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クラブとお酒。

週末のTwitterのタイムラインにはたびたび、お酒好きのクラバーの皆さんのもう二度と飲まんだの、酒やめますだの、起きたら他県だっただの、そういうお酒にまつわる言葉が並んでいる。でもこれってクラブ初心者や行ったことないひとから見たら結構、勘違いしてしまうのではと思ったので、一応そういうひと向けに書いてみようかと。飲み方のススメではなく、クラブにおけるお酒の機能としての側面を解説してみたいと思う。

初心者向けのクラブ解説は他の方が良い発信をしてくれてるので、こちらをどうぞ。わたしはお酒の話だけです。あと、決して飲酒を推奨するものではありません。

【完全初心者向け】すぐわかる #クラブマナー講座 !入場、お酒、DJなど【東北ハードコア】

パーティドリンク、なんて言葉がある。

小さいショットグラスに入った度数の強いお酒のことを指す。そういえばクラブでしか見たことがない代物だ。パーティ慣れしたクラバーの皆さんは嫌な顔しつつ、内心ではちょっと喜んだりマジで嫌だったりしながらそれを飲んでいるわけだけど、普通に考えたらこれっておかしいですよね。弱いお酒だっていいはずだし、なぜかみんな一気に飲むし、小さいグラスである必要もないはず。要するにこれはクラブ文化の中に組み込まれているものらしい。

なぜお酒なのか。

「音楽とアルコールは相性が良い」と大昔に聞いたことがある。そのときは全然意味が解らなかった。それからも元気にクラブでお酒を飲み続け、普段なんもなければ飲まないのにあいつはアル中だのと悪口を言われるようになった頃、ようやくその意味が理解できるようになってきた。クラブにお酒がある理由、それはずばり意図的に酔うことで思考力を奪うことに目的があります。言葉にするとなんか陳腐だなこれ。楽しく酔うだけなら居酒屋さんでも出来るけど、そこに音楽という要素が加わることである体験に繋がりやすくなるっていう話。

すごい良かったんだけど写真じゃわかんないよね。

酔うことで起きる現象。

最近出たMarkFunkの新譜がもう最高に良くて、お酒を飲みつつ一生リピートしながらルンルン歩いて帰った後日、シラフで聴いたときびっくりした。なんて平坦な音楽なんだ、と。一定のキックとスネア、一生ループしてなんか出たり入ったりするメロ、低域が抜けたり戻ったり。おれはなぜこんな音楽を…と思った。

無論これは酔っていたからというのは確かだけど、ではどうして酔ったら同じ音楽の印象が変わるのか。これは思考が正常ではなかったからと考えるといろいろとつじつまが合う。なぜならこの曲の展開はとても簡単で、どんな音が次に来るか分かりきってるはずであり、てかこれはこの曲に限らずクラブミュージック全般に言えることでもあるわけで、にも関わらず楽しい気分になれる。つまりこれは思考力を低下させて情動が前に出てくることで、普段は微細な変化だと感じる音が大きな喜びに感じられるようになるということだとわたしは思った。ほとんどジョジョ5部のスタンド能力のアレです。

酒の効果の図解

この効果はお酒だけではない。

思うにこの効果は思考のリソースを他に割くことでも得られるっぽい。例えばドライブしてるとき、スポーツをしてるとき、ゲームのBGMなどなど、様々なシチュエーションでその効果は発揮されている。これは音楽の演出としての側面が強いけど共通していることは身体性を伴うという点です。お酒を飲んでいるわけでもないのに聴こえ方が違っているのがその証明になるかと思います。

例として。ここ長いし飛ばしてもいいです。先日、山で音楽を聴こうとハイキングにいったときのこと。登山靴を履き、土や木や落ち葉を踏みながらマイブームである邦楽インストバンドのプレイリストを流していた。登ってからしばらく、気分も乗って息が上がった頃に例の効果を感じられた。目の前にそびえる坂になった荒道が、聴いてる音楽によってスリリングに見えたりカッコよく見えたり、森林の木漏れ日がきれいに見えたり影になった部分がより濃く見えたり、岩々が硬質に見えたり優しく見えたり。これらは音楽による演出で気持ちが高揚して、ぜーぜー言って思考を奪うことで手に入れた快楽が生み出したものと考えられませんかね。そういうのに没頭すると気分が転換されたりするわけで、どっかで冷静だったり余裕みたいなものがあれば至れないのではと思います。
もう一例挙げると、フジロックなんかはこの効果を得られやすい状況だと言える。整備されてるとは言え、あれは本当に山でやってるために移動がそもそも過酷な環境だ。しかし、ああいったフェスに集うひとがフェスに通い続けるのは、まずその環境にこそ醍醐味を感じているのではないかと。そうしたものに身を置くことで音楽と環境を相乗的にブーストさせているように思えます。だって想像してくださいよ。野外の過酷な道のりを経て、遠くのデカい低音が聴こえてくるときの期待感を。ようやくステージが見えてきたときの感動を。たどり着いたその先に飛び込んでいく興奮を。

音楽で景色をいろんな風にみる。

音楽を信じてみよう。

あれこれ並べたこれらの感覚は世界共通のもので、それは人間の本能に根差したものだと思いたい。でも日本は国民性的にいわゆる恥の文化だから、そうした自身を解放するような遊び方はまだハードルが高いのかも、とも思う。でも、いまは2022年。そういうものの価値観のままでいいのかなと。学校の授業やtiktokをはじめ、若いひと達の中にダンスっていうものは比較的受け入れられてきたような昨今ですが、まだまだクラブ文化って意味では受け入れられてないように感じています。クラブ文化はもっと人気があってもいい、音楽のちからってこんなもんじゃねーぞと、わたしは思います。

お手軽な音楽体験。

お酒があってひとがいて音楽が鳴っている空間、しかも音量がデカい場所。家でやっても苦情が来る、外でやってもそう。カラオケはそもそも音が全然違うし、友達とはいえ他人の声だし。フェスは年間いくつかやっているけど、そのときの気分にもよるし日程もハードルが高い。スタジオで音楽かけまくるのも悪くはないけど、お酒禁なところがほとんどだし何より自分でかけなくちゃいけない。
そうやって突き詰めていくとクラブしかないんですよね。その空間に毎日それらの条件が、どういうわけか都合良く準備されています。不思議なことにエントランスで数千円ほど払えばいい感じになることができます。わたしがクラブを愛するのは完全にこのお手軽さで。知らない音楽の知識なんてあとで誰かに聞いてからでも知ればいいんです。ただ音楽の演出する素敵な体験をしてみましょう。そうして得た成功体験や達成感が再びお酒を飲むことに繋がって、お酒お酒と言ってるクラバーに仕上がってくるというわけです。

最後に。

お酒に焦点の当たるテーマでしたがマジで別にお酒じゃなくてもこの体験は出来るので、飲めないひと、飲まなくてもいいよってひとは全然飲まないのが大正解です。飲めるひとは自分に合ったお酒を適度に飲んで、みんな元気で楽しくいい感じに。それに当然、社会通念として言われていることですけど飲みすぎると必ず酷いことになります。お酒はあくまで思考力を落とす機能として使って、決して理性までは損なわないようにしましょう。

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