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「マスクが子供の社会的発達を阻害する」とする科学的根拠は不明

[2023/8/19更新]
「マスクが子供の社会的発達を阻害する」とする科学的根拠は不明。マスクと子供の発達に関する調査研究の中で明確に有害とする論文は見当たらない。大人が心配する以上に子供には適応力があることを踏まえた適切な感染対策が求められる。

◾️【PLOS 2022/9】Children’s emotion inferences from masked faces: Implications for social interactions during COVID-19
マスクをすると子供が相手の表情や感情を読むことが出来ず発達に悪影響を与えると心配されるが、本論文の実験では顔の一部が覆われても感情を正確に推論することができた。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33362251

◼️静岡大学・畿央大学 (2023/5/4)
マスクやサングラスの着用は、未就学児の感情の読み取りに影響を及ぼすものの、大きな懸念となるほどのネガティブな影響ではないことが明らかになりました。マスクやサングラスを着用していても、感情を込めて話をすることで、その影響は解消されることもわかりました。
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/15248372.2023.2207665
https://www.shizuoka.ac.jp/cms/files/shizudai/educms/0100/Bn3edIk1.pdf

◾️富山大学 (2016)
マスク着用が保育に及ぼす影響に関する保育者の認識についてのアンケート調査。保育者の表情が読み取り難い心配があるが感染対策を優先、但し常時マスクは避けるべきと回答。特に2歳児未満のマスクは不要。
https://toyama.repo.nii.ac.jp/?action=repository_action_common_download&item_id=12548&item_no=1&attribute_id=18&file_no=1

◾️日本看護研究学会 (2016/8/21)
マスク着用の母親に対し、マスク着用・非着用に関わらず乳児は母親の顔を認識していると示唆される。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsnr/39/3/39_20160729138/_article/-char/ja/

◾️マイアミの調査(2021/9/13)
3〜4歳児クラスの生徒と教師に言語環境分析装置を着用させ、発せられる言語音の数を追跡調査した。結果、マスクをつけていてもいなくても言語学習・生成能力に変化がないことがわかった。
https://news.miami.edu/stories/2021/09/psychologists-masks-do-not-impede-preschoolers-language-development.html

以下の新聞記事を根拠とする意見があるが、これは元論文を誤読したタイトルである。元論文には「閉鎖や登園回数の減少が要因」とありマスクが原因とはひと言も書かれていない。論文著書も誤った記事と認めている。

◼️産経新聞 (2023/7/12)
(現在は「マスク着用が原因か」の一文が削除されている)
https://www.sankei.com/article/20230711-3XNXG2RQU5IZZGZEHOFBDOCGFE/

他にも以下のような論文を根拠する意見があるが、これらの論文は大人を対象にしたマスク着用による発話の明瞭度を調べた実験であり、騒音環境下や難聴者に対しての会話や医療等の特殊業務では留意すべきなどの結論である。前述で紹介した論文のような、子供の発達への影響に言及した論文ではない。

■【JASA 2021/9】Intelligibility and recall of sentences spoken by adult and child talkers wearing face masks
本研究はマスクが成人および小児の音声の明瞭度と想起に及ぼす影響を検討し、マスクが音声知覚に及ぼす影響に関する現在の理解に貢献する。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34598631/

■【ON 2022/3】How Face Masks Interfere With Speech Understanding of Normal-Hearing Individuals: Vision Makes the Difference
模擬マスクを装着と非装着を実験。装着した場合の音声理解は有意に悪化した。このデータは一般的に騒音を伴う多くの日常的な状況において役割を果たす可能性を示唆している。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34999618/

■【JASA 2020/12】Effects of face masks on acoustic analysis and speech perception: Implications for peri-pandemic protocols
本研究はマスクが健常者の音声の音響分析と知覚明瞭度にどのような影響を及ぼすかを調べた。本研究で得られたデータは、顔面マスクは音声信号を変化させるが、いくつかの特定の音響特性(例えば、声質の測定)はマスクの種類に関係なく、ほとんど影響を受けないことを示している。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33379897/

■【JASA 2022/1】The Influence of Face Masks on Verbal Communication in Persian in the Presence of Background Noise in Healthcare Staff
医療現場におけるペルシャ人看護師の発話理解度にマスクが及ぼす影響を調査したもの。マスクの着用はペルシア語を話す看護師の言語コミュニケーションにかなりの影響を及ぼす。医療現場における背景騒音はマスクの発話理解度を悪化させる可能性がある。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35095185/