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世界は尊く輝くのか

5月初旬。
春の陽気とはなかなか言えない。
気温も天気も不安定な状態が続いており、まだ春を実感できずにいた。

私はいつも通り自転車で病院へと向かう。
20分あれば着く道のりだ。
診察の予約時間ぎりぎりになりそうで少し急いではいたが、周りの景色を見る余裕はある。

谷を下り、川を渡って川沿いを走り、踏切を超えて、また坂を上る。
実感がなくとも春はしっかりとやってきていて、見上げれば緑色がさわさわと風に揺れている。
自転車で走っていると風が気持ちいい。
川には大抵カモが泳いでいるのだが、この時はどうだっただろうか。
調べたら春には北へと渡っていくそうだから、もういなかったのだろう。
足早に行き交う人々も、規則正しく進む車も、どれもいつもと同じ風景だ。

もし乳がんであったのなら、目に入ってくる全てが尊く感じ、輝いて見えるのだろうか。
がんは死に至る病であり、人は死を意識した時、世の中の見え方が変わると私は信じていた。

この後、検査の結果を聞く。
先生の直感で生検検査を行うことになり、乳がんである可能性が著しく高いと受け取っている私は、「そうではない」可能性に賭けていた。
病気であるはずはないと強く念じつつも、尊く輝く世界を見みてみたいとも密かに思っていた。

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