生橋

私は、仕事の帰りにいつもとある歩道橋を渡る。

その歩道橋は、横断歩道のある道がなく車の通りが多い道路であるため利便性向上の為に建てられたらしい。

近くには墓地があり、このお盆の季節には御墓参りに来る人が多い。

そんなある日のこと。

私はいつもより早く退社できたため、なんとなく良い気分でコンビニでお酒を買って自宅へ向かった。

コンビニのビニール袋をしゃらしゃら鳴らし、歩道橋へ差し掛かった。

それと同時に夕焼けチャイムがなり始めた。

なんともノスタルジックな気分になるBGMが街中に響き渡る。

歩道橋の階段を進んでいく。

すると、夏のはずなのに妙に寒い風が一吹き吹いた。

寒気を感じながら上を見ると、私は思わず足を止めた。

しかし、ここで不自然に引き返すと返って良くないのかもしれない。

私は何事も無かったように歩き始めた。

鼓動は高鳴り、冷や汗が滲み出る。

階段を登り終え、道路の上を直線上に進む。

大丈夫。大丈夫。気付かないふりをすればきっと大丈夫。

私は私に言い聞かした。

やがて私は歩道橋を渡り終えて少し早足で帰宅した。

なんだったのだろうか。『あれ』は。

不思議に思いつつも、帰宅後に酒を飲んだら気にもしなくなっていた。

━━数日後。

またしても早く退社することが出来た。

あの歩道橋を渡らなければならない。

すると、黒いランドセルを背負った少年が歩道橋の前で止まっていた。

行きたくても行けないような、そんな仕草をしていた。

思わず、私は「どうしたんだい。少年。」と声をかけた。

すると少年は、「お兄さんには見えないの?」と不思議なことを言った。

「なんの事かな?」

私はあくまでもシラを切り通すつもりだった。

見て見ぬふりをするのが1番いいと思ったからだ。

「あそこ、歩道橋の真ん中に、女の人がいるでしょ。」

少年はそう言って、指を指した。

見てはいけない。そうは思いつつも、恐る恐る指の指す方をみると、少年の言う、『女の人』がいた。

白装束に長い髪を前に垂らした女の人が立っていた。

おそらくあれは人間ではない。

根拠はないが、私の第六感がそう告げている。

「なぁ、少年。君にはずっとあれが見えていたのかい?」

少年は首を横に振った。

少年の話を聞くと、どうやら『あれ』は数日前から、そう、私が久々に定時前に退社し、気分が良くなって酒を買った、あの日から見えているのだそうだ。

「そうか。ありがとう少年。気をつけて帰るんだぞ。」

突然現れた『あれ』には、なにかわけがあるのではないか。

そんなことをふと考えてしまった。

少年と別れ、歩道橋を登った。

大丈夫。知らぬふりをするのが正解だ。

女のいる横を通り過ぎようとしたその時。

女は私の耳元でこう囁いた。

「見えてるんでしょ。」

ゾッとした。

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