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きみとは生涯を誓えない。




生まれてきてから23年間に男性3人と女性2人と付き合った。思い返せば、誰一人として好きではなかったのかもしれない。

いいや、みんなすごく好きだけど、彼らが死んでもわたしは生きていけるし、人生が狂ったりはしない。





わたしは顔が良くないが、よくモテた。好きな人間は絶対に付き合えたし、ちょっと好きだと思ったら相手は「なんかずっと一緒にいたいな」、「結婚したい」と言ってくれる。
学生の頃は、大体クラスで1番とかサークルで1番モテる人と付き合った。モテる人はだいたい人間としてよくできていて、最高だった。

本当に良い縁に恵まれているのだが、付き合えたらそんなに好きじゃないことに気が付く。
会うことすら面倒くさい。
わたしみたいなのを好きになるなんて、所詮この人もその程度かよ、って。



以前デパートを歩いていたら、9粒7,000円のチョコレートを見かけた。
大学2年生の頃、付き合っていた人から貰ったバレンタインのチョコレートだった。
「うっわ、わたしのことめちゃくちゃ好きだったんじゃん・・・」と最高に舞い上がった。
そしてわたしは、その人に誠実に応えなかったことを思い返す。



チョコレートをくれた彼Aを思い出す。インカレサークルで知り合った旧帝大の文系。次男で埼玉出身。バスケ部と掛け持ちしていて、部長だった。友達も多くて何よりイケメンだったし、趣味も合った。
飲み会で昔のアニメ(アニマル横丁)の話をして、2人だけで盛り上がったのがきっかけだったと思う。

付き合う前こと。飲み会帰りの勢いで、彼Aの家へ招かれた。彼Aはわたしをベッドに寝かせ、自分は床で物理の教科書を広げた。何するの?と聞いたら、宿題やるかな、とか言って地べたに寝転がった。どうしようもなく愛しく思った。お酒が抜けなくて、赤みの引かない顔で教科書を広げた彼Aは、気が狂いそうなほどかわいかった。わたしはベッドから降りて彼Aに布団をかけると潜って横で眠った。彼の手元にはノートもペンもなく、ただ二人で床に寝た。
次の日はバイト先で「もう彼Aと結婚したいです」と言いふらした。楽しい恋をしている、と思った。

彼Aと付き合った直後、わたしは同じインカレサークルで1番の美女と付き合い始めた。
彼女Bは、「今、彼Aと付き合っているのは知っているけど、わたしと付き合ってくれないと嫌」と言ってくれた。会うたびに所かまわずキスをくれた。
わたしは複数人と付き合うことが悪いことだとは思っていないので付き合った。
彼Aの前でもキスをされた。
かわいい子とのキスは大好きだ。

既に彼Aに対する興味は失せていた。
彼Aの何が好きだったのかはわからない。何に恋をして、楽しくなったのか。
結論はスペックだろう。
彼Aとはお互いラーメンが好きだったので、毎週水曜に知らないラーメン屋を開拓した。付き合う前はそれが楽しみだったのに、付き合ってからはしんどいだけだった。

彼女Bとの関係は、付き合ってからも何も変わらなかった。
路面で売っている大きな肉まんを分け合うのが、大好きで幸せだった。肉まんを2つ買っても、2つとも半分にして分けあった。それが愛なんだと思った。





それは昔。中学生の頃、2年間片思いしていた人に告白された。
その瞬間、勝った、と同時に気持ち悪い、と思った。

中学生のその人も、彼Aも、全部「わたしを好きになってゲーム」に過ぎない。
わたしは好きなキャラクターに好意を伝える。相手はわたしに興味を持つ。わたしは運命の告白を待つ。
だから、告白してくれたら終わり。
だってわたしなんかのことが好きな人なんて気持ち悪いだけだ。





彼女Bは所謂メンヘラだった。
夜中にわたしを呼び出しては泣いた。
わたしではない、「好きな男」がかまってくれない話をして、わたしにキスをした。
わたしは彼女Bのことが面倒でも、十分に愛していたから抱きしめるほかなかった。
彼女Bはきっとわたしのことなんて恋愛としては好きじゃなかったけど、わたしは彼Aよりもずっと恋愛として好きだった。


彼Aをはじめ、お付き合いしたいと思う人はスペックが良かった。
彼らにとって愛することは、やさしくすること、慈しむことだった。
でも、わたしにとって愛されることはそうじゃなかった。

彼女Bは拠り所がなくて、いつもわたしに「別れたら死ぬよ」と言っていた。
わたしは「それは嫌だな」と思った。大好きだから。
彼女Bの依存は痛々しくて、別れたほうがいいと何度も思ったけど、結局彼女Bがわたしに飽きるまで関係は続いた。
わたしは、あの美しい女とキスができなくなるのは惜しいと思った。


ゼミで一緒だった彼女Cは、わたしの他に男2人と付き合っていた。
レズビアンの彼女Cは、彼らからのプレゼントを売ってわたしとの交際費にしていた。
彼女Cは、「うち、あいつらの子ども妊娠したらあなたと育てるから」と言ってくれた。
最高の誘い文句だと思った。
じゃあ、今付き合ってる運送業の男は嫌だよ、IQの高い子どもがいいな、と希望すると、「任せて。イケメンで賢い人の遺伝子もらってくる」と笑った。
よっぽど愛だった。





わたしを傷つけてくれる人が好きだな。そんなことを友人に話してみた。
永遠に好きでいる自信がない。好きにさせる自信はあるけど、好かれ続ける自信はない。それなら好きじゃなくても執着されていたい。

え~、なにそれ。と言った表情で顔をしかめられた。
閉店間際の回転ずし店で友人は言った。



「きみとは生涯を誓えないな」

まったく同感だ。

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