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『別海へ』

別海へ。どれだけ空と大地が近いんだよ。

別海へ。空と大地が単純すぎるんだよ。

シバれた大地と青い牧草地と、ほとんどそれしかねえじゃねえか。

地球はやっぱり青かったって、当たり前じゃねえか。見れば分かるだろうがよ。

誰だって、ガキの頃は、ただただ広い所へ行ってみたいと思ったろ?

動機が単純すぎるんだよ。牛飼いにそれ以外の理屈が有るわけねえだろ。

Nomadが遊牧民で、No madときた。

バカみてえじゃねえか。こつこつローンを返すことに怯えながら暮らすことが。

何処にでも小さな営みはあるよ。皆小さな営みの中で日々を乗り切り、年金暮らしの将来を想像するのだけど。

牛は宇宙みたいだわ。別にのんびり暮らしたいわけじゃあないよ。胃の中に微生物を沢山飼っていて、そいつが繊維質をタンパクに変えるらしい。生態系を体に飼っている、牛は宇宙と一緒だよ。

住宅ローンのことなんて忘れてさ、一度は別海へ行ってみたいよな。オレはな、別海に十年いたけれど、雪の礫にぶちのめされて、眩しすぎる太陽の下で汗水垂らして働いて、スカッとニワトリみたいに、何もかもを三歩歩いて忘れたよ。

誰だって遊牧民に憧れるだろ?春だよ、別海は。馬頭琴のような風の音色とビートの効いたトラクターのジャズセッションがぼちぼち聞こえてくる頃だよ。

けど、遠すぎるんだよ、別海は。地の果てにあるようなもんだよ。小さな考え事が全部バカげてきたよ。

ふざけんなよ、別海。

写真 小幡マキ 文 大崎航

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