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21世紀のむこうへ加速するラブズを聴いてくれ

「加速するラブズ」この名を聞いて、思わずあっ!となる人間はどれほどいるだろうか。2013年に京都にて結成され、瞬く間に人気は爆発。その爆風に乗じて、関西ロックバンド界を駆け回った3ピースバンドである。

KANA-BOONやコンテンポラリーな生活、キュウソネコカミ、岡崎体育、ヤバイTシャツ屋さん、感覚ピエロ、夜の本気ダンス、ハンブレッダーズなどなど、関西ロックシーンは盛り上がりを見せていた。取り上げるとキリがないほどロックバンド(岡崎体育?)は人気を博し、大阪ミナミで毎年行われるライブサーキット「MINAMI WHEEL」は入場規制の嵐であった。その人気バンドたちに負けず劣らず、加速するラブズ、通称ラブズは確かに存在していたのだ。

数年後、まあゆるくグッドミュージックでチルっちゃおうぜ的な意味でのシティポップと呼ばれたサウンドが世を席巻し始める。もちろんそのジャンルも好きではあるが、ジャキジャキと快音をかき鳴らす楽曲は明らかに下火になってしまったように思う。自分にとってその大きなきっかけは、2017年の加速するラブズの無期限活動休止であった。

それからまた7年近く経つが、ラブズのアルバムを定期的に聴きなおしては、涙腺が緩む。ギターボーカルのカーミとドラムのいくみによるツインボーカルから放たれる、青くて臭くて恥ずかしくなっちゃうような歌詞の数々は、たとえどんな場所にいようとも、恋も酔いもすべて吐き流した鴨川や、明日の期待と不安を抱えながら、コンバースから革靴へと履き替えた東京行きの深夜バスの車内へと誘ってくれる。自分の青春時代とともに走り抜け、あの時かけられた魔法を、いまだに解いてはくれないラブズをどうしても知って欲しい。

ジュブナイルレポート

自分が明確に思い出せる初恋はいつだったのだろう。小学校に入る前なのか、それとも声が変わり始めた中学生のときだったか。その基準をはっきりと言い表してくれたような曲だ。ミュージックステーションで流れたJ-POPの歌詞を、なんとなく自分と好きな子に当てはめる。放課後その子が教室に残っているから、何をするわけでもなく隅っこの席で外を見つめる。その時吹き抜けた、校庭の砂が混じってるけれどやけに心地よい風を、この曲は思い出させてくれるのだ。男が女子に話すと他の友達に馬鹿にされる。だから話せないけど、そんなことなんかどうだっていい。あの子とおんなじ場所にいるだけで、嬉しくてたまらないんだ。

僕は君を傷つけるすべてのヤツらをマジでブッ飛ばす!!

加速するラブズ「ジュブナイルレポート」

自分は正義のヒーローで、ヒーローには、必ず守りたいひとがいるんだよ。せめて頭の中だけは、友情・努力・勝利でありたいと願った、儚い思春期を煮詰めたMVも見てくれ。

捨てられない魔法

ラブズというバンドを加速させた代表曲。今も擦り続けられる「初期衝動」という言葉だけでこの曲は言い表せない。思ってもないのに、どうしても頭の中にあの子が現れてしまう。正面から彼女を見ることはできないまま、後ろ姿や横顔がよぎる。頭の中で彼女をどうにかしたいと思う僕はどうかしている。彼女も誰かにそんな思いを持っているのだろうか。だけど、ロックンロールや青春漫画みたいな、あの子のことを考えすぎて結局なんにも上手くいかない愛じゃなくて、ただただ彼女と自分が結ばれるハッピーエンドを迎えたい。2人の世界になってくれればそれでいい。

映画で観たような世界であなたを抱きしめたいんだ
どうせ愛してしまうよ
従えるまでもなく明日は僕らのもの

加速するラブズ「捨てられない魔法」

つまらなくたっていい、何かが起きなくてもいい。主人公とヒロインだけの世界を迎えて、ただ結ばれればそれでいい。どうせ僕は彼女を愛してしまうのだから。一筋縄でいかない青春ソングもいいけど、ポール・トーマス・アンダーソンの映画みたいに、純粋に2人が抱きしめ合うエンドでいいじゃないか。

東京タワー

結成から活動休止までの約4年間の集大成ともいえる東京タワー。自分にとっては、N'夙川ボーイズの代表曲「 物語はちと?不安定」と並ぶ、男女ボーカルの名曲として挙げたい。10〜20代前半の青春時代を生き抜いた私たちは、その区切りを京都から遠く離れた東京タワーで迎える。

今夜東京タワーで 今夜東京タワーで
今夜東京タワーで 結末だけ無視しよう
今夜東京タワーで

加速するラブズ「東京タワー」

確かに活休という結末を迎えたラブズの3人は、それぞれの道を歩み始めた。しかし結成から10年近く経った今でも、私はラブズが詰め込んでくれた青春を大事に聴いている。過去を振り返って、あの時は良かったなという思いよりも、その思いをいつでも引き出せる手段をくれたこと、それを引き出してもなお、今現在の方がなんだか楽しく生きられているから、純粋に彼らの曲を聴けるのだと思う。そして、ライブを観ていた当時も今も、私にとってのギターヒーローは、フライングVを携えたカーミタカアキだ。

2022年、彼らは5年ぶりに再結成。昨年には新曲をデジタルリリースし、不定期ではあるが活動を続けている。そして今月末、京都KBSホールでのフェス出演が決まっている。一度は止まってしまった青臭いの物語が、加速し始めた。

終わらない 終わらないストーリー
21世紀の向こうへ

加速するラブズ「東京タワー」


青春がやけに遠くなった日常。それでもまだストーリーは終わることなく、着々と21世紀の向こうへ進む。私たちのほとんどは迎えることができないけれど、京都からはるばるやってきた東京タワーのもとで、未来へ期待を寄せ続けている。向こうがこっちにやってきても、ラブズが残してゆく青春は輝きを放ったまま、ずっと聴かれるといいな。


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