23時、誰もいないオフィスで

お疲れ様でした、お疲れ様でした。
同じフロアで働く人を全員見送った。
キーボードを叩く音も、漏れ出る溜息もなくなる。
空気清浄機の音だけが響き渡る。
最後に見送った課長は「終電は23:50頃だよね。それまでには帰りなよ。」と言い残し帰宅の途に着いた。

朝のミーティングでは、実績目標に対しての進捗が悪いことを静かに詰められた。他の人はみんな頑張っている。自分の努力が足りない。種は蒔いているが芽が出ない。

やるべきこととやりたいことに対し、体力と意欲が追いつかない。やるべきことを終えずに帰宅する、これをもう何ヶ月も続けている。
やるべきことを終えずに帰宅する時は、爆弾魔のような心境になる。もうどうなっても知らないぞ!と。爆弾魔になったことはないけれど。

空気清浄機の電源を落とす。フロアを消灯する。静寂が深まる。デスクの書類の山をそれごと捨てたい気持ちをグッとこらえる。

100人弱が働く建物で、最後の1人になった。
誰かが出しっぱなしの椅子をしまう。誰かが消し忘れたエントランスの電気を消す。
23時、誰もいないオフィスで、爆弾魔になりきれない私は、誰にも知られぬまま小さな徳を積む。

誰にも知られない美徳もあるのは重々承知の上、このnoteにありついた信頼できるあなたにだけは知ってもらい、承認欲求を満たすことをお許しいただければ恐縮至極に存ずる。

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