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よるクッキー。





夜になって
冷えてきて

何時間も
ぼうっとしてしまった


ひとりきりの夜は
子供のころの「夜」と
ずっとひとつづきの
ひとつの「夜」な気がする

実感や 時間の感覚は
昼の世界の舞台装置

暗転したら
ただ暗闇への親しみと
毛布のような自己憐憫
そればかりになる


それで
スタンドライトをつけた

クッキーがあった


昔いた工場のプレス機みたいに
口を縦に大きく動かして
なるべくざくざくと
音が立つように

  「砕く」という語の
  硬そうな響き

やがてクッキーはとろけて
小麦粉と砂糖の粘土になって
歯の裏にまとわりつく

それをなめとると
舌の筋肉のピリピリした痛みで
時間が再び動きだした


夜は
ありきたりな言い方にはなるけど
夜は
宇宙なのだった

昼のスクリーンをはがすと出てくるむき出しの「無」
すべての時間に跨って存在するひとつの夜
ぼくらよりずっと存在し続けるもの

そんなもの
ぼうっとみていてはいけないのだ

自分を夜と同化させてはいけない

  クッキーはぼくの一部へ溶けて
  ぼくとクッキーの境界はなくなる

乏しくなる実感をかき集めて
「ずっとある」時間の中の
「いま」を取り出さなきゃいけない

自分と外界との境界の輪郭に
怯えながら触れ続けていないと

夜になる


自分の耳に触れ
自分の肩を抱いて
自分自身に
「どうしたい?」って訊いた

ぼくは
長いこと考え込んでから
「なにもない」って言った

クッキーは
1つ減ってしまった

飲み込むと
期待に反し
身体は冷えもあたたまりもしなかった

寝ることにした
星を見るのが怖かった

蛇口をひとつひとつ閉めていった
時計は2時を指していた



#詩 #のようなもの