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命を守れない

1週間、仕事で石川県に行っていた。
自社の地震保険に加入し、今回の能登半島地震で被災された方々の住宅の被害状況を調査して被害程度の認定を行い、加入内容に応じて支払える保険金の額を試算する。すごく大雑把に言うと、そんな感じのお仕事。

金沢駅に程近いビジネスホテルに宿泊した。ホテルには、何かしらの災害対応の業務で駆けつけた人たちが多く宿泊していた。医療従事者、他県の水道局の職員などが目についた。
彼らの技術は、今の被災地が一番に求めているものなのだろう、と思う。甚大な被害を受けた能登地方では、未だ断水が続く地域も多い。そして、長引く避難所生活による体調の不安、感染症の蔓延など課題は山積していると聞く。

彼らは、人の命を守っている。人間の営みは、全て命があってこそ。
では、自分はどうだ。自分がやっていることは、人のためになっているのだろうか。自問自答を続けた1週間だった。

残念ながら、殆どの場合、地震保険の保険金だけで生活再建を出来ることはない。そもそも保険の仕組み上そうであることと、保険料の節約のために保障を薄くしていることが原因である。
無論、地震保険はいわゆる自助にあたるものなので、その他に公助や共助も合わせて再建を図っていくものである。

被害箇所の確認を終え、この被害状況でお客様の加入内容だと、このくらいの保険金の額になりますね、とお伝えする。
多くの方は、分かりました、ありがとう。他にも大変な人がいっぱいいるのに、来てくれて助かった。とお言葉をかけていただく。本心は辛さや不安を抱えているだろうに、感謝の言葉をかけていただけるのはとても励みになる。

ただ、中には、これしか払われないのか、こっちは長年あんたの保険に入っているのに。俺が払った金があんたたちの給料になって、いい思いして、俺らが大変な時にこれしか払ってくれないのか、との言葉を浴びることもある。
お気持ちはよく分かる。分かる。分かるだけに痛い。ただ、他の方はもっと多くの保険料を毎年払ってくれていたり、もっと大きな被害を受けていたりする。だから、そのお気持ちに保険でお応えすることはできない。
私にできることは、人として、その辛い気持ちに寄り添い、気が済むまで、いや、気が紛れるまで、そのお言葉を浴び続けるだけだ。

私の仕事では、命を守れない。お金で、少しだけその方の生活の役に立つだけ。
だから、あとは人として人に寄り添うまで。厳しいお言葉をかけていただく方にも、優しい言葉をかけていただく方にも、そして地震が起きた時の恐怖を教えてくれる方にも、今後の不安を吐露してくれる方にも。寄り添い、少しでも心穏やかになっていただくことしか私にはできない。
何の技術もないから、何もできない。だからせめて、これだけは。

滞在中、金沢では今が旬の寒ブリや、能登牛などを食べた。現地にいる職員から、ぜひ美味しいものを食べて、石川にお金を落としていってください、と言われた。
ありがたいことに美味しいものをたくさん食べた。
石川県内では、地震被害の影響が少ない地域でも旅行の相次ぐキャンセルなどで観光業が痛手を負っているとのことだ。

あぁ、でもこんな美味しいものを食べてたら、あのお客さんまた怒るだろうなあ、などと思った。でも、それはそれ。これはこれ。そんな切り替えもしながら過ごした。

石川は学生の頃に旅行してとても楽しい思い出もあり、好きな地だ。また、そう遠くないうちに行きたい。
お土産で買った、とり野菜みそで鍋するの楽しみだな。

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