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大ベルセルク展所感

 池袋で開催中の大ベルセルク展に行きました。処々思うことがあったので忘れないよう書き留めておきます。かなり展示の内容に触れますので、行くか行かないかの参考にはなるかもしれませんが、ネタバレ注意です。

 筆者が最もハマっていた時期は10年くらい前、多感な中高校生の時期で当時の最新巻で記憶は止まっています。そのため展の帰りに買ったヤングアニマルで最新話を読み、絵柄の違いに大変驚いたのでした。

 展示の最後に三浦先生のインタビューがあるのですが、そこで元々は劇画タッチで筆を多用、その後細かいタッチを描くために鉛筆、それからデジタルもとりいれ、と30年の間にどのような変遷があったかも語られています。印象的だったのは、「早く描けると思って鉛筆画を導入したが、結局描いた線を一本一本消して満足のいく形に整えるから余計に時間がかかった(笑)」というものでした。
 絵柄の変化や画材をどう変えているかという点でも見ていて面白いです。
鉛筆画で描かれた絵も多く展示されています。鉛筆画はやわらかい印象の絵が多く味がありました。特に鷹の団時代の団員のプライベートを描いた絵やガッツとパックの二人旅の場面は可愛らしかったです。
 インタビューでは三浦先生が「読み続けている読者」「完全新規の読者」「長期連載ゆえに一度離れたが展を機に戻ってきた読者」に語りかけてきます。少しでも知っている人は見にいって損はないと思います。

 一回で満足すると思っていたのですが、結局私は会期中3回訪れ、原画、表紙絵(油絵)、造形物までじっくり見てきました。3回とも平日に行きましたが、全回並びました。物販コーナー入場締め切り後の会場はほとんど人がおらず、会場内を独占、往復でき最高でした。一回目は前半で疲れてしまい後半を見れず、二回目は内容を理解してるので冷静に全部見て物販にも立ち寄り、三回目は見たい絵と造形物をじっくり見るという見方をしました。内、蝕の夜も含まれます。

 何故疲れたかといえば、展が殆ど時系列順に展開していくからです。黒い剣士編ではなく、黄金時代編の原画からスタートするため、最初に目にする原画はガッツの誕生、幼少期、青年期、それから鷹の団入団場面と展開していきます。嫌な予感しかしません。まるでガッツの人生を追体験しているような気分になり、私は最初のエリアで既に満足かつ既に精神的にキツくなり始めていました。
 この時期の絵というのがまさに劇画タッチで筆で勢いがあり、血と臓物が踊り狂っています。劇画タッチでありながら甲冑や戦場の様子はこの時期から異様に細かく描き込まれています。サイズも大判なので迫力があります。ついでに油絵での人物画も度々展示されており、かけられたであろう途方もない時間を感じました。
 これは初期だけでなく全編のイラストに言えるのですが、特に初期は見上げる、見下げる、ような構図がめちゃくちゃ多いなと思いました。サディスティック・マゾヒスティックな感じ、支配と被支配の感じがひしひしと伝わってきて痺れます。ガッツが基本的に見上げることが多く、逆境の人生感がつたわってきます。グリフィスは圧倒的に見下げる場面が多いため、拷問の場面が一転して映えてきますね。

 黄金時代の終焉に向かうとガッツとキャスカ愛の育みとグリフィスの拷問場面が交互に展示されており、蝕の展示の直前に「鷹の団メモリアルコーナー」が用意されています。メモリアルコーナーでは、色鉛筆のやわらかいタッチで旧鷹の団主要メンバーが描かれ、並べられています。ガッツやグリフィスだけでなく、キャラクターひとりにつき三枚程度の大判画があり、三浦先生のキャラクターへの愛というかこだわりを感じました。また先述の温かい日常風景もここに展示されています。

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 このメモリアルコーナーで既に怪しいくらい音楽が次のエリアから漂っており、蝕のエリアに入ります。蝕の展示以外ではひたすら平沢進の壮大な音楽が流れており、平沢進の音楽を聴きながら原画を見られるとはなんて幸せなんだと多幸感に浸れます。
 蝕のエリアは、静と動が交互に現れるというか、悪夢を見ているようでした。初めて読んだ時と同じような衝撃が蘇り、気分があがってそして精神が落ち込みました。クリーチャーの造形、量、書き込みが凄まじいです。
 展示としての工夫、演出だと思うのですが、フェムトのキャスカ凌辱の対面の壁にガッツが凌辱を見せつけられて慟哭している原画が飾ってあります。ここですっかり精神的に打ちのめされてしまいました。そういうわけで一回目はここでもう疲れ、後は消化試合気味になってしまいました。

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蝕の造形展示エリアはよくつくりこまれており、ゴッドハンド全員の超美麗特大フィギュアが飾られています。背景が鏡になっているので、蝕の夜(蝕の夜だけ撮影可)に行けば、2ショットで撮れます。しかし、混みあうエリアなので、ここをじっくり見たい場合は時間を狙う必要があります。

 蝕の後も時系列順なのでここでようやく黒の剣士編の原画を見ることができます。すっかり疲弊した状態なので「すげぇぞ!!さすが超越者!!本当に死なねぇぜ!!」を見ても、そうだよねそういう感じになるよね……としか思えず。ガッツと髑髏の騎士の大判フィギュアもこのエリアにあります。
黒の剣士編以後は断罪編になり漫画と同じ時系列で展示が進みます。書き込みがさらに増え、情報量が多く、同時に美麗な原画や油絵が増えていきました。あまりに一枚一枚の出来が絵画なのでこれを連載してたの??と呆然とします。額縁もパーティーによって変えられていて、ちょっとした工夫が良かったです。

 造形物もこの辺りから、かなりの量があり、こちらは撮影可能なので好きなものをとりながら思いに浸れます。こちらの作り込みもすごいし、やはり造形のかっこいい「狂戦士の甲冑」のフィギュアが多い、あと圧倒的に血塗られたフィギュアが多いです。私は普段あまりフィギュアを見ないのですが、ここまで血塗られたものが多い展示もなかなかないと思います。

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 一番最後のエリアの直前は全単行本の表紙絵、大判油絵が並んでいます。ここは人が結構閑散としていますが、かなり見ごたえがあり、じっくり一枚一枚見たいところ。しかし直前までの情報量が多いので、おそらく疲れていると入ってこないんですよね。油絵一枚一枚、どれだけ時間をかけたんだろうと感慨にふけって見られます。ちょっとした美術館ですよ。

 最後のエリアに元気な三浦先生のインタビュー、仕事場の再現、関係者のサインや海外展開版の単行本、構想中の別漫画の展示などがあります。このエリアは今後の展望を語っているので、直前まで見ていた展示を振り返り虚しさが溢れるエリアとなってしまいました。どうして……どうして……と思いながら呆然と皆でインタビュー画面を眺める感じ……。後は風呂敷を畳む作業だけと笑顔で語る三浦先生……どうして……。そして最新話の衝撃、どうして……。
 この時ようやく、周りを見渡してかなり様々なタイプの人がいる展示だなと思いました。直後の激混みの物販会場でも同じことを思いました。長期連載も手伝って本当にいろんな層の人に愛されてたのだなと。「蝕の夜」に参加する場合、黒い服の着用を推奨されます。私も黒で行きましたが、半分くらいが黒で来ていてこちらも何か感慨深いものがありました。連載当初から追えるわけもなく、私の周囲にベルセルクを知っている人がおらず、激ハマりしていた当時も一人で消化していたからかもしれません。昨今の完結してブームになる作品とは異なるため、一人で孤独に愛を溜めているタイプの読者が多い漫画なのかもしれない、と思ったりもしました。

 物販も愛がある商品が多く、種類もかなり豊富で、高額を支払う老若男女が散見されました。私も久しぶりに散財してしまいました(特典のポスターを貰うくらいには)。ただどうしても売り切れが多く、Tシャツなどは速攻で無くなっていたのが残念です。

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 総じてかなり楽しめる展示でした。東京開催は明日で終わりですが、地方開催もふと思い立って行ってしまうかと思う程。あの原画もう一回みたい……と思いつつ単行本をもう一回読み直すかと。ありがとう三浦先生、ありがとうベルセルク展……。


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