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01.10|仙台@福岡|これが私の生きる道

現在、西地区3位につけるライジングゼファー福岡。予想外の健闘だと感じているのは私だけでしょうか。ブースターの方には申し訳ないのですが、前半は対戦相手に恵まれた印象で、そろそろ順位を落としてくるかなと思っていたのですが、1月に入ってもプレーオフ進出圏内をキープ。同地区の上位陣、佐賀やFE名古屋から2勝、ライバルである西宮や熊本にも大きく負け越すことなく、混戦の西地区の立役者でもあります。

これまでの成績で光るのは粘り強さ。1節2試合を1勝1敗で終えた対戦が8回もあり、そのうち「負け→勝ち」というパターンがなんと7回。連敗しないからこその好成績であることがわかります。週末に2日連続で行われるというBリーグの変則日程では、GAME1での課題をすぐさまGAME2で修正しなければならず、そう簡単ではないことは素人目にも明らか。そこで福岡の粘り強さ、しぶとさについて考えてみたいと思ったのでした。

今季の福岡のイメージは、ペップことジョゼップ・クラロス・カナルスHCの代名詞とも言うべき激しいディフェンス。ファウルを恐れることなく果敢にフロントコートからプレッシャーをかけ、インサイドの守備でもディナイポジションをとり続けるなど、とにかく第1線でボールを奪うことを狙ったファイティング・ディフェンススタイルです。チームスタッツを見てみると、失点は平均くらいですがDRtgは仙台・群馬に次いでB2の第3位。これはけっこう驚きでした。それを実現しているのが1試合平均11.5というスティール。激しい守備からオフェンスに繋げてイージーバスケットを狙う戦略は、見た目の印象通りでもあります。その代償というか副作用というか、ファウルの数は1試合平均29.9(!)。もちろんダントツのリーグトップです。

一方のオフェンスでは、シュート成功率はFG%・3FG%ともにリーグ13位とパッとせず。ペイント内のFG%も14位で、オフェンスで上回るチームではありません。それをカバーするのがフリースローで、1試合平均で23.4本のフリースローを打ち、16.3本決めるというのはどちらも最多。ただ、せっかくたくさん打っているのに確率は悪くて15位と、効率がいいわけではのが面白いところ。身体は張るけど不器用なんだ。高倉健か。これらと同時に見ておきたいのがORBの多さ。それほどサイズがあるわけでもないのにB2トップ(13.9本)で、バッツのいる越谷より多いよ。全員のリバウンド参加への意識が高いと同時に、シュートの入らなさを裏づけてもいます。シュートが落ちないとORBは取れないからね。

また、アシスト数は最下位で、個人でのアタックが主体であることもわかります。ボールを奪ってそのまま決めたり、ハーフコートオフェンスでも思い切りのドライブから得点するシーンが目立つ。ジョーダン・グリンが加わってからはきちんとデザインされたシュートで終わることも増えましたが、ある意味ではワイドオープンをつくることにこだわっていないとも言えるわけで、そう考えると確かにゴートゥーガイが多いよね。個人で打開してやろうという気持ちが伝わってくる。特にPGなんてみんなそう。目がギラギラしてるもん。

つまり、オフェンスでもディフェンスでもとにかく「ファイト」するのが福岡の持ち味。このあたりは秋田の頃から変わらないペップイズムといったところでしょうか。そして、その戦略を実行するのがいずれ劣らぬファイターたち。今季新たに加わった楯昌宗、谷口淳、本多純平、丹野合気、白戸大聖といった面々は、前所属チームで結果を残した実力者であるだけでなく、ハードに戦えるメンタルを備え、フィジカルなぶつかり合いを厭わない選手ばかり。なんというか野武士集団みたいな凄みがある。だって、いくらチームの方針としてファウル上等といっても、誰も進んでファウルなんてしたくないし、フィジカルなプレーをしたがらない選手も多い。ハードにプレーするとはいっても、気合だけでは実践できないわけで、誰にでもできるものではないのです。

そしてこれは、誤解を恐れずに言えば「弱者の兵法」でもあると思うのです。グッドプレイヤーを揃えた福岡ですが、能力で勝るエリートタレント集団ではない。だからこそ泥臭くディフェンスを頑張る必要があるし、シュートが入らない分、身体を張ってリバウンドに跳び、多少強引でもゴールを目指してファウルを奪わなけれならない。また、1試合平均のファウルがほぼ30ということはすべてのQで相手にボーナススローを与えるわけで、そうやって相手の攻撃の流れを切り、試合時間を長くして疲れさせながら、なんとか勝機を見出していく。こういう戦い方は強いチームにはできないものです。自分たちの不利を理解し、戦力差に納得して初めてできる。これが私の生きる道とばかりにファイトする福岡の愚直な戦い方は、客観的な認識に基づいたクレバーな一面も兼ね備えているのです。

で、ようやく試合の話。仙台がGAME1に快勝して迎えたGAME2は、ファイティングする福岡の真骨頂のような試合でした。渡辺翔太に何度プレスを割られても前線からのディフェンスを止めず、ルブライアン・ナッシュのドライブに身体を投げ出し、ジェイコブセンのポストプレーをディナイで防ぐ。仙台のスリーの酷さに助けられながらも、離されることなく食らいついていきます。この日も9つのスティールを奪い、速攻を仕掛けるものの、被ブロックが7もあり、やっぱり不器用な福岡ですが、獲得したフリースローは実に39本(うち25本成功)と仙台の守備を混乱に陥れます。福岡の激しい守備と果敢なアタックに疲労したのか、仙台はこの試合で21ものターンオーバーを犯してしまいました。その結果は4Q終盤に逆転した福岡の粘り勝ち。しかし、なぜ福岡の勝てたのか、2回くらい観たものの正直よくわからないんだ。ただ、この「よくわからん感じ」にこそ、福岡の戦いぶりの肝があるような気がするのです。

試合の結果を分けたのは、今や仙台のエースと言ってもいい笹倉選手のオフェンスファウルでした。肘を使ったという判定でしたが、これはまさにハードな守備の賜物。実はまだ挙げていない福岡のスタッツにFDの多さがありました。ファウルをする数が最多なら、ファウルをもらう回数もナンバーワンなのです(フリースローが多いから当たり前なんだけど)。さらに、対戦相手が犯すターンオーバーは1試合平均で23.6というとてつもない数字。手計算(大変だった…)なので正確ではないかもしれませんが、おそらくリーグトップでしょう。

激しい守備と果敢なアタックで相手を削る。試合時間を長くして疲労させ、徐々に相手の体力と判断力を奪い、ファウルをさせ、ターンオーバーを引き出す。福岡のファイティングスタイルの真の狙いは、自分から仕掛け続けることで、相手を自分たちのペースに引きずり込んでいくことなのかもしれません。だとすれば、福岡がGAME2に強いのも納得なのでした。

ただ、繰り返すようにこれは誰にでもできるものではありません。ファウルをすれば相手に得点チャンスを渡すことになるし、自分たちのリズムまで狂ってしまう可能性だってある。相手の能力を十分に発揮させないようにするスタイルは、自分たちにも跳ね返ってくるような諸刃の剣でもあるはず(邪王炎殺黒龍波でも可)。実際、ファウルが嵩んで自滅する試合も見られます。まるで毒をもって毒を制すような戦い方は、自ら背水の陣を敷くような危うさを孕みながらも、強豪仙台をも飲み込んでしまったのでした。


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