『マリッジ・ブルー?』

演劇集団Cブレンド公演『マリッジ・ブルー?』を観賞した。

私が普段主として見る演劇は、狭い箱に精一杯の私物と自腹感満載のセットを並べて、演技の上手いおじさんたちと姉が汗をかきながら大騒ぎする舞台である。このほど姉含む女性二人がおじさんたちの世界観から飛び出し、Cブレンドの客演にと有り難くもお声がけ頂いたということで、母と二人行ってきた。本当は父も含めて三人で行くはずだったが、父は前日に高熱を出し、翌日つまり今日。少し良くなったと調子に乗って完治の努力をしなかったので欠席だ。観客席にひとつ穴を空けてしまったことを大変申し訳なく思う。この場を借りてごめんなさい。

『マリッジ・ブルー?』
とある結婚式場。『スイートピー』『アイリス』『カトレア』の間で三組の男女が同じ日、同じ時間に式を挙げることになった。前代未聞の忙しさに最初から浮足立つ式場スタッフ。口うるさい親族に妙に達観した小学生。わけあり新郎新婦。ブラシスコン。酔っ払い。それらすべてが一挙に押し寄せ小さな式場で全員が大立ち回りを繰り広げる、笑いあり涙ありサスペンスありの余興を越えたウエディング活劇である。

会場に入ってすぐ、男性スタッフに「おめでとうございます」と挨拶される。そう、会場に入った瞬間から私たちはマリッジ・ブルー?の世界に入り込んだのだ。式場の体で物語は始まっている。母は「え?何で?」ときょろきょろしていた。おそらく観客の中でわかっていないのは彼女だけだっただろう。
座り心地の良い椅子に腰を下ろすと、正面に十字架が映し出されている。その真下に展開される三つの扉。これが式場の三部屋を表す『スイートピー』『アイリス』『カトレア』だ。ごく簡単ながら、質の良いセット作りに惚れ惚れとする。Cブレンドは、最初の挨拶もそうだが、世界観の作り込みが丁寧で上手い。話が最後へ飛ぶが、それぞれの新郎新婦が扉を通っていくとき、向こう側に本当に客席があるかのような部屋の広がりを感じる演出とライトの光が美しくて感動した。

内容はとにかくあっちこっちから色んな人が出てくる。なんだかんだと勝手なことを言いながら、せかせかせかせかと早足で行ったり来たり。何だって、Aの来賓がBの新郎の元カノで、Aの新郎とCの新婦が付き合っていた?世界は狭い……。

情報が錯綜する合間にも新婦とその姉が号泣しながら観音開きの扉から集中線を背負って出現。バスタオル広島弁が酔っ払いながら明滅し、ぶーたれ妹が式場の微弱な電波に文句を言い、来賓三人娘が思いついたように余興の練習をおっ始め、美声を轟かす。誰かひとりくらいじっとしとれw

そして皆自分の結婚式は滞りなく終えたいものだから、当然のようにスタッフに無理難題を押しつける。翻弄されるスタッフ。黒いファイルをずっと胸に抱きしめて終始「そうでございますね」を繰り返す平和主義っぽいチーフ江守。新人の佐藤。頼れるのはテキパキと自分の職務に忠実な美容師と勤続年数五年(五年?十五年の間違いでは?)の都築だけだ。何とも心もとない治安部隊である。

その場に都合が悪い人間はすべて控え室に送り込みながら大勢の人間を舞台上で回転させる様は小気味が良かった。最後まで時間を意識しないで観た。
色々と印象に残る登場人物が多いなか、ひときわ目を引くのが美少女リングガールのティアラさんだ。
小学生とは思えないほど大人びた口の利き方に始まり、考え方も態度もあわあわする大人たちとは一線を画している。彼女はおそらくアイリス系親族の立ち位置にあたるのだろうが、親が出てくるわけでもなくご紹介に預かるわけでもなく、リングガールという情報のみで構成されていてミステリアスだ。大人たちは彼女の油断ならない観察眼を本能的に察知するのか、攻めあぐねて見事に手の平で転がされているようなシーンも存在する。

結婚式に限らず、大きな行事の本番には何かが起こるのだ。それまで入念に丁寧に準備しても、ふとしたことがきっかけで総崩れになる。笑顔で迎えるはずが怒ったり泣いたり慌てたり……その現象自体もある種マリッジ・ブルーなのかもしれないな?と思った。みんなが今日の日を幸せな思い出にしたいと願った瞬間に、収まるところに収まるのだ。
ティアラさんは子供なので、大人のマリッジ・ブルーから逸脱した存在だった。余裕のはずだ。

三者三様のマリッジ・ブルーを乗り越え、それぞれが三つの扉の奥へ吸い込まれた瞬間に、終わったんだなあという感慨で胸がいっぱいになった。

終演後、まさかのブーケトスのターンまでご用意されていて、私の目の前でおじさんがしっかりと掴んだのを目に焼き付けた。ナイスキャッチ。おじさん、幸せになって。


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