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【女子高生エッセイ】『顔を嘘で塗りたくる🛁』#メイク法

                                                                                                    「若いし化粧せん方が可愛いで」

「厚塗りしても変わんないじゃん」

「その顔で外歩けるんや」

他人が私の顔に良し悪しをつける。

非常に不愉快である。


美人だとか可愛いだとか不細工だとか。

他人の基準に当てはめた時にどう評価されるのかは知らない。

聞く気もない。


でも自己評価を求められたら私は自分の顔が好きと答える。

ルッキズムは良くないと騒がれている社会。

自分の顔を真剣に評価したことある人間はどれくらいいるんだろう。

人の顔は勝手に評価するのに。


小さい頃は容姿にコンプレックスがあった。

自分の姿をどうしても見たくなくて鏡の前は目をつぶって通り過ぎた。

メイクなんて興味もなかったし人間は内面だと言い聞かせた。

不細工な私はせめて人には優しくあろうと誓った。

周りの子を見ればなんで自分ばっかりと悲観していた。



そんな感覚がガラリと変わったのは少し前のこと。

病院の先生に告げられた一言がきっかけだった。

「見た目で鬱病は分かることが多いです」

ドキッとした。

あれから電車や学校で人の目線が痛く感じた。

きっと私は鬱に見えているんだと思い込んで症状も悪化した。

どうにかその痛さをやわらげたくて見た目にひどく気を遣うようになった。

ただただ一般人の皮を被るために。


髪の毛に縮毛矯正を当ててみたりスキンケアをしてみたり。

筋トレとかストレッチをしてみちゃったり。


そしてメイクが私を変えた。

最初はすごく苦手だった。

肌に何か異物がのる感覚が気持ち悪くて何度も諦めようとした。

でも化粧をせずに家を出て顔色で鬱だと思われたら?

見た目に自信なさそうにして鬱だと思われたら?

やるしかなかった。

しかも徹底的に。

だってメイクを失敗して鬱だと思われるかもしれないと思ったから。

そんなわけもないのに。

頭の中にネガティブがうろうろしていた。


何度もメイクの練習をした。

一日に塗って落としてを何十回も繰り返した。


そうして今のメイク方法が出来上がった。

肌の色を塗り替えていく。

土台から構築していく。

のっぺりしないように影をつける。

眉の色を薄い茶色へと塗り替える。

調子の悪そうな二重の幅を広げる。

涙袋にベージュを重ねて影を描く。

淡いピンク色に彩ったまぶたに小粒のラメを重ねる。

まつげを上向きにして目をぱちぱちする。

深呼吸してからアイラインをゆっくり引く。

コーラルピンクのチークをふわっと頬につける。

最後にスティック型の赤いリップを唇にのせる。

唇を擦り合わせて馴染ませる。


メイクが崩れないようにメイクキープミストをプシュッと顔全体に吹きかける。

ひんやり濡れた顔を手で仰いで乾かす。


私はもう私じゃなかった。

口紅と一緒に一般人に馴染めたらしい。

鏡の中には別人がいてこちらを見て苦笑いしている。

「誰だこれ」

鏡に触れながら小さく呟く。

可愛いような可愛くないような。

好きか嫌いかで聞かれたら好き。

これが私の中の完璧。

鏡の中の住人はこっちを見て笑っていた。

こちらもなんとなく笑い返しておいた。


知らない人の長い髪をとかして三つ編みに結って家を出る。

外の世界ではこれが”私”と呼ばれる。

綺麗になるために異物を顔に何層も重ねて汚す。

普通になるために自分の顔に泥をつける。

顔と心に何層にもわたる壁を整える。

メイクは綺麗に見えて実はすごく醜い。

誰も私の本当の姿を知らない。

嫌なほど顔に馴染んだメイクは心にまで浸食した。


帰宅してすぐ、洗面台でメイクを落とす。

自分を包んでいたものが剥がれ落ちるのは怖くてちょっと心地いい。

次に顔を上げると鏡には別の人がいた。

「誰?」

完璧な一般人とは程遠い私の顔。

安心と不安がドバっと心に流れ込む。

ぽつりと呟いた。

「……私この顔の方が好きだな」


翌日、目が覚めて流れ作業でメイクを終わらせた。

そこにはいつもより可愛い”私”がいた。

ありのままの自分の姿を認めてあげることが最大の化粧。


他人に見た目の正解や不正解を告げられる社会。

世間の評価から身を守るために何層も顔と心に嘘を重ね続ける。

それでも私だけは本当の私の形を知っていたい。

そして好きだと言ってあげたい。


汚い社会から自分を守るために私は今日もメイクする。


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