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02.14|佐賀@西宮|かけ算から足し算へ

2021年が明けてから絶好調の西宮。それまでのモタつきが嘘のように、あっという間に西地区首位へ。そのきっかけは言うまでもなくマット・ボンズの加入です。以前、その動きについては書いたことがあり、悲観的な予想をしていたのですが、見事に外れました。合流して初めての試合だったこともあり、完成度はまだまだだったのでしょう(言い訳)。

読み返すと、コート内で起こった「アクション」に対する「リアクション」が速いと書いていますが、その印象は数試合を経ても変わりません。主役を張る選手ではないけれど、チームに一人いるとものすごく助かる。では、どんな変化があったのか?

ストークスブースターにセン北さん(https://twitter.com/centerkitamura)という、西宮のチーム・個人スタッツをエクセルにまとめている奇特な、いやとても熱心なファンがいます。私のような怠惰なウォッチャーには到底真似のできない所業です。そのデータを紐解いてみることにします。

■西宮のシュート割合の変化と勝敗数( 3P|ペイント外|ペイント内)
2020-21① 29.8%|24.6%|45.6% 6試合(3-3)
2020-21② 31.4%|19.7%|48.9% 23試合(12-11)
2020-21③ 31.2%|16.8%|52.0% 8試合(7-1) ※2/11奈良戦まで
(参考:2019-20 34.0%|14.5%|51.5%)

①は外国籍選手が短期契約のアレクサンダー・ジョーンズ1人だった期間、②はルオフ、ムボジ、ジョーンズ3選手の合流後、③はルオフが退団し、ボンズが加わって以降です。ちなみに、シュートが決まった数(FGM)じゃなくてシュートを打った数(FGA)ね。

顕著な変化はボンズの加入によってペイント内シュートがぐぐっと増えたこと。スリーはほとんど変わっていないので、単純にペイント外でのシュート機会が減って、ゴールの近くでシュートするようになったと考えていいでしょう。ブラッドリー・ウォルドーというインサイドの柱がいた昨シーズンより増えているのは驚きです。

「PFはヤダ」と言って退団した選手の代わりなんだから当たり前と思うかもしれませんが、話はそう簡単ではありません。選手登録はPFですが、身長196cmのボンズは決してインサイドでのポストプレーが得意な選手ではありません。にもかかわらずインサイドでのシュート機会が増えている。ここに西宮の好調のポイントがありそうです。

これを解く鍵になりそうなのがオフェンスリバウンド(ORB)です。同じように比較してみましょう。

■西宮のオフェンスリバウンド数の変化
2020-21① 9.2
2020-21② 9.7
2020-21③ 15.3 ※2/11奈良戦まで

外国籍選手が1人から3人になってもほとんど変わらなかったORB数が、ボンズ加入後は一気に15本まで増えています。この期間だけの数字なら堂々のB2トップ。ボンズのプレーで特に目立つのが、ゴール下での奮闘です。外れたシュートのリバウンドに食らい付き、相手に取られそうになっても絡んでいく。試合を観ている印象とも合致していますが、まさかこんなにも増えているとは。ボンズ自身のORBのアベレージは3.5なので、ボンズがゴール下で競ることによって、チップしたボールをムボジや別の誰かが取るケースも増えているのでしょう。連勝中の西宮の対戦相手を見ると、外国籍選手が揃っていないチームとの対戦が多く、やや極端な数字になっている可能性もありますが、ボンズのハードワークが西宮を変えたのは間違いなさそうです。

ところで、西宮が好調に転じた大きな要因として、シューティングの改善でがあります。これもまた数字の変化を追ってみましょう。

■西宮のシュート成功率の変化(3FGA/3FG%|2FGA/2FG%)
2020-21① 18.2本/28.2%|42.8本/58.43%
2020-21② 19.7本/30.5%|43.2本/53.8%
2020-21③ 22.5本/ 37.6%|50.9本/51.7% ※2/11奈良戦まで

なんだよ、結局シュートが入るようになっただけじゃないか。そう感じる一方で、シュートを打つ数自体も増えているのがポイントです。3FGAも2FGAも共に大きく増えていて、最初に見たシュートの内訳とも考え合わせると、ボンズ加入でORBが取れるようになったことでゴール付近のシュートが増え、必然的に高い確率で決められるようになったということ。桜木花道の「自らとーる」みたいに、何度も跳んで最終的に押し込むみたいなシーンもよく観られます。

地を這うような確率だったスリーが改善してきたことと、ボンズの活躍を結び付けるのはなかなか難しいのですが、オープンをつくることにこだわっていたこれまでと比べて、思い切りよくシュートを打てるようになったということでしょうか。

いや、この「思い切りよく」という部分こそ、ボンズが西宮にもたらした最も大きなインパクトだったのかもしれません。持ち前のタフネスと頑強なフィジカルを活かし、スクリーナーとして身体を張ったかと思えばORBに飛び込み、守備から攻撃に転じれば自らボールをプッシュしてフィニッシュまで一直線。ここ最近は、スクリーンからポップした後、ウィングからドライブを仕掛けるようなプレーも観られるようになってきました。スリーはまだお勉強中。

ハードワークし、シンプルに攻める。マット・ボンズが体現するバスケットボールは、今季のこれまでの西宮には欠けていたものでした。そんなボンズの勢いに引っ張られるように、他の選手たちも生き生きとプレーするようになりました。これまではボールムーブとそれに合わせたスペーシングでオープンをつくることに精一杯で、肝心のシュートの精度が上がらなかった。システム重視のバスケットは確かに志の高いものではありましたが、相手を崩すことにこだわり過ぎた結果、自分たちのプレーを見失わせ、本来高いはずの選手個々の能力をフラットにしてしまいました。その象徴であったアレクサンダー・ルオフの退団と共に、理想は終わりを告げたのです。

理想から現実へ。上を目指して羽ばたくバスケットから、地に足のついたシンプルなバスケットへ。そんな西宮の転換は功を奏しました。スクリーンを起点にしたオフェンスは同じでも、「工数」がずいぶん減って、ズレやミスマッチをつくることにフォーカス。全体的にはワイドにスペーシングするものの、ボールサイドではスクリーンからのシンプルなアタックが多く、タイミングのいいドライブと精度の高いミドルシュートが持ち味のデクアン・ジョーンズが、より生きる形となりました。道原や渡辺といった決定力とアシストを兼ね備えたプレーヤーも自ら決める意識がアップ。もちろんボンズのやや強引なドライブも効いています。その逆サイドで、シューターたちが余裕を持って待てるのがスリーの改善の理由でしょうか。

相手を崩すための複雑なシステムから、個人の突破を起点にしたシンプルで思い切りのいいオフェンスへの移行。これは言い換えれば、選手の能力を信じるということでもあります。上手い選手たちを集めてシステムを組めば強いだろうと思っていたら、むしろ選手の個性を消してしまったのが前半の西宮。ならば、もともと高い選手の能力をそのまま活かせばいい。マット・ボンズのシンプルに勝つためのプレーを続けるハードワークが、そこにピタリとハマりました。ルオフと共に挑戦したシステマティックなスタイルが、ハマれば何倍ものパワーを発揮する選手同士の掛け算ならば、ボンズと一緒に目指すバスケットは選手の能力や個性をシンプルに組み合わせる足し算。縦の糸はあなた、横の糸はわたし。

そう考えていくと、先述のFGAの増加も戦術としては納得です。いくらORBが増えたからといっても、自然にここまでFGAが増えるわけはありません。意識的にテンポを上げ、シュートをたくさん打つようになったのです。わたしのnoteの熱心な読者(そんな人がいるのか)ならすでにお気付きでしょうが、西宮にとってシュートを打つ回数を増やすというのは、ここ数シーズンの傾向から考えると、コペルニクス的転回と呼んでいいほどの大きな変化です。道原や谷らシュート精度の高い選手の多い西宮は、試合のペースを落としてシュート機会を厳選し、期待値をより高めることで自らの優位性を発揮するのを戦略の大方針としていたからです。

選手を信じ、能力を存分に活かすバスケットへの転換が、ペースを早め、テンポよくシュートを打つスタイルを導いたのです。そもそもシュートの得意な選手が多い西宮にとってそれは悪くない選択であり、結果的にボンズをはじめ新しく加わった渡辺や今野、若手の浜高や岸田らの個性を引き出すことに繋がりました。

余談だけどボンズの役割って、要するにドゥレイロン・バーンズなんだよね。リバウンドからボースプッシュしてランニングプレーからねじ込み、停滞したオフェンスの中でも強引にドライブをして相手を引き付ける。バーンズ先生ほどのシューティングはないけれど、それは他の選手がやってくれるからさ。その代わり、ゴール下の強さと決め切る勝負強さがある。うん、お釣りが来そうだ。

首位攻防戦となった佐賀との対戦でしたが、苦しみながらも2連勝。佐賀の司令塔であるガルシアを、今野を中心に西宮のディフェンダーがよく抑えていたのも一因ですが、オフェンスの意識もかなり高かった。2桁リードを一時逆転されたGAME1の終盤でも、逃げ切るのではなく得点して勝つのだという気迫が見て取れました。接戦を抜け出して最後に突き放したGAME2もオフェンスでの勝利という印象。実際、シュート成功率も高かった。

下馬評の高かった西宮がいよいよ本領を発揮し始めました。点を取るのはシステムではなく自分たち。そんな原点を、選手たちもHCもやっと信じられるようになったのかもしれません。

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