見出し画像

「ラーメン屋のプレゼント」

A:こんばんわー
B:おめでとうございまーす!!
A:え?
B:お客様は当ラーメン店、1万人目のお客様でございます!!
A:えええええ
B:おめでとうございますー
A:うっわ、こんな大きな花束
B:お客様よくご来店いただいてる方ですよね?
A:あ、そうっすね
B:た~すかりましたぁ!!
A:へ?
B:実はですね、お客様方への日頃の感謝を込めまして
  1万人目記念のスペシャルプレゼントをご用意してるんですよ!!
A:本当ですか!?
B:出来れば、普段から当店をご利用いただいてるご常連さんに
  受け取っていただきたいなぁと!!
A:あ、ああ~。まぁ、常連ってほどではないかもしれないですけど
B:いえいえもうお若いですし、才能もおありでしょうですし
A:何言ってるんですかw
B:うってつけだと思いますよ!
A:何がですか?
B:それでは、いよいよ記念品の贈呈です!!
A:なんだろ、ちょっと引っかかる
B:まずこちらですね
A:おっ
B:署名と捺印をしていただきたいんですけど
A:は?
B:なるべく実印で
A:実印!?
B:お願いします
A:え、これ契約書?
B:……ですかね
A:じゃ、1回ちゃんと文面見せてもらっていいですか
B:ああああ
A:見せてください
B:いやいやいやいや
A:その見えにくくしてるカバーは何なのかな
B:ななな何の変哲もない普通の契約書でああああ
A:……何ですかこれ
B:そそそれはもらってからの お・た・の・し・み☆
A:帰ります
B:待って待って待って!!
A:いや、どう考えても怪しい
B:そ、そうですかね……
A:まさか「プレゼントがいらない物だったとしても返品は受け付けません」
  みたいなやつじゃないですよね?
B:どうしてわかったんですか
A:当たり!?
B:どうしてわかったんですか!?
A:え、本当に何か押し付ける気だったの!?
B:いえ押しつけだなんて
A:え、何か変な得体の知れないもの押し付けようとしてんの!?
B:得体は知れてますよ
A:は?
B:というか見たことあるものです
A:……見たことあるもの?
B:ですからもう、全然怪しいものではないですし、まあ、その
  とりあえず実印を
A:帰ります
B:あああ待って待ってわかりました教えますから教えますから
A:……なんなんすか
B:ごめんなさい
A:早く教えてくださいよ
B:……まぁ立ち話もなんですからB:花束もお預かりしますね
A:ああ、どうも
B:花束もお預かりしますね
A:ああはい
B:……はい、お冷でーす
A:本題入れって!!
B:いえいえいえほら、お冷は
A:いいから早く!!
B:あっ……ちなみにテーブルにございますニンニクと辛みそはサー…
A:サービス品ですからお好きにお使いくださいってんだろ!!
B:その通り!!
A:何回も来てるからね!!はい本題!!
B:ああはいでは……あの
A:なんなんですか、そんだけ言い出しにくいプレゼントって
B:見てもびっくりしないでくださいね?
A:びっくりさせるような物よこさなければいい
B:ああ、はい、では、えっと……お客様にはですね
A:何
B:当店ご来店1万人目の記念といたしまして
A:あーはい
B:当店そのものの
A:……ん?
B:経営権と
A:え?
B:土地と
A:土地?
B:建物と
A:建物?
B:その他諸々の設備と
A:設備?
B:あと私という雇い人をセットに致しまして、
A:うん
B:当店そのものをドドーンとプレゼントしちゃいま~~~す!!
  ……あれびっくりしませんでした?
A:びっくりというよりドン引きだね
B:ドン引き!?
A:いや、あの、この店そのものを?
B:譲ります
A:いらない
B:えっ
A:いらないです
B:で、でも
A:急に経営権引き継げって言われたって
B:でも当店がお客様にさしあげられる最高のプレゼントではないかと!!
A:確かにそうだけど!!いらないです
B:お客様は今日から私を使う身分になれるんですよ
A:知らないよ
B:ご主人様ぁB:お帰りなさいませご主人さまぁ
A:やめろ!!
B:お帰りなさいませご主人さまぁ
A:ラーメン屋に言われても嬉しくねえんだよその台詞!!
B:お気に召しませんか
A:当たり前だ
B:えーっと……エプロンにフリル付けましょうか?
A:そんなレベルじゃない!!っていうか、いらない!!
B:……お店、嫌ですか?
A:嫌というか無理
B:無理ですか
A:無理
B:……ちっ
A:舌打ち?
B:やっぱり契約書を先に書かせたほうが……
A:詐欺だから、それ詐欺だから
B:あいつの言う通りだった……
A:あいつって誰
B:あ、お客様の直前に1万人目として来たお客様が居たんです
  そのお客様にもお店をプレゼントしようとして断られたんですけど
  「もしどうしてもあげたいんなら、契約書を先に書かせるといいよ」
  って優しく教えてくれて
A:そいつが原因か
B:そのお客様はご注文なさらずに出て行ってしまったので
  ノーカウントになって、それで今お客様に
A:ノーカウント?
B:ええ
A:あ、注文しないとノーカウントなんだ?
B:そうなりま……あっ
A:さようなら
B:えええええ待って待って困ります困ります
A:こっちのほうが困ってる!!
B:プレゼント……
A:だから誰も受け取らないからこんなプレゼント!!
B:そんな……
A:受け取れないって
B:でも土地と建物だけでもざっとこのくらいの金額には
A:わお、すっごい……じゃなくて!!
B:これだけの資産価値があるのに
A:あのね……そういう問題じゃないでしょ
B:え?
A:まず記念で渡すプレゼントなんて他にいくらでもあるでしょ?
  ラーメンの無料券渡すとか記念の賞品渡すとか
B:そんな余裕なくて
A:余裕?
B:あっ、えっと
A:余裕がない?……経営が危ないのか
B:いや、まあ
A:経営が危ないからそれを人に押し付けようっていう魂胆か
B:それはもうその通りで
A:すんなり認めたーっ!!
B:ええもう開き直りますよ!!うちにはラーメン1杯たりと、
  無料でご提供するような余裕はありません!!
A:……ニンニク無料なのにか?
B:そこは、なんとか
A:はー……でもこの店結構繁盛してると思ってたんだけど
B:ニンニクが値上がりしちゃって
A:ニンニクかよ
B:最近は「しこたまニンニクをトッピングするのがここのラーメンの
 流儀だ」って勝手に提唱してるヘビーなファンがネットにいまして
A:知らねえよ
B:ニンニクの減りがものすごいんです
A:じゃあその「ニンニク絶対無料にするんだ」みたいなこだわり捨てろよ?
B:えっ……
A:まだ考える余地があるってことなんじゃないの?
B:考える余地
A:俺はこの店の経営に何の興味もないし、もらったってどうしようもないし
  そもそもあんたがやりたくて始めた店だろ?だったらあんた以外に
  ここの経営者になれる人間なんていないんじゃないの?
  あんたがこの店を続ける、ってのを最優先にしていいんじゃないの?
B:お、お客様……
A:もうちょっと自力でやってく方法考えてもいいと思うよ。特にニンニク
B:……ありがとうございます!!
A:うん……
B:お客様のおかげで自分がこの店を始めた時の熱意を思い出しました
A:あっそう
B:子供のころからラーメンが大好きで、どうしてもラーメン屋をやりくて
  修行して、やっとラーメン屋を開いたんです。でもこれが意外と
  つらくて……いつの間にかこんなお店手放していいとまで考えていました
  でもお客様のおっしゃる通り、この店は私が経営するべき、私の店です
A:うん、そうだね
B:ありがとうございます……師匠!!
A:え?何?
B:あなたはこのお店になくてはならない、私の師匠だ!!
A:いや、だから
B:是非とも!!このお店の最高経営顧問に
A:帰 る わ


☆ 朗読・音声作品用台本としてご利用いただけます。

☆ 詳しくは以下リンク先の「利用規約」をご一読ください。https://note.mu/oshikado_9/n/nd0eedc01e6b6

★ 表紙画像は「写真素材 足成」(http://www.ashinari.com )様の画像を加工させていただいたものです