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05.16|〈プレーオフ〉仙台@茨城|チームカルチャーをつくる

B2プレーオフのセミファイナル、茨城ロボッツと仙台89ERSのシリーズは、勝ち抜いた方がB1昇格を決める大一番。結果は茨城が2連勝を飾って見事にB1初昇格を決めました。おめでとうございます! ちなみに、私は茨城がやや有利とみて2勝1敗の予想をしていました。勝敗数は違ったけど、おおむね予想通りの展開だったのではないでしょうか。

さておき、敗れはしたものの、茨城戦での仙台の印象は鮮烈でした。それは「負けてなお強し」といった戦力的なものだけではなく、観るものの胸をうつ何かがあったからでしょう。私はそれを「チームカルチャー」と呼びたいと思います。

仙台のスローガンは「grind」(グラインド)。石臼やミルを使って何かをごりごりと削り出すイメージです。この言葉をバスケットボールのスタイルに当てはめるならば、劣勢でも最後まで諦めず、ボールに喰らい付き、ディフェンスで粘って勝機をたぐり寄せる…。そんな感じでしょうか。実際それは今回のプレーオフを通して大いに発揮されました。西宮戦での渡辺のブザービーターなどはその真骨頂でしょう。

ただ、GAME1の序盤で躓き、大差を跳ね返せぬまま17点差で敗れた時、正直「もはやこれまでか」と感じました。シーズンの最終盤でルブライアン・ナッシュを怪我で失った状況で臨んだプレーオフ。第2シードの西宮に対してアップセットを演じたものの、やはり観客のいる完全アウェーでは「grind」するのも難しい。そんな諦念はしかし、早過ぎるものであったことをGAME2の開始早々に知ることになりました。

これがGAME2に対する仙台の「アンサー」でした。同時にそれは自分たちが大切にしてきたカルチャーを相手に見せつける闘志であり、会場に詰めかけた観客たちや画面越しに観ている人々にまで送るメッセージでもあったのでしょう。

GAME1の立ち上がり、仙台はディフェンスをゾーンでスタートしました。これを観て、私は違和感を覚えました。あの仙台がゾーンから入るなんて。強度の高いディフェンスでペースを握ろうとする仙台にとって、それは自殺行為のように思えたからです。結果的にその戦略は茨城の平尾や福澤らのスリーをまともに被弾することとなり、早々と修正を余儀なくされたわけですが、自らの強みをみすみす見失ってしまったような感じがありました。

しかし、一夜明けたGAME2で、仙台は自分たちのカルチャーをもう一度見つめ直しました。それがファーストプレーのあのスティールに象徴されていたように思います。前半はわずかにリードして折り返し、後半、目まぐるしく流れが入れ替わる中で、茨城に何度も突き離されそうになりながらも懸命に喰らい付きく姿はまさしく「grind」そのものでした。

思えばGAME1でも序盤こそミスが連続したものの、その後は持ち直し、後半だけを見ればスコア的には上回っていました。点差が離れようとも、スリーがまったく入らなくても(3/24=12.5% )、愚直にセットを組んでシュートを打つスタイルを貫ける強さもまた仙台のカルチャーです。「grind」にはこすって、研いで、磨き上げるという意味もあります。

プレー面では、ピックプレーからペイントへアタックするハンドラーおよびパスコースが完全に封じられていたGAME1からきっちり修正され、ビッグマン2人が適切な距離を保ってボールを受け、バックダウンからゴール下へ潜り込む得意のプレーが何度も見られました。あ、これも「grind」だね。

ジェイコブセン&ミラーはリバウンドでも奮闘。GAME1のような囲まれてからの苦し紛れのインサイドアウトもなく、月野や澤部もオープンになれば躊躇なくシュートを打っていました。プレーオフを通して、カルチャーそのものもまた研ぎ澄まされたのでしょう。

渡辺翔太という「grind」をプレーで代弁するような新たな才能もブレイクし、来季こそ悲願のB1復帰を目指す仙台。明確な方針を示して選手を集め、観客を魅了するチームはB2では少ないからこそ、その輝きはいっそうまばゆく映ります。

ちなみに、そんな仙台のチームづくりの方針や運営についてはバスケ雑誌『ダブドリ』に詳しいレポートが連載されていますのでぜひどうぞ。




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