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新喜劇の台本が出来るまで②

9月第三週。
『カゲッシーで村おこっしー!』三回目の打ち合わせ。前回の打ち合わせで出た要素を盛り込んだプロットをもとに、また話し合いです。しかし、依然として難航。ボケと遊びは見えているけれど、話の流れがなあ。
「なんか説明のシーンばっかりになっちゃいますね」
「このシーンのあと、この話題というのが唐突ですね」
弱ったな。なんかないかな。途中、打ち合わせと関係ない雑談をしたり、たこ焼き食べたりして小休止しつつ、いつもより長めの打ち合わせ。

「恋愛、というより、若者たちの友情をクローズアップしましょうか」と、すっちー座長からの提案があり、視界が開けた感じになる。
「村に残った者、村を出て行った者、衝突しつつも最後は和解。で、そこにカゲッシーをからめる。どうですか」
お、なんかいけそうですね、となり、そこからさらに話し合い。この時点で打ち合わせは結構な長丁場になってるんだけど、できれば次の打ち合わせのときには台本の第一稿をあげておきたい。だから休まず続行。
なんとか物語の全体像が見えたところで、「次は一稿に行きましょう」ということになり、お開き。数日後の四回目の打ち合わせが設定されます。

9月末日。
四回目の打ち合わせ。今回は台本の第一稿を挟んで打ち合わせです。ちなみにこの第一稿を、僕は実質三日ほどで書いていますが、これは早くも遅くもない速度。大体どの新喜劇作家さんも、これぐらいの速さで書けると思います。もっと速い人もいるはず。

さて、この一稿。前回の打ち合わせで、話の展開はほぼ見通せているので、大きな修正はありません。ありませんけど、細かな修正はたくさんあります。このボケ弱いな、削ろうか。ここカブせのボケいけそうですね。こことここで同じ説明を二回してますね、片方取りましょう、この役のキャストは、この子よりこの子ですね、というようなことを話します。

10月第一週前半。
五回目の打ち合わせ。台本は第二稿。この辺りから、原稿の分量を気にし始めます。このままだと約50分の尺におさまんないな。じゃあ、このくだりカットしますか、なんていう修正箇所が浮上します。あとは、「どんな感じの舞台セットにします?」てことも話します。座長のリクエストを聞いて、それを美術デザイナーさんに発注するのも作家の仕事です。

10月第一週後半。
六回目の打ち合わせ。台本は三稿。この段階になると、原稿の直し自体はそれほどなくて、セリフの微調整程度。
じゃあすぐに済むかというと、そうでもなくて、台本のチェックと併せて、デザイナーさんが送ってくれたセット図面のチェックもやります。
今回は「村役場の前の広場」というセット。舞台の奥には湖や草むらが見えている。この草むらの高さや幅が、カゲッシーの模型を使った遊びにおいてとても重要なので、その辺をしっかり確認。

で、その二日後くらいに、台本の四稿を送るわけですが、もうここまでくると会議室や楽屋に集まっての打ち合わせというのはしなくて、座長の最終チェックを仰いで、変更点があればメールやら電話やらラインで知らせてもらう、という形になります。で、その最終チェックを反映させた第五稿が、今回における決定稿ということになり、印刷屋さんに回されます。ふう。

……というわけで、駆け足でしたが、「台本制作」というものに関しては、以上のような過程を辿ります。が、あくまでこれは、僕が作家として、すっちー座長の台本を作るときはこうなるよ、という話。作家と座長の組み合わせによっては、少し進め方が違ったりします。打ち合わせの回数も、座長によってばらつきがありますし、難航すれば、結局どの座長との打ち合わせも回数は増えますしね。

さて、台本はできましたが、お笑いの舞台というのはお客さんの反応によって、さらに修正が加えられていくもの。というより、本番前日の稽古の段階でもバンバン修正されていきます。
というわけで、印刷屋さんから届けられた台本を手にしても、作家としては「終わったな」感は全然なくて、実感としては、「これで半分。あともう半分は幕が開いてからだな」というのが正直なところ。

でもって、舞台というのは当たり前ですけど、作家と演者さんだけで作るものじゃなくて、劇場スタッフさんや、裏方さん、制作の人や、セットのデザイナーさん、大勢の人たちが関わって作られています。
そういう裏方事情も覗いてみたい、というかたは、舞台監督の前田拓也さんがnoteをされていますので、検索されてはいかがでしょう。

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