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夜明け前に出会った奈良の夜景

奈良の夜は暗い

 奈良の夜は暗い、という声をよく聞く。某著名人が「奈良の良いところは、暗い夜が残っているところだ」って言ってたらしい。
 確かに奈良市内の「繁華街」と称される場所をよく通るのだが、陽が落ちるとかなり暗い印象がある。飲食店なども多く人通りもそれなりにあるのだが、かなり暗い。スマホを見ながら歩く人の顔がぼーっと浮かびあがるくらいの暗さだ。
 夜の冷え込みが厳しくなるこの頃、この暗さがいまの寒さを強調しているような気がする。
 住宅街でもないんだから、もう少し明るくしたほうが賑やかでいいのに。コロナも明けて観光客も多いんだから。観光地としての華やかさを演出しようとか、思わないんだろうか。
 あー、さぶさぶ・・・

夜明け前にちょっと走ってきた

 ランニングとサイクリングが長年の趣味。今朝は朝日に照らされる奈良の街並みを見てみようと、早起きしてランニングウェアに着替えて走り出した。
 毎年1月の山焼きで有名な若草山の山頂に行けば、眼下に奈良盆地を一望できる。自宅から最短コースで約6Km。ゆっくり走って1時間かからないくらい。

真っ暗な春日奥山遊歩道

 暗い奈良の街ではあるが、街灯がところどころあるのでその灯りを頼りになんとか走ることができる。だが東大寺の参道を過ぎるとかなり暗くて、この辺りからヘッドランプのお世話になる。
 春日大社の駐車場を過ぎると、普段走り慣れた春日奥山遊歩道を行くのだが、もう真っ暗でヘッドランプで照らされたところしか見えない。恐怖感を覚えるほどではないが、距離感や方向感覚がおかしくなっているように感じる。

 そして、なかなか夜が明ける気配がない。季節が進み夜明けの時間が遅くなっていることをまったく考慮していなかったことに気づいた。こりゃ出発時刻を間違えたな。
 しばらく行くと、遠くに小さな光りを放つふたつの点が見えた。

我、神鹿なり。鹿せんべいを捧げよ!

 ヘッドランプの光が反射して、鹿の目が光っているのだ。
 昼間はつぶらな瞳でお辞儀しながら鹿せんべいをおねだりする姿が可愛らしいが、いまのこの姿はまさに神の使いに相応しい、畏れ多さみたいなものを感じるではないか。などというとちょっと大袈裟か・・・

若草山の山頂からの景色

 ほどなく若草山山頂駐車場に到着したが、あたりはまだ真っ暗。駐車場を過ぎ山頂への坂を上りながら、「朝日に照らされる街並みどころか、こりゃ完全に夜景やな」などと考えるうち、目の前が開け眼下に夜明け前の街の姿が。

2023年12月9日 午前6時15分 若草山山頂より

 いやいや、これは・・・。思わず「わーっ」って声が出てしまった。きっと真っ暗だろうという予想に反して、とても明るくて驚いたからだ。そしてほんの少し明るくなり始めた空と相まって、とても美しくて見事だ。
 自宅からほんの1時間足らずの場所で、こんな風景に出会えるとは。

初めて見る奈良の夜景

 街の中にいると確かに暗いのだが、ここまで引いてみると、幹線道路の照明や照明看板、大型商業施設の外灯など、さまざまな灯りが集積されて煌々と輝いていて、「暗い奈良」のイメージが少し覆った。
 自然と悠久の文化と文明とがバランスよく存在する、いかにも奈良らしい風景と言えるのでないだろうか。そんなふうに感じて、しばし見入っていた。
 もう50年以上も奈良市に住んでいるけど、ここから奈良の夜景をじっくりと見たのは初めてだ。暗い時間帯に若草山に登ったことが、いままで一度もなかったから。

 しばらくじっと見ていたら、せっかく走って温まったからだが冷えてきたので、自宅に向けて走り始めた。春日奥山遊歩道を下る途中で、ようやく明るくなり始めたので、ヘッドランプをスイッチを切った。

 出発する時間を早く間違えたおかげで、予想外の良い風景に出会うことができた。すごくラッキーだった。だから今日はとても良い朝を過ごすことができたと思う。

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