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「適当なピザ屋」

登場人物2名。

A:店長、6時半配達で注文したピザがまだ来てない、ってお電話が
B:なんだって
A:誰か行ってます?
B:ちょっと待って……
  あー、これ誰も行ってないどころかピザ自体出来てないぞ
A:やばいじゃないですか
B:やばいな。スズキくーん、大急ぎでピザ適当に作ってー!
  ……うん、適当ーっ!なんだっけ
A:え?
B:ご注文
A:ああ、えっと、シーフードのLが1つです
B:シーフードーのL-っ!……え?いいよ適当でー!!
  ……うん、適当ーっ!!……適当適当っ!!うん、適当!!
A:店長
B:適当ーっ!…ん?
A:「適当」って言い過ぎじゃないですか?
B:あ、そう?
A:今のお電話のお客さん結構怒ってましたよ?
B:あー……まぁね。6時半配達で予約して
  もう8時過ぎてるんだから相当怒るだろうね。うける
A:いや、平気なんすか?
B:何が?
A:そんな、適当にやっちゃっても。
B:でも、急いで作るしかないしね?
A:あー
B:ちゃんと作ってたらもっと遅くなっちゃうし
A:まぁ
B:とにかく早く、ぱぱっと作ったほうがさ。
A:そうするしかないって感じですか
B:いや、「急いで作りました感」が出るし。
A:え?
B:「こんなに慌てて作ったんです!許してください!」みたいな
A:そういうもんなんですか?
B:多分
A:許してくれるんですか?
B:ああもうスズキくーん!そんなこだわらなくていいから!!
  適当適当!!
A:……いいのかなぁ
B:いいよもう、見た目とか!片方エビどばーっ、片方イカどばーっ
A:それは適当すぎませんか
B:いいよ適当で
A:これ……逆に許してもらえないポイントが増えませんか?
B:ものすごく「慌てて作りました感」は、出る
A:出ますけど
B:それでいい、適当で
A:本当にいいのかなぁ……
B:あとはね
A:はい
B:配達するお前がどう対応するか次第だから。
A:えっ、ええええええええええええ!?
B:がんばって
A:えええええええ!?
B:何驚いてんの
A:っていうか、配達行くの僕ですか?
B:そりゃあ……見てみろよ
A:あ、みんな出ちゃってるんだ……
B:頼むよ
A:いやいやいや、スズキくーん!!きちんと作って!!!
B:だめだスズキ、遅くなってしまう。
  お客様のもとへいち速くピザをお届けすることが第一だ
A:急に何もっともらしいこと言ってるんですか!?
B:エビをどばーっとやっちまえ
A:並べて!きれいに並べて!!
B:お前もなぁ……そんな真面目にやってたら仕事続かないぞ?
A:いやいやいやいやいや
B:逆に、お前は普段から配達きちんとやってんのか、っての
A:え?
B:ずーっと真面目にやってたら疲れない?
A:……いや、わりと真面目にやってますよ
B:道路交通法は?
A:もちろん守ってます
B:ま~じめ~
A:それは普通じゃないですか
B:途中で自販機のアイスとか買わない?
A:買わ……まぁ、夏は買いますけど
B:ほら~
A:いや、だってそれくらいは
B:時間余ったら適当に走って時間潰したりするでしょ
A:それは、たまにします
B:お店戻るのダルいなぁ……とか思うでしょ
A:思います思います
B:寄り道して野良犬追いかけ回してみたり
A:それはしません
B:あ、そう
A:昭和の子供じゃないんで
B:野良犬は追わない?
A:野良犬は追わないです
B:……っていうかさぁ
A:はい?
B:なんだかんだ座りながらこういう雑談に付き合ってるお前が
  真面目なはずがないだろ、って話だよ
A:……ばれます?
B:わかるよ
A:スズキくんにだけピザ作らせて
B:酷い先輩だよ
A:僕たち雑談してて
B:お前も適当じゃねえかっ
A:いや、でも僕配達担当ですから
B:俺も配達担当だし
A:いや、あんた店長だろ
A:あはははは
B:あはははは
A:……じゃなくて、真面目に考えましょうよ?
B:うん?
A:2時間も遅れて配達行くケースなんて僕初めてですから
  どうお詫びしたらいいかとかわかんないんですよ
B:いいよ適当で
A:いや、適当とかじゃなくて
B:適当適当
A:いや、どうしたらいいのかちゃんと教えてもらわないと
B:適当でいいってば~
A:えええ……菓子折り、とか持っていったらいいんですか?
B:菓子折り!?
A:いや、お詫びって言ったら土下座と菓子折りじゃないんですか!?
B:何を見てきたんだお前は!?
A:違うんですか!?
B:いや……世間的にはそうかもしれないけど
A:でしょ!?
B:でもピザの配達が、お詫びの印としてお菓子の箱持っていくと、
  なんか……ぶれる。
A:ぶれる?
B:ピザの箱 and お菓子の箱って、なんか、メインがぶれる
A:ぶれる?
B:ぶれるね
A:……でもデザートつくんだからいいことじゃないですか?
B:ああ、それはいい
A:でしょ?
B:わりといい
A:じゃ菓子折りで決定ということで
B:いや、でもなぁ……
A:え?
B:サイドメニューでアイスクリームとか売ってるじゃん、うち
A:あー。誰も買わないやつ
B:ほとんど誰も買わないやつ
A:値段高いですしね
B:その在庫がいっぱいあるから適当に何個かつければいいよ
A:お詫びの印に売れ残り押し付けるんですか
B:いいじゃん別に……
  あ、スズキくーん?今のピザにアイスクリームつけといてー
  うーん。おっけー。適当にねー。
A:はぁぁ……これで許してくれんのかなー。
B:す、す、スズキくーん!!
A:ん?
B:ピザにアイスクリーム乗せろって意味じゃないよ!!
A:スズキくん!?何した!?
B:ピザに、あ……あー。入れちゃったならいいや
A:ええええええ!?
B:いい。おっけー
A:あ、あれ、今ならオーブンから出せばまだ……
B:大丈夫、蒸発すれば空気。
A:えええええ、でも
B:アイスは蒸発すれば空気!!
A:甘さは残りますよね!?早くオーブンから出したほうが…!!
B:いや、オーブンに1秒でも入れちゃった時点で既にバニラ風味だから
A:あー……手遅れ、だったか……
B:……スズキくんを責めるな。誰にでも間違いはある
A:いや、普通ピザにアイス乗せる人いないと思いますけど
B:あとはお前のお客さんへの謝り方次第だ
A:えええええ……
B:「こんなに急いで作ったんです、だから許して。てへっ☆」って
A:言い方
B:許してニャン、でも言いけど
A:いや、あの、本当にちゃんと考えて欲しいんですけど
B:え?
A:まずもう1枚別に焼くのは確定として、
  ちゃんとしたお詫びの方法を考えないといけないと思うんです
B:今度は焼いても溶けないやつじゃないとな
A:焼かないものでお願いします
B:お詫びの印、お詫びの印、んー……そうだ、詫び石にしよう
A:詫 び 石
B:ひらめいた。詫び石配ろう
A:えっ……あの、スマホのRPGとかでシステムに障害とかが出たときに
  運営がお詫びとしてゲームが有利に進められる魔法石とかのアイテムを
  ユーザー全員に無料で配るアレですか
B:完璧な説明ありがとう
A:詫び石、って?
B:魔法の石を準備してくれ
A:あー……つまり、ピザ屋風にいえば、
  お得になる、クーポンをたくさん配るってことですかね?
B:え?適当にそこらの石配ればいいんじゃないの?
A(「適当」が適当過ぎてもはや常軌を逸している……!!)
B:そこらの石配ろうよ、石
A:いや、ピザが遅れたお詫びにそこらの石もらって
  喜ぶ地球人居ないと思いますよ
B:じゃ何か特別な石見つけて渡せばいいんだ?
A:店長、石から離れましょう?
B:宝石、とか
A:店長っ!!
B:どうした?
A:宝石はやばいんじゃないですか
B:宝石やばい?
A:だって高いじゃないですか
B:高いの!?
A:ピザが100枚とか1000枚とか買えますよね?
B:ええっ、そんなにするの!?
A(この店長もしかして相当やばいんじゃないか!?)
B:だったらもう1枚ピザつけるほうがずっと安い
A:もう1枚のピザ?
B:詫びピザだね
A:詫 び ピ ザ
B:シーフードピザのLと、あとなんか適当なピザ1枚
A(「適当」……もはや店長の適当という言葉が恐ろしく聞こえる)
B:んー。何にしようかな
A:店長……
B:ん?
A:なんだか甘い匂いがします
B:この匂いは……クレープかな?
A:さっきのバニラアイスピザです!!
B:あぁ、そうか……あれも……
  クレープだと思えば行けなくはないよね?
A:絶対行けないと思いますけど!?
B:シーフード……バニラピザ。よし。
  あのシーフードバニラピザを詫びピザとしてお届けしよう!!
A:絶対だめでしょ!?

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★ 表紙画像は「写真素材 足成」(http://www.ashinari.com )様の画像を加工させていただいたものです。

★ 同内容で投稿しています→ (前編= http://cocommu.com/script/59720a1a3fc2e6388a548248d75814ac 後編= http://cocommu.com/script/ff4a058fe436e925da421279221061f2 )