読んだよ「バーナード嬢曰く。」「ハルタ2024 03月号」


単行本「バーナード嬢曰く。」7巻

(以下「ド嬢」)

「ド嬢」は読み終わるとなんだか語りたくなる
それは、ひとつひとつのエピソードに余韻があるからだと思う

読んでいて印象的なのご、登場人物の表情だ
本について友人たちとやり取りをして、別れて、ひとりになったときにふっと見せる表情
そこには、漫画であるにも関わらずたしかに「行間」が存在している
シンプルな絵柄であるのに、雄弁な「間」がある
すごいことだと思う

印象的だったシーンは「タイタンの妖女」を読んで、ふっと顔を上げる町田さわ子の横顔
きっと神林の事を考えているのだろう
そういった想像をさせてくれる

そして「ド嬢」を読んでて気づいたことがある
「アップだと手を綺麗に描いてる」ところだ
手は超重要だと思う
表情と手の動き、そしてカメラワークの多彩さで「ド嬢」は会話劇を飽きさせることなく展開している

7巻のラストでは、さわ子が豆本を作り、神林が豆本に載せる小説を書くエピソードが描かれる
そのなかでふいに「卒業」の二文字が思い浮かんだ

いま集まっている図書室の面々も、もしかしたら卒業を機にそれぞれ別の進路を歩むことになるのかもしれない

そうなれば、彼女たちが図書室に集まることもなくなるのだろう
それは「いまある関係性の終わり」であり「死」の暗示でもある

だが、作った豆本は思い出の品として手元に残る

雑誌:ハルタVol112 2024/3月号

読切:葉祭町のおつかい狐

ヒトにはそれぞれ心の琴線がある
なかには、見ただけでなんか泣けてくる絵柄もある
ぼくにとってのそれが宮永麻也先生だ
連載作だった「ニコラのおゆるり魔界紀行」も、なぜか知らないけど毎回読んでて号泣したものだった

今回の読切もそうだった
宮永先生の作品は「現実世界のドライさのなかで、埋もれてしまった心根の真っ直ぐさ」が放つ優しさの光がある

本来ならば、日常に埋もれて心の中に押し込めてしまうもの。そこになんらかのきっかけが生じて、前に進むための背中を押してくれる
エピソードはおおよそこのパターンだ
しかしこのパターンに毎回泣かされる
やり直すことができるんだ
変わることができるんだ
大仰ではない、控えめな形でありながらも、しっかりと「ヒトの心が変わる瞬間」を描いている
だからこう、感動するのかもしれない

連載:悪魔二世

個人的に長く続いてほしいと思ってるのがこの「悪魔二世」

悪魔が人間社会に根付いている世界。ふっとしたおりに悪魔はヒトに被害をもたらす。こう書くとまるで「チェンソーマン」のような世界を思い浮かべるかもしれない
しかし世界観こそ似ていても、作者の独自性はそれぞれはっきりと分かれている

「チェンソーマン」があくまでも(ダジャレではない)人間の視点から描いた物語だとするならば「悪魔二世」は悪魔からの視点を描いたストーリーになっているといえる

悪魔と人間の違い

悪魔と人間の決定的な違いはなんだろうか
それは「葛藤の有無」にあるのだと思う
人間はとにかく悩む。考えたり恐れたりして足踏みしたかと思えば、ふと衝動的に考えなしの行動に走ったりする

一方、悪魔はというと、行動がとにかく明解だ
こうしたほうがいいと思う事、あるいは相手がそうしてほしいといったことを、ためらうことなく行動にうつしてしまう
ただし「行動の結果」がもたらすものに対しての配慮もほとんどない
この違いは、人間が「人同士のつながりで生きている存在」であることに対して、悪魔が「他者との関わりが薄い、個体で完結した存在」であることに起因しているように思える

「悪魔二世」は本来ならば生まれるはずがなかった「悪魔の子供」が主人公になる
親がいる。ということは、少なくとも悪魔が「他者との関わりの結果、子供をもうけた」ことでもある

つまり本来の在り方とは別の、異端の存在であるということだ
異端であるということは、主流でないがゆえに世界を「外から見つめる」存在だともいえる

外側の視点から「人間」を見つめるのは「葬送のフリーレン」にも一脈通じる構造だろう

令和の現代において、社会は多様であるがゆえに、ヒトは自分なりの「在り方」を選ばなくてはならないようになった
しかし、主体性のある人間というのは実のところ極めて少数派でもある
だからこそ現代のヒトは「自分はどうあるべきか」で悩むようになった
他人に合わせればよいのか、あるいは他人をおしのけて自分を優先すればよいのか

「悪魔二世」は可憐な少女の姿で人間社会に溶け込みつつ、様々な人間の在り方を肯定する。その一方で心中においては「私には関係ないけどね」と締めくくる
他人と関わりつつも、個体として完結している。主体性に「揺らぎ」がない視点から「人間」を浮き彫りにする「悪魔二世」
彼女もまた、他人との関わりのなかで心が変わる瞬間が訪れるのだろうか
個人的に推していきたい作品だ



この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?