見出し画像

ひとり旅が良い。

 ひとり旅が良い。
 ひとりで生きていけるなら。

 旅先で出会った人たちは皆一様に優しかった。
 けれどそれは僕が旅の恰好をしていたからで。
 いなかの人たちは、自分の「利害」の輪の外から来た人間には優しい。
 とかいの人もそうかしら。

 ひとり旅が良い。
 ずっとひとりで生きていけるなら。

 リュックサックに一生分の着替えを詰めて、一生どこの床にも下ろさず、終点へ急ぐひとり旅。
 優しさはいつも遠くに置いてきてしまう。

 背負えないものは背負わない。

 ひとり旅は良い。
 ひとりで生きていけるなら。

 ただ途中の無人駅の公衆電話で、気まぐれにいのちの電話にかけたい。
 誰も居ない静かな山中。
 列車が来るまで何時間も待たなければならない夜。
 光らない木々に埋もれた駅舎。
 寄りかかれる壁を見つけて、受話器を握りしめ、誰かの声を聴きながら崩折れたい。

 僕はひとり旅が良いよ、って。

#詩 #散文