 入管法問題でも、戦前の特高警察が担っていた入管実務が戦後も引き継がれたことに、人権侵害構造の根深さがあります。

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