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B2|2021-2022シーズン展望#4|熊本ヴォルターズ

4回目にして初の西地区。熊本ヴォルターズを取り上げます。悲願のB1昇格をかけて、チームを大きな変化を迎えようとしています。「昇格以外はすべて失敗」とでも呼べそうなシーズンには、強さだけでなく将来を見据えた内容まで求められることになります。

■2020-2021シーズン

あと一歩でB1を逃した2018-19シーズンのオフ、失意にあった火の国に降り立ったのはキング石川海斗。しかし、中西良太とのコンビで挑んだ1年目は機能せず、期待を裏切る結果に。背水の陣となった2年目、新たな相棒としてやってきたのはマーベル・ハリス。奇策とも言えるダブルPGでしたが、最適解を見出せぬままハリスは退団。個人的にこの方針は大好きだったのですが(だって面白いから)、「両雄相並び立たず」という言葉を何度も噛み締めることとなりました。

昨季のスタート時を思い出せば、PGのバックアップは手薄で、そこを補強すること自体は間違ってなかったと思います。熊本の問題はそれよりも誰がどう点を取るのかが定まっていなかったことにありました。キングの支配力を活かすのか、佐々木や木田ら若手選手の得点を伸ばすのか。そんな風にもともとオフェンスのオプションが多いところに持ってきたのがイバン・ラベネル やジャヒード・デイビスという多投タイプだったのがね。あちらを立てればこちらが立たず。ハイライトプレーは飛び出すわりにオフェンスのレーティングはイマイチで(102.4/9位)、タレントは揃っているのに上手くいかないチームの典型のようなシーズンでした。編成って大事。

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■オフの動き

熊本にとって今オフの最大のテーマは石川海斗との再契約を選ぶかどうかでした。石川の強みを最大限に活かすためには、そのためのサポート役が必要です(スクリーナーとかシューターとかね)。もちろん、それだけの価値がある選手であるわけですが、必然的に伸び盛りの佐々木や木田らのプレー選択を限定せざるを得ず、それらを天秤にかけつつ、昇格を本気で目指す場合には、「石川で本当にいいのか?」を改めて考える必要もありました。結果的に熊本が選んだのは、石川との再契約ではなく、チームの形を残しつつ強化するという選択肢でした。 

【IN】
L.J.ピーク  ジョーダン・ハミルトン  古野拓巳  
ベンジャミン・ローソン
■継続
ファイ・サンバ  木田貴明  本村亮輔  磯野寛晃  藤澤尚之
佐々木隆成  ウィタカ・ケンタ  
柿内輝心(練習生)
【OUT】
石川海斗  イバン・ラベネル  デイビッド・ドブラス
ジャヒード・デイビス  西谷亮一(引退)
濱田貴流馬(昨季はB3鹿児島)
■シーズン途中の退団
マーベル・ハリス  ダニエル・オルトン
※特別指定選手などは含まず

状況だけを見れば、外国籍選手とスターティングPGを入れ替えただけです。佐々木、木田、ウィタカ、本村といったフランチャイズプレーヤー候補生たちは全員残留。磯野、藤澤らネクスト世代もきっちりキープ。おじさん、こういう編成大好き。Bリーグではもはや絶滅危惧種となった期待の若手を中心に据えて、チームビルディングをしながら昇格を目指すパターンです。

ところが、だ。チームの核は残ってるとはいえ、やって来たのはなんとジョーダン・ハミルトンにL.J.ピーク。B1でバリバリにスターターを張っていたどころか、ファイナルに出てた人もいるじゃないか。これを「チームの形を維持しながら」と評していいものかどうか。

若手中心の編成に切り替えて優勝を目指すドリーム路線かと思いきや、スターパワーで殴り勝つようなラインアップに。ジャージの下から鎧が見えると言ったら怒られるけれど、他チームが見たら羨むようなキラ星のごとき若手選手たちを抱えながら、超B1級の選手たちを連れてくるあたりには、フロントにとっての理想と現実が垣間見えて、それが余計に昇格への執念を感じさせるのでした。

■今シーズンのロスター

PG|古野拓巳  藤澤尚之  
SG|佐々木隆成  磯野寛晃  本村亮輔
SF|L.J.ピーク  木田貴明  ジョーダン・ハミルトン
PF|ウィタカ・ケンタ
C|ファイ・サンバ(帰化枠)  ベンジャミン・ローソン

※順不同、ポジションは適当です

ウィングの得点力ならダントツでしょう。細かい戦術を駆使しなくても、ピークかハミルトンに任せれば形になる。佐々木や木田だっているし。インサイドの枚数が足らない気がするけれど、そこで点を取るつもりはないはずなので問題なし(たぶん)。ファウルトラブル? 取られたら取り返せばいいんだ。オフェンスで上回ることを念頭に置いたロスターです。

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しかし、PGのバックアップは明らかに不足していて、だからこそ柿内の練習生契約なのでしょう。佐々木くんをPG起用する時間帯もあるはず。でもまあボールなんて誰が運んでもいいと言えばいいわけで、リバウンドからハミルトンかピークに渡してそのまま好きにやってもらえばいいという合理化という名の開き直りだってあり得ます。

ただ、ハミルトンとピークっていくらなんでもプレーエリアが重なり過ぎている気がしない? B1観てないからよくわからないんだけど。どちらかと言うとハミルトンがハンドラー寄りで、ピークがシューターなのかな。だったら一緒に使えそうだけど、インサイドはやっぱり心許ない。だからと言ってこの2人をローテーションするのは面白くないよ。いや、面白くなくても勝てばいいんだけどさ。石川とハリスではついに実現しなかったダブルエースを目指そう。夢よもう一度。

ハミルトンはともかく、ピークは宇都宮のあのボールムーブの中でこそ活かされていた節もあって、果たして昨季そのままの輝きを期待していいのかどうか。どちらもBリーグ参戦初年度に大活躍を見せた直後の契約更新であり、チームは昇格のために何がなんでもの姿勢。ガラッと変わる環境の中で、ドナルド・ベックHCがどのようにモチベーションを高めていけるのか注目したいところです。

気になるのはこれが昇格のためだけの動きなのかどうか。B2での強さがB1ではまったく通用しないことはすでに明らかで、だからこそ群馬は2シーズンかけてメンバーをガラリと入れ替えたわけです。昇格するだけでなく、その後のプランも合わせて持っておかなければいけなくなりました。結果だけでなく内容、内容だけでなく継続性まで求められるのがB1昇格という茨の道。

その点、熊本には若手選手の伸びしろという大きなアドバンテージがあり、彼らの成長がチームのレベルアップを導けば、これまでのパターンとはちょっと違う昇格チームになれる可能性も秘めています。まあ、現実的にはスターターとベンチメンバーの差をどう埋めていくのか、相手に隙を与えないようにするのが課題となるでしょうが、偏りがあるからこそ魅力的なラインアップとも言えるんだ。

群馬と茨城がB2から去り、大補強のFE名古屋や越谷もまだライセンスが確定していない今季は、熊本にとって千載一遇のチャンスでしょう。だからこそ今季にオールインしてきたわけで。逆に結果に結びつかなければ、外国籍選手を繋ぎ止められないどころか、若手たちにまでそっぽを向かれてしまう可能性だってある。昇格というモチベーションは選手を大きく揺さぶるだけに反動もまた大きく、B3からの脅威も迫っている今、与えられたチャンスはそう長くは続かないのかもしれません。

仮に念願叶って昇格を果たしたとしても、さすがにここまで若いロスターにはならないはずで、若手選手たちのセレクションのシーズンでもある。その意味でも今季限りのロスターであることは間違いなく、そんな風にどこか刹那的なムードを漂わせるのがたまらない今季の熊本なのでした。とか言って、みんな複数年契約だったらごめんね(公開しようよほんとに)。

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■鍵を握る選手
古野拓巳

帰ってきた司令塔。自ら先頭に立ってチームを引っ張っていた前回在籍時とは少し役割が変わり、オールマイティな外国籍選手に伸び伸びとやってもらいつつ、若手選手にも自信を与える潤滑油的な存在になる必要がある。新加入選手のインパクトが大き過ぎるだけに、いい選手が集まっただけのチームにならないことを祈るばかり。そのためにも古野選手にかかる期待(負担とも言う)は大きいのです。


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