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ずっとお城で暮らしてる


 私が人生で一番初めに出会ったお城は、童話の中のそれだった。
『眠れる森の美女』に描かれた、そこらじゅう薔薇に取り囲まれたお城である。私は子供の頃たいそう身体が弱かったので、外遊びをすることはほとんどなく、絵本ばかり読んで過ごした。あるいは、絵本を読んでもらって過ごした。たぶんその内の一つにあったのだ。美しいお姫様が百年間、運命の時を待って眠り続ける美しくてちょっと寂しいお城が。

 ところで、「お城」と聞くと、実は人によって思い浮かべるものが全然違うのじゃないかしら、と思う。たとえば豪華賢覧この世の贅の限りを尽くしたヴェルサイユ宮殿や、夜な夜な人々が集められパーティーの行われるヨーロピアンなお城、家来たちのはせ参じる城壁高い日本城、そして運命の人しかたどり着けない薔薇に囲まれた百年の孤城。
 実際、以前ディズニーランドへ遊びに行ったとき、私は本当にびっくりした。ご存じですか?今東京ディズニーランドには二つの美しいお城がある。花に囲まれたシンデレラ城、そして物悲しい野獣の暮らすお城…。一つのテーマ―パークの中にさえ、全然違うお城があるのだ。お城はその特質上、華やかさと孤独とを同時に併せ持っている。

 私にとって、お城とはがぜん「孤城」である。どうしてかしら?と考えてみると、たぶんディズニー・プリンセスに始まるお姫様童話のためだと思う。ももっとも、それは童話の最後になって現れる、「そこで二人はいつまでも幸せに暮らしました。…」という「そこ」に当たるお城ではない。想い馳せてしまうのは、運命の人と出会う前、むしろ彼女たちがアイデンティティを築いた場所である。たとえば海深くのお城に暮らす人魚姫や森の奥で育つ白雪姫、あらゆる人に対して閉じられたアナとエルサの静かなお城、ラプンツェルが閉じ込められた扉一つない塔のてっぺん。
 世の中から隔絶されて、けれど安全な閉じられた場所。そして、だからこそプリンセスたちの持つ心穏やかさをはぐくんだ場所。私にとってお城のイメージとはそういうものである。

 私もお城で暮らしている。
 もっとも私は彼女たちのように王家の血筋は引いていないし、運命の人に巡り合い、「いつまでも幸せに暮らしました。…」という場所へ移り住むこともない。一人で、誰とも隔絶された部屋で、でも心穏やかに暮らしている。
 駅のそば、白い板材の床とグレイの美しい壁紙、そして大きな窓のあるワンルーム。これが私の安全で美しいお城。ちょっぴり孤独ではあるけれど、でも好きなものに囲まれて、薔薇に守られるみたいに安全に暮らしている。

 このブログでは、日々に出会う好きなもの、孤城で幸せに暮らすときどきに愛しているものたちの話をしたいと思います。一人でひっそりと、でも幸せに暮らす日々で私の心を明るくしてくれるものたち。私の世界の良いものが、誰かにとっても良いものになるかもしれないし、そうなればいいなと思うから。

 ちなみにこのブログのタイトルは、ある小説から拝借しました。
隔絶された安心なお城と、その外に拡がる世界の話。これはお城から出て行く話になるけれども、以下にリンクを張っているので、よければどうぞ読んでみてくださいね。





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