最後の晩餐

20日付で閉店になった職場の慰労会が、近所の和食料理店で行われた。

平素から仕出し料理なども受け付け、大宴会ができるカラオケ付きの大広間で、魚を中心とした贅を尽くした料理でもてなされる。特に売りは超巨大エビフライ、らしい。

私は小さい頃から仕出し系が苦手なので、贅を尽くした食事やまして巨大エビフライにもまったく食指は動かないのだが、8年間共に働いた仲間との最後の別れだから喜んで行ってきた。

まずは店長挨拶。16年の歴史に軽く触れ、ここで倒れてしまったことへの無念と謝罪。しんみりとした空気のなか、先頭の席にいた誰かがあるものを手渡した。

バースデーメガネ。

そう、奇しくも23日は店長の誕生日だったのだ。丸い漆黒のサングラスの上に可愛らしい書体の「HAPPYBIRTHDAY」の文字が並ぶチンケなメガネ姿で引き続き懸命に挨拶されたってもう悲しむことはできない。会場はすっかり笑いと拍手に包まれた。



ウナギ。↑上2枚の食事が出された段階で「あと二品ありまして、ウナギのあとにご飯が出ます」との店員さんの話を小耳にはさみ、ウナギのためにご飯とみそ汁を温めておいたのに現れたのは鰤の照り焼きだった。まさかこれがウナギの代わり……?ウナギとご飯一緒に食べたいよ……と隣の席のHさんと顔を見合わせ、辛抱強く待つ。そこから小さな器が配られ始め、「ウナギだよ!」とHさんが私の肩を叩く。配られた器を覗き込んだら温かいお茶だった。明らかに〆っぽい流れ。かちゃかちゃと食器を下げていく店員さん。それから少し経って、ウナギは運ばれてきたが、待てなかったほとんどの人間のご飯とみそ汁の器はもう空っぽだった。

席に着いた段階ですでに配られていた小さなフォーク。これは何だ何に使うんだと言われ続けて1時間。最後の最後で大活躍。これもまた反対隣のTさんが「たぶんメロンだよ!」と言っていたのでメロンを想像していたらスイカだった。美味しかった。

ここで私はそわそわしはじめる。用意したプレゼントを渡すタイミングがどうしても掴めない。長テーブルを向かい合わせた作りの宴会場は、約30人の従業員でひしめきあっている。少しでも怪しい動きをしていたらバレる。足元のプレゼントが入った紙袋が鉛のように重い。私の億劫な気持ちと連動しているのだ。これから用意したメッセージ(付箋)を、該当者に見つかることなくプレゼントに貼付することはできるだろうか。今際の際で、自分がいったいどのような流れでプレゼント渡しを想像していたのかすっかりわからなくなった。ようするに、無策だった。

仕方なく隣のTさんに袋を支えてもらいながら付箋を手に悪戦苦闘していると、真正面に座っていたH'さんに「御手洗行こう」と誘われ、荷物を持って外に出る。曰く、全部見えていたよと。

当たり前だ!私に何ができようか!!

無能がひとり、憤慨しきることし通し。

食事がすむと景品譲渡会が行われた。あらかじめ引かされたくじの番号と、同番号がついた景品と引き替えながらついでに健康保険証も回収。なんという天国と地獄。健康保険証があるから私はまだ無職じゃないという自意識に守られていたが、ああこれでついに無職かぁ、とちっぽけな感慨にふけった。

実は、閉店までの感慨疲れで、寂しい気持ちを擦りすぎてしまいさほどに出力されないのだった。寂しいの飽きた。悲しいの疲れる。プップクプップップーのプーだ。

私が健康保険証と引き換えに手に入れた景品はこれだ!

すばらしい。あきらかに御中元ギフトの余り物だということを隠しもしない潔さ。水ようかんは大好物だ。もう夏も後半戦だが、冷やしておいて平日のどっ昼間から母と食べよう(楽しみになってきた)

さて、明日から本格的なニート生活に入る。会社都合なので失業保険は前回に比べたら好意的とはいえかなり厳しいものになるだろう。贅沢はここまでだ。

贅を尽くしたあとは、税を尽くす。ってね……ニチャア。

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