見出し画像

冬支度のシジュウカラ

リビングの窓から見える木々の紅葉が始まった。
枝の先の方の葉っぱから、少しずつ黄色に色づき始めている。
11月も半ばになれば、落ち葉が空を舞う季節がやってくる。

年月を重ねる中で木は成長し、窓の向こうは木しか見えなくなった。
大きくなった木では鳥が羽を休めていたり、虫を捕ったりしていて、思い思いの姿を自宅にいながら見ることができる。
食べるものが乏しくなった真冬には、我が家のベランダで育てていた植物の実を目的に、鳥たちがついばみにやってくることもある。
そしてこの秋、私は鳥の記憶力はいまひとつと思っているのだが、生存競争を生き抜くためには本能的な能力を発揮するようで、去年の冬を覚えているかのように、急に鳥の来訪が増えた。

『ココニナニカアッタハズダ』

そんな声が聞こえてきそうなくらい、何度もベランダを往復して、野鳥とは思えないほどに人間の領域に侵入してくる鳥がきた。
体は小さく雀くらいのサイズで、羽はグレーで、頭の毛は黒く、背中の白いラインが特徴的だ。
シジュウカラだ。
5、6個ある鉢植えを全てのぞき込み、土を踏みしだき、葉っぱも、落ちている何かも、隅から隅までつついていた。
上も下も、鉢植えの短い枝にも止まってみせて、枝のしなり具合さえも確認せずにはいられない様子だった。
鳥がこんなに長時間いることは滅多になくずっと観察していたのだが、こちらに全く気が付くことなく入念にチェックしている。
冬になる前に餌の確認をしにきたのだろう。

しかしシジュウカラには大変申し訳ないのだが、去年生っていた実は一年草のものですでに枯れており、今年は新たに植えていなかった。
去年人間の為に育てていたものをあまりに鳥が食べてしまうから、人間の口にはひとつも入らずに終わってしまったため、今年はいいかと春に植えなかったのだ。
冬が来る前にまさか確認しにくるとも、まさかそんなにまで期待されていたとも思わず、居心地の悪さを感じる。
――これは鳥用に、春になったらまた植えないとならない
だから今年は我慢してほしいと、鳥に言うのだけど伝わるはずもなく、「ナイ、ナイ」とつつき続ける姿はどこかいじらしい。
寒い季節の間中、ずっとこんなことが続くのだろうか。
入れ替わり立ち替わり色んな鳥がやってきては「ナイ」と吐き捨てて去っていくのだろうか。
なんだろう、この罪悪感は。
なんだろう、この後ろめたさは。
この冬は例年よりちょっと圧が強い日が続きそうだ。

よろしければサポートお願い致します。 製作の励みになります。