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「新型コロナはただの風邪。インフルエンザの方が怖い」は誤り

[2024/3/9更新]
「新型コロナはただの風邪。インフルエンザの方が怖い」は誤り。明らかな官製デマである。発端となった第111回ADB資料は、新型コロナは過少、インフルエンザは過大に評価された不適切な比較である。実際は、これまでの国の公表数値は全ての指標で新型コロナが上回る。最新の論文もそれを裏付けている。

【解説】
第111回ADB資料で、新型コロナの致死率や重症化率が季節性Flu(インフルエンザ)を下回る数値であったことから「新型コロナはただの風邪」という誤った風評が拡まったもの。この数値のソースは奈良県立医大の野田准教授がかなり前の第74回ADBに提出した資料である。その注釈には「季節性Flu以外の理由での死亡や入院が含まれていることに留意が必要」とある。一方、第111回の資料の注釈には「新型コロナは(中略)特に致死率について過少である可能性がある」とある。つまり、これらの数値は、新型コロナは過少、季節性Fluは過大に評価されており、文字通り「参考」程度の扱いに留めて、比較検討に使うべき数値ではない。
 これまでの国の公表数値は全ての指標で新型コロナのリスクがあ季節性Fluを上回っている。なぜ第111回ADBで再計算して異なる数値を示したか、その意図はわからないが、わざわざ再計算しなくても、第74回ADB当時とそれ以降に公表された他の資料や人口動態統計などの公式数値があるので、それを使用して改めて比較すると以下になる。

[死者数]
新型コロナ
2020年 3,466人
2021年 16,756人
2022年 47,635人
2023年 34,518人 (1〜10月)
季節性Flu
2015年 1,130人
2016年 2,262人
2017年 2,566人
2018年 3,325人
2019年 3,571人
2020年   956人
2021年      22人
2022年     24人
2023年   515人 (1〜10月)

[致死率]
新型コロナ
(BA.1)0.13%
(BA.5)0.08%
季節性Flu
0.01%(関連死を含めると0.05%)
[感染力]
季節性Fluとの比率 δは4倍,οは12-16倍

※死者数は人口動態統計の公表値で比較、致死率と感染力は他のADB資料と内閣官房新型コロナウイルス感染症対策分科会の資料を使用。
※ο株は致死率が低減したと言われるが、公式資料では依然として新型コロナの方が高い。BA.1株が約0.13%、BA.5株が約0.08%(2022/11の東京都の分析では0.09%)、季節性インフルエンザが約0.01%(関連死を含めても最大で0.05%)。
※感染力については、厚労省報告ではエアロゾル感染の麻疹相当とされ、ο株がδ株の3〜4倍、δ株が季節性Fluの4倍とされている。

◾️第111回ADB資料(2022/12/21)
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001027743.pdf

◾️第74回ADB資料(2022/3/2)
奈良県立医大 野田准教授作成資料https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000906106.pdf

また、単純な数値比較だけでは評価を見誤る。
以下のようなことも踏まえて考察すべき。
1. 季節性Fluがゼロになるほど感染対策を徹底した結果の数値なので、そうではなかった新型コロナ以前の数値と単純には比較できないこと
2. 「重症化」の基準が初期武漢ウイルス当時の呼吸器不全のままなので、呼吸器不全を起こさないο株では、重症化と判定されないまま軽症や中等症からいきなり死亡するケースが増えていること
3. ウイルスの毒性が弱まったのではなく、ワクチン接種率の増加や集団免疫の獲得が進んだことで、感染しても重症化し難くなっていること
4. ウイルスの毒性が弱まっても、それ以上に感染力が強まれば、結果として大量の死亡者数を出すことになること

死亡者数は毒性よりも感染力の影響が大きい
[赤線]感染力、毒性とも普通
[緑線]感染力は同じ、毒性が低下
[青線]毒性は同じ、感染力が低下

◾️人口動態統計
      2019/12,2021/12,2022/12,2023/2
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/81-1a.html

最新の論文でも裏付けられている。

◾️Epidemiology & Infection (2023/8/25)
新型コロナウイルスのオミクロンはインフルエンザの4倍の死亡リスクがあるとハーバード大医学部が示した。
https://www.cidrap.umn.edu/covid-19/covid-omicron-carries-4-times-risk-death-flu-new-data-show

◾️LANCET (2023/12/14)
季節性インフルエンザでもCOVID-19でも入院後の死亡率や健康上の有害転帰は高いが、この比較分析から、COVID-19による入院は、季節性インフルエンザによる入院よりも、ほぼすべての臓器系(肺系を除く)における死亡や健康上の有害転帰の長期的リスクが高く、累積過剰DALYが有意に多いことが示された。
https://www.thelancet.com/journals/laninf/article/PIIS1473-3099(23)00684-9/fulltext

その他、様々な記事,公表,意見でも示されている。

◾️古瀬幸広氏https://twitter.com/yfuruse/status/1594350144979206144?s=20&t=ujSmUcp2HcH2u1G2FPy-sQ

◾️@takaku2021https://twitter.com/takaku2021/status/1594499434767056900?s=20&t=ujSmUcp2HcH2u1G2FPy-sQ

◾️厚労省 第73,74回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード資料(2022/2/24,3/2)
[致死率]
ο株(BA.1)0.13%
Flu(関連超過死亡ベース)0.01-0.05%
Flu(人口動態統計ベース)0.006-0.018%
Flu(28日以内のインフル以外も含む全死因)0.09%
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000901894.pdf
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000906106.pdf
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA02AR20S2A300C2000000/

Flu(関連超過死亡ベース)0.01-0.05%
Flu(人口動態統計ベース)0.006-0.018%
Flu(28日以内のFlu以外を含む全死因)0.09%
日経新聞2022/3/2記事

◾️新型コロナウイルス感染力
・ο株の感染力はδ株の4倍(厚労省報告)
https://www.jiji.com/amp/article?k=2021121601308&g=soc
・δ株の感染力はFluの4倍(CDC報告)
https://medical.jiji.com/topics/amp/2242
https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/70/wr/mm7031e2.htm

◾️MRI三菱総研(2022/8/3)
変異株による感染波の推移
第6波ο株の平均致死率0.2%
https://www.mri.co.jp/knowledge/column/20220803.html

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◾️内閣官房 第18回新型コロナウイルス感染症対策分科会(2022/9/16)
[致死率]
ο株(BA.5)0.08%
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/taisakusuisin/bunkakai/dai18/gijisidai.pdf

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◾️2022/11/7 NHK (東京都の第7波分析)
[致死率]
ο株(BA.5)0.09%
https://www.nhk.or.jp/shutoken/newsup/20221107a.html

◾️厚労省 第109回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(2022/12/7)
◾️厚労省専門家会議組織(2022/12/14)
「感染力など新型コロナの特徴を評価した結果「季節性インフルエンザと同等と判断できる条件を満たしていない」とする見解を公表。季節性インフルのような状態になるには「相当な時間を要する」と結論付けた。
https://news.yahoo.co.jp/articles/ccb838513b2d15efccc23ca24b524caef94c48e0

◾️(参考)重症化の基準
「厚労省COVID-19診療の手引き」
https://www.mhlw.go.jp/content/000936655.pdf

◾️(参考)インフルエンザ死亡1万人について
よく引き合いに出される「インフル死者1万人」の数値は、超過死亡からの推定値なので比較として相応しくない。
https://note.com/osamu_iga/n/n07806e52c964

◾️(参考)CFRとIFRについて
致命率CFR: 死亡者数/確定診断された感染者数
感染致命率IFR: 死亡者数/推定した全感染者数
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/web/19/050800015/051100003/?ST=m_column

【番外編】
DIAMOND ONLINE記事でBA.5の致死率がFluより低いとあるので解説する。算定の表を確認すると死亡者数 は7月のみ。第7波(BA.5)死亡者のピークは9月初頭なので、なぜわざわざ7月で比較するのか疑問。7〜8月の死亡者数で算定した厚労省資料(9/16)の方がよほど正確である。

◾️DISMOND ONLINE記事(9/26)
https://news.yahoo.co.jp/articles/58023e85f825029bc9eab93eb6154915b8c0b73f

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