『僕たちは、怖い』
僕たちは、怖い。外の空気の冷たさが。僕たちを連れ去ろうとする外敵が。産まれてくる必要なんてなかったんじゃないかって思うくらい怖い。見知らぬ景色が怒ったように荒れ狂ったらどうしようって思う。産まれた瞬間から怖くて怖くて打ちのめされた。体が動かない。怖くて動けない。とても立ってなんていられないよ。
頑張るくらいなら、温かい所へ居たままで良かった。元気を出すくらいなら、ずっと兄弟とくっついたままで良かった。
お腹が空いたのかもしれない。お母さんが帰ってくるかも知れないけれど、僕たちはいずれは一人立ちしないといけない。
その事実に打ちのめされた。
僕たちの知っている世界は、漆黒の闇に包まれ残忍だ。怖くて立てない。怖くて動けない。怖くて立ち向かえる訳がない。
けど僕たちは目を開いて、おぼろげな輪郭の景色を見た。耳を澄まして、ザワザワとクマザサが触れ合う音を聴いた。ミルクの味から離れて、風に触ってみた。
春の雪解けの、大地の匂いがした。
一歩だけ踏み出してみることにした。ぐちゅぐちゅした雪の塊を踏みつけて。
冬よさようなら。ルーレットみたいに太陽が登るから。
出かけてみよう。星々煌めく夜空の下に、何があるのか知りたいから。
写真 小幡マキ 文 大崎航
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