※ネタバレ【映画】ある閉ざされた雪の山荘で

『ある閉ざされた雪の山荘で』


簡単なあらすじ。演出家・東郷陣平率いるストイックな(こじらせ高尚様)劇団「水滸」の最終オーディション会場の別荘に集められた7人の俳優たち。本多雄一(間宮祥太朗)、元村由梨江(西野七瀬)、雨宮京介(戸塚純貴)、中西貴子(中条あやみ)、笠原温子(堀田真由)、田所義雄(岡山天音)+フリーの下っ端俳優・久我和幸(重岡大毅)

7人に与えられた最終オーディションとは、外部との連絡を一切断ち、一歩も外に出ることなく四日間を共に過ごすこと。外は吹雪。小さな山荘に見立てた空間の中で人が次々と消えていく。各々が探偵となり犯人を探せ。見事探し出した者が次回公演の主役に抜擢されるという。ところが、本物の殺人が起きてしまって……?


⬇⬇⬇以下ネタバレ⬇⬇⬇

※いろいろ突っ込んでいたらほぼ全編通しての説明文になってしまったので、観賞予定の方はご注意を!

























結論から言うと、この事件はオーディションと見せかけた⇒実際の殺人…と見せかけた⇒仲間の代理殺人を全力で演じ切る。という三段撃ちだったのだ。

面白かったけど、映画としてはつまらない。面白いと感じた部分が俳優の演技だったり、犯人探しという最低限約束された引きであったりで、構成の面白さとイコールではないから映画としては面白くない。

内容はオーディションだが密室でゲームをしているようなスリルとワクワクが混在し、部外者久我の視点から憧れの劇団の人間関係や実態が垣間見え、どのようにして犯行が行われたのかを辿っていく。王道中の王道、ミステリーといえばこれ、という舞台設定で何で面白くならなかったんだろうなあ?と劇中の久我ばりに眉間にしわを寄せて首を傾げてしまう。

ちょっといくつか原因を考えてみた。


原因①「非アクティブ」

まず第一の殺人が起きたときに、どこからともなく聞こえる東郷先生(CV大塚明夫)の声が司令を出す。探偵役になって事件を解明しなさい、と。何度も言うがこれはオーディションだ。彼ら、特に正規水滸のメンバーがいかに役にガツガツしていてプライドが高く、そのせいで人間関係もこじれているかなど、事前にふんだんに描かれている。さぞや競い合うようにして自己の推理を展開させ、揚げ足を取り、そのいちいちの説得力に彼らの芝居であることも忘れて全員が犯人に見えてきて、観客が翻弄される……?かと思いきや、

だーれも動かねえ。

せいぜい本気の悪口で掴み合いの喧嘩になるだけ。

「東郷先生には考えがある!」「これはオーディションだ!」と口々に言いながら久我以外誰も事件を解決しようとしない。さすがにバカでもピンとくる。ああ、オーディションなんてのは嘘だ。

四日間寝泊まりすると言っても初日は顔見せで最終日は朝の十時まで。探索は中二日が勝負になるというのに久我と貴子以外のメンバーは部屋に引きこもるか煙草吸ってるだけ。もちろん雪の山荘の設定もガン無視で裏庭に行って井戸を見つけたりする。東郷先生のカリスマ性のなさに驚くのと同時に、オーディションの体を守らない人間が三人以上はいる。つまり複数犯なのかなと予想をつけた。

ちなみにこのあと第二の失踪がおきる。花瓶で頭を複数回殴打される状況下で女が悲鳴を上げているのに誰ひとり部屋から出てこなかったので、メンバーのほとんどが共犯者あるいは、実際に殴られたわけではないのだろうと確信。

原因②「地味」

ミステリーといえば、死体だ。
真っ赤な血だまりを表現するかのように薔薇が敷き詰められた中央で女が死んでいたり、キリストのオマージュで遺体が張り付けになっていたり、そういうセンセーショナルな構図の遺体というのはミステリーの見所のひとつではないだろうか。

この話は人が消えるだけなので何も目を引くものがない。せっかく選び抜かれてここまで来た俳優たちという土壌がありながら、誰も死体の役をやらない。しかし、メタの視点から見ると今作は三段構えの構想だったはずだ。二段目の「誰かがオーディションに便乗して本物の殺人を犯している……!」と思わせなくてはならない。

殴打されて死んだ設定の由梨江の部屋には大量の血が付着していた。一瞬勘違いする仲間に「よく見ろ血糊だ!いつも使ってるだろ」とあっさり壁の血が血糊であることをバラしてしまう。もし本当の殺人が起こっていると思わせたいのならば、騙されてくれていたほうが好都合なのではないか。部屋の住人は先に失踪した温子と由梨江。無人になる部屋だ。騙されて怯えている間に理由をつけて退出させ、探偵ごっこをしているたったひとり久我だけを警戒して部屋に近づけさせないかもしくは見張っていればいい。

実際は、上記はリスクが高いので、本物の血をごく少量塗布した花瓶をリビングに置いておきます。みんな見てネ!というものだった。地味だ。
というか、いくらここを丹念に演出したところで、最初の温子の段階で久我以外の全員が探偵役を放棄したので二転三転する小気味よさは出ないだろう。


原因③「雑」

そもそも、本多と仕掛け人の三名はどの程度までイレギュラーな事態を想定できていたのか。オーディションにひとりだけ外部からの久我が紛れこむとわかった時点で、何かしら先手を打っておくべきではなかったか。

アリバイ作りの為に一晩過ごそうと持ちかけられたら、普通シナリオ変更を拒んでもっと強く断らないだろうか。「今はひとりになりたい気分なんだ」「誰かがいると寝られないんだ」等々あるが、素直に従って仲間に代理殺人演技を依頼する。別人であることを誤魔化すためにブレーカーを落とす。仲間にも不信感を抱かせる最低に次ぐ最低のアドリブではないか。なぜ最初に久我のビデオカメラを理由をつけて没収しなかった。

・頑なに見せない井戸の中身⇒結局からっぽ
・出番が終わった三人はどこにいた
・田所の不気味な恋路と脚本家気質とものまねが得意⇒付加が多いわりに全部拾われない無駄個性
・四日間ド狭いクローゼットに車椅子の人間を押し込める⇒不可能
・東郷の声を加工⇒普段聞いてるメンバーにはバレる。それなら最初から機械音声にすべき
・「あたしと東郷が寝てると思ってるんでしょ!」「寝てるんでしょ!」「寝てない!」⇒何度も話題に上るが真偽不明。
・「そして誰もいなくなった」の読書シーン⇒意味なし。
・怪しいだけの久我

「麻倉雅美について」

ことの発端を引き起こすキーマン・麻倉雅美。彼女は去年の三次選考で熱い芝居を披露したものの、落選で心が折れ、仲間とのいざこざが原因で交通事故にあって下半身不随の車椅子生活を余儀なくされてしまう。

彼女の初出は、久我の「麻倉雅美さんいないんですね」という本多への何気ない振りから。何?麻倉?誰?と私はここで久我フェイスになった。久我が冒頭、顔見せのためにパンフレットをパラパラやるが、去年のパンフレット、つまり麻倉雅美が落選した芝居のパンフレットなので写っていないのだ。

そこで急に始まる三次選考の場面。このあたりから麻倉雅美の情報足りないかも💦と感じたのか、本多の部屋の写真立てが意味深に何度も何度も映る。冒頭に三次選考の映像を持ってくれば自然に「あの子がいないぞ?」となり、久我の質問もすんなり入ってくるのだが。
ここで久我が雅美の芝居に興味津々であることが伝わったはずなのに、久我対策をまったく行わなかった本多のやる気は何パーセントだったのだろう。

落選で心が折れ、実家に帰った彼女を鼓舞(ひやかし)するために、リーダーの雨宮、温子、由梨江の三人で雅美を訪ねる。女二人連れてドライブデート気分だったろう。
チャラい軽薄さ丸出しの、薄っぺらい言葉で激励する三人は、あきらかに相手が嫌がっているのにも関わらず一切引くということをせず、相手のデリケートな箇所ばかりつつきまわし、ニヤニヤし、つかみ合いの喧嘩になって家を追い出されても、こりずにくだらない嘘をついて交通事故に発展させてしまう。
三人は雅美に対して心から申し訳ないと思ったからこそ、本多の殺人芝居に協力したのだが、あまりにも性格が悪すぎて個人的にこんなものでは帳消しにならないと思った。

そして唯一雅美に寄り添った本多だが、彼はいったいどの立場だったのか。雅美への片思いなのか、彼氏なのか、共に芝居を愛するからこその憐憫なのかわからないが、「おまえの足になる」と一生の誓いをたててみせただけでなく、彼女の殺意を肩代わりまでしようとする。

三次選考の芝居のシーンは、雅美の演技に感動している久我の映像を使いまわしてばかりなので、本多と雅美の距離感が永遠にわからぬまま、唐突に両足宣言。なんというか、同じ角度から同じものを見せられて真相が開かれていく感じが皆無である。事件真相は多角的にお願いしたい。

結局、心が死んだ雅美を再び生かすための、生かし合いの劇は幕を閉じたのだった……。

────と、いう芝居なわけ。

一連の事件は実は舞台上で展開された、久我の脚本でした。というオチ。山荘だけに三層構造でやってきたが、最後にまだ底がありましたよという大団円。

メンバーに久我が混ざっていること、本多の様子などから実際に起きたこととは思うが、もしかしたらまったく別のやり方で久我は合格したかもしれないし、雅美にも殺意はなかったかもしれない。
すべてが舞台上のことなら多少矛盾や違和感も仕方ないが、探せばこれだけの粗が目についたので久我くんにはこれからも頑張って腕を磨いてほしい。

それから、やはりこの殺人芝居を完遂するには東郷の協力なくして不可能だったと私は思う。ついに一度も登場しなかった演出家「東郷陣平」がすべて演出したことだったとしたら、それが一番すんなり納得できるかも。

吹雪の中にぽつんと隔絶された山荘は……どこにもなかった。


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