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私に産めないわけがない、私が産まずに誰が産むんだ

今回3回目の自宅出産。きっと最後になるであろう出産で、4人目にして初の娘の出産。改めて妊娠・出産は千差万別だと思った。
(愛知県 ないとうあいり)


世の中は愛にあふれている

妊娠中に一番心に残っているのは妊娠37週。今まで順調な経過だったにもかかわらず、夜に急な胃の痛みと吐き気で救急車を呼んだことだ。今まで味わったことのない不安、痛み。痛いから不安なのか、不安だから痛むのかよくわからなかった。

まずはかかりつけの助産師Bさんに連絡。呼吸が乱れてうまく話せない。「自分で歩けないなら救急車呼んで」という冷静な声に救急車を呼ぶことを決め、夫に呼んでもらった。病院に搬送される間、とにかく謝っていた記憶がある。そして救急隊員さんの手がとっても温かかった。

病院について救急車から降りた瞬間、Bさんがいてくれて、思わず涙。「ごめんなさい、きっともう自宅ではお産できないと思います」と謝り、痛みに悶える私の右肩を、Bさんはポンポンとしながら一言。「ないない、今まで順調だったでしょう!」きっとこのまま病院で入院、出産となると思い込んでいた自分をハッとさせてくれた。

結局、点滴で胃薬を入れてもらい痛みはよくなり、数時間後に帰宅。病院の医師、看護師のみなさんがとても優しくて、”世の中は愛にあふれているんだ”、そんなことまで思った出来事だった。


“あなたはあなた わたしはわたし なんにもしんぱいいらないわ”

救急車で運ばれた数日後にふと思った。

妊娠発覚当初、2020年5月あたりは、新たな感染症のために世の中は不安であふれているような感じがしていた。私の妊娠を知った友人たちの中には「もし感染したら帝王切開になっちゃうんだよね」とか、「自宅出産でなにかあったらどうするの??」と、一見心配とも思えるその不安を私に投げかけた。

私自身開業助産師であり、自然出産にかかわっている身でありながら、そんな周りの不安や恐怖に満ちたエネルギーを必死で跳ね返していた。「何かあったらそれはその時ですよ」なんて。

そして気づいたら、”不安を消し去らなきゃ”、と私自身が感じてしまっていた。

それが出産間近の救急車事件につながったんだと、今なら思える。

そして、出産数日前、娘は、思いのほかのんびりしていて予定日を1週間過ぎた頃、突然ある言葉が降りてきた。

“あなたはあなた わたしはわたし なんにもしんぱいいらないわ”

忘れないようにこの言葉を母子手帳に刻んだ。


産まれる直前の娘との秘密のやりとり、今思えば宝物の時間

いよいよ出産の日。

破水からはじまった今回のお産は、なかなか陣痛が来ないことでもまた不安や恐怖を味わうことになった。いざ陣痛が来てもなかなか有効な陣痛にならず、痛いけどなかなか進まない、そんなお産だった。

自宅で付き添う夫、お腹の子の兄たち、私の妹、元職場の先輩助産師さん、B助産師さん、お手伝いのI助産師さん。

みんなが休んでいる間に気合のシャワーへ。なかなか産まれず、もし朝までに生まれてなければ破水もしているし病院へ行くかも、なんてことを思って弱気になり、膝をついて一人シャワーを浴びながら泣いた。泣いてしばらくすると急に吹っ切れた。

“私に産めないわけがない 私が産まずに誰が産むんだ”

そんな気持ちになり、両手で両頬をぴしゃり。気合を入れた。

するとどうだろう。一気に娘が産道を通ってきている感覚が来た。さすがに4人目だから、分かる。これは本気のやつだ。

寝ているみんなを起こさないように、どこまで我慢できるのか娘と二人で秘密のやりとり。みんなが起きた時にびっくりさせよう!となぜかそんな気持ちがした。

あの瞬間の二人きりの時間が、この子との宝物の時間だった。

シャワーを浴びて1時間後に娘は無事にこの世に産まれた。B助産師さんの「感心した」という一言がとてもうれしかった。

早いもので娘はもう3か月になる。4人の育児は決して楽ではないけれど、毎回毎回新たな気付きをくれるこの子たちは、やっぱり私の先生なんだと思う。

日々の生活でふと忘れてしまうけど、救急隊員の手の温かさ、母子手帳に文字を刻んだあの時、産まれる直前の娘との秘密のやりとり。いつでもあの時に戻ることができる。

妊娠出産は本当に不思議だ。


(紹介者:大竹かおり)

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