見出し画像

カフェで恋バナ

6月の30度未満と、7月後半の30度未満とでは、体感が全く違うということに気がついた。
街ではクーラーが効いているし、空は曇っているし、きっと涼しかろうと長袖を着て出掛けたら、汗がだくだくと流れ出るではないか。
節電のためどこもクーラーは控えめで、屋内にはいってもそれ程涼しくはない。
世の流れはニュースで把握しているが、あまり外に出掛けない生活を送っていると、世俗との距離を感じてしまう。
夏はやはり夏だった。

道を歩けば人の流れに逆らって歩いていることにも気がつく。
駅から出てくる人が多い中、私は反対に駅に向かっているのだが、仕事や学校へ向かう人の流れに逆らうことは、特有のちょっとした優越感がある。
しかし同時に人の道を外れているようで、人と同じことができないことをはっきりと言い渡されたようで、不安を感じることもある。
焦りもあるが、それでも私はめげずに私の生活を淡々と送っている。

ペンをメモに走らせたら、たった5文字で漢字を間違えてしまった。
何歳になっても恋をすること、人を好きなることは素敵なことだけれど、今の自分の人生に恋を入れる余地はない。
それを許してしまったら生活が崩れることはわかりきっていて、その被害を被るのは子どもたちであることが明白だからだ。
だからきっと、「恋」ではなく「変」と自然に手が動いたのだろう。

さて、人の流れに逆らって辿り着いた先は、いつもの如くカフェだ。
朝早くから用を済ませて、まだ出勤、通学の人が多い中、コーヒーと軽食を取りながら文章でも書こうと思っていた。
店内は混雑しておらず、注文を済ませて空いた席につく。
汗が流れるほど暑いのに、いつものようにホットドリンクを頼んでしまったことを除けば、落ち着いて時間を過ごせるはずだった。

隣の空いたテーブルのさらにもう一つ向こうのテーブルから、男性の弾むような声が耳に入る。
声高に話す内容を要約すると、元カノに会って話したいと言われて会い、送って欲しいと言われたから送り、もっと話したいと言われたから話し、それから後ろから抱きつかれ、耳元で「戻ってきてほしい」と囁かれたのだとか。
同じ空間に居合わせたこちらが恥ずかしくなるような、甘く嬉しそうな声で話し続ける。

これだけなら恋愛の駆け引き楽しそうだねで済ませられるのだが、どうもこの男、元カノの言いなりであることからもわかるように優柔不断な性格なようで、元カノとヨリを戻すかを迷っているらしい。
また新たな出会いもあり、新しい子と付き合うことも検討しているようだ。

恋愛に限ったことでなく、新しいことに目を向けてほしい。
思い出は美しいが、後ろを向いてばかりでは前へは進めない。
あらゆる人間関係、または仕事自体についても何らかの事情でうまくいかず、別れや他のものを選択するに至ったのであれば、例え明確に説明できなかったとしても何らかのネガティヴな要素を含んでいるのではないか。
集中できない要素、優しくできない要素、思いやりや丁寧さに接することができない要素など。
その要素を受け入れられず別の道を選んだのだから、もう一度手にしてみたところで同じ轍を踏むと思うのだ。

恋愛事情にオープンな家庭なようで、母親と姉からはヨリを戻さず新しい子と付き合えと言われており、また相談相手の向かいに座る男性も遠回しにヨリを戻すなと言っている。
当人以外、満場一致でヨリは戻すなという意見なのだが、本人は気づいていないのか、聞きたくないのか、元カノと付き合った方が楽だと言い出す始末。
新しい子とのこれから関係を築くよりも、簡易的な恋愛がいいようだ。

元カノは他人に流されやすいタイプだと男は言うが、私からすれば似たもの同士だ。
きっと流されるままにヨリを戻して、こんなはずじゃなかったとまた別れることになるのだろうと、他人だからこそ簡単に予想させてもらう。
私が店を後にしようと席を立った時には、どちらかがだめだった時にキープしておきたいなどと言っている。

もう少し誠実さがあったらよかったのに。
気軽に付き合うこと自体は問題ないが、あまりに相手を馬鹿にしていて、相談されている男性にすら同情を覚えてしまった。
空っぽな男の、空っぽな話を聞いた、空っぽな20分だった。

恋でなく、変でもなく、好きという気持ちを大切にして、流されるのではなく、自分の行きたい方向へ行けばいいのに。

よろしければサポートお願い致します。 製作の励みになります。