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05.09|〈プレーオフ〉越谷@FE名古屋|昇格より大事なもの

西地区2位のFE名古屋は、東地区3位の越谷アルファーズをホームに迎えQFを戦いました。結果はGAME3までもつれ込む激闘の末に越谷が勝利。特にオーバータイムに突入したこの試合は、今回のプレーオフのベストゲームになるかもしれません。

シリーズを通して感動したのは越谷の戦いぶりでした。オフシーズンには畠山俊樹・長谷川智也といったB1出身の実力者を獲得しただけでなく、外国籍選手にはアイザック・バッツにクレイグ・ブラッキンズを加えたものの、レギュラーシーズンでは今ひとつ噛み合わない部分が多いように感じていました。得点能力の高い選手が多い布陣だけに、フィニッシュの形は結局は個人技になってしまいがちで、チームで得点機会を生み出す雰囲気ではない。特にバッツの使い方は、試合によってはオフェンスリバウンド回収専門のようになっていて、なんだか「もったいないな」と思いながら観ていました。

ところが、プレーオフに入ると見違えるようにパスが回るようになっていて、今季は守備のいい名古屋のディフェンスを翻弄するようなシーンが数多く観られました。バッツのポストプレーへの繋げ方も多彩。逆サイドでスクリーンプレーをセットしておいて、ディフェンスを寄せてからエントリーしたり、スクリーナーのブラッキンズがポップしてできたスペースにポストアップしたり。あるいは、バッツを意識させておいて反対にブラッキンズがゴールへ向かってダイブしたり。まるで別チームかのようにインサイドの使い方がレベルアップしたのは、桜木ジェイアールさんがテクニカルアドバイザーに就任した成果でしょうか。

さらに、そうして否が応でも収縮せざるを得ない名古屋の守備をあざ笑うかのように、スクリーンに対してアンダーしたと見るやスリーを決める長谷川。インサイドを核に、チームとして統一した意識のもとで連動するバスケットは、まさにプレーオフ・レベルという表現がぴったりでした。

インサイドのマッチアップを見ると、越谷のバッツ&ブラッキンズに対して、名古屋のフィッツジェラルド&ローソンではやはり分が悪い。というのも越谷のモストデンジャラスコンビは、単にサイズがあるというだけではなくプラスαの特徴があるからです。バッツの場合は「むちゃくちゃサイズがある」し、ブラッキンズは「サイズがあるのにシュートが上手い」。高さでは引けを取らないローソンですが、パワーではバッツに敵わない。機動力に欠けるフィッツジェラルドではアウトサイドにもよく顔を出すブラッキンズを追いかけられない。このためか、GAME3ではマンツーマンで守る際、フィッツジェラルドがバッツを、ローソンがブラッキンズをマークしていたりして、オフボールの動きが少ないバッツをフィッツジェラルドが守る方が守備の形が崩れなくていいのかな?などと思いながら観ていました。この辺は素人の視点なので曖昧なのですが、とにかく名古屋がインサイドの守備に四苦八苦していたのは明らかでした。

一方で、オフェンスでは名古屋も越谷のインサイドの特徴を逆手に取って上手に攻略していて、名古屋のビッグマンのスクリーンに対しては、バッツもブラッキンズも無理にハンドラーを掴まえに行こうとはせず、それに対して名古屋のガード陣はミドルを効率よく決めて対抗していました。また、名古屋がソウ・シェリフを加えたビッグラインアップの時には、日本人選手にマークされるソウがミスマッチを突いてゴール下に飛び込んだり、オフェンスリバウンドから得点しており、「高さ」で名古屋が優位に立つ時間帯もあったのは面白いところです。

ただ、いずれにせよシリーズ自体が越谷のインサイド陣を中心に動いていたのも事実で、それが名古屋にとっての脅威になるにせよ弱みとして利用されるにせよ、全体を俯瞰すると終始ペースを握っていたのは越谷だったということになるのかもしれません。

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ちょっと見づらいのですが、越谷の主な選手のQF3試合の主要スタッツをレギュラーシーズンと比較してみました。赤字がアップしている項目です。

こうして見てみると、バッツよりもすごいのは長谷川なんだね。プレーオフ・ロンドならぬプレーオフ・トモヤだ。畠山は初戦の調子が悪かったのが響いて全体的に数字を落としているものの、GAME2以降のリカバリーは素晴らしい。アシストを増やしている選手が3人いるのはボールが回っているからかな(チーム全体ではプラス1くらい)。ヒンクルが実は出場時間をかなり減らしていて、それゆえにスタッツも下がっているわけですが、その点を見てもバッツ&ブラッキンズを強調してきたことがわかります。プレーオフレベルに仕上げてきた越谷の印象を数字で裏付けたいと思って調べてみたのですが、その直感はある程度は正しかったのかもしれません。

ところで、この試合を見ながらふと思ったことをつぶやいたツイートが、思いがけず大きな反響を呼びました。

この2チームにはB1ライセンスは交付されていません。たとえこのシリーズを勝ち抜き、セミファイナルで対戦する群馬に勝ち、さらに優勝したとしてもB1に昇格することはないのです。つまり、試合に挑む前から昇格のチャンスは潰えていたわけです。それにもかかわらず、3日連続の3試合にわたって熱戦を繰り広げた両チームの勇姿は、昇格ではない別の戦いがあることを教えてくれました。

B2という「アンダーカテゴリー」を観戦する私たちは、ともすれば昇格することが何にも勝る目標であり、選手たちもそう思っているに違いないと信じがちです。しかし、昇格のチャンスなどなくとも、名古屋と越谷の選手たちは目の前の試合に勝利するために全力で挑みました。それはアスリートの性であり、プロバスケットボール選手としての矜持であると同時に、単にもっと上手くプレーしたいという純粋な気持ちの現れでもあったのかもしれません。それはまた、昇格ばかりに気を取られ、バスケットボールをプレーすること(観戦すること)を楽しむという大切なものを見失いがちな私たちの姿を相対化してもいます。

昇格ができなくても、いや昇格はできないからこそ生まれる感動があることを教えてくれた名古屋の越谷の両チームに、最大限の賛辞を贈りたいと思います。



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