見出し画像

幸せを手に入れる最後の方法 ~2年間のカウンセリング実録~ 12.踏み出せない一歩①

 その後しばらくの間、咲笑(さえ)ちゃんからの連絡は途絶えていた。

僕はそれを良いことだと思っていた。
きっと苦しいけれど幸せになるための選択を続けているんだと思っていた。


 でも彼女は幸せに向かって進めている訳ではなかった。
彼女は彼とゆっくり会う機会を持てず、彼と話すことも彼の話を聴くこともできず、苦しみの最中にいた。


「明日は彼のお誕生日なの。
たくさんのお客さんと一緒に、彼の仕事の場に元カノも来るの。

頭痛と腹痛が酷くていまお薬飲んだ。苦しいよ。
私も行くけど、ほんとは行きたくない。」


「そうか。ストレスで苦しいんだね。
元カノに会うのも嫌だし、仕事とはいえ元カノと会う彼を見るのも嫌だよね。」



「いいの。情報はオープンだし、お誕生日くらいは見てあげたいって気持ちはわかる。

でもね、元カノを家に連れて帰るんじゃないかって思って。
私、彼とはほんとに合わない。

元カノにいつまでも引き摺られる彼を見てしまうかもしれない。それがつらいんだ…。」


「彼にも幸せになる勇気を持って欲しいけど、踏み出せない姿を見るのがつらいってこと?」


「いやもっと単純に、元カノに負けるかもしれない、きっと負けるっていう恐怖。

いま誰と居るんだろうって、またどうしようもないこと思ってる。」


「彼の誕生日に際しての咲笑ちゃんの覚悟、僕は応援してるよ。

彼が咲笑ちゃんと同じように幸せになる努力ができるかどうか、それは彼次第だけど、咲笑ちゃんの努力は絶対無駄にならないから。

咲笑ちゃん、苦しいね。
でも、その苦しさも、怖さも、きっと未来の笑顔に繋がると信じて、乗りきってね。」


「すごく疲れた。私は今でも彼を幸せにしたいけど、自信なくなってきた。」




 そして彼の誕生日当日。咲笑ちゃんから報告がきた。


「元カノ、いなかった。
でも、私は連れて帰ってもらえなかった。
惨めな気持ちだったよ。

ほんとは抱きしめたかった。もう、つらいな。」



「お疲れさま。頑張って行ってきたんだね。
つらかったんだ。」


「うん。つらかった。プレゼント渡してる子もいた。
もうついていけない…。
とってもかっこよかったよ。でも、なんか遠い人に感じた。

とにかく素顔の彼に会いたい。もう一度話したい。彼の気持ちが知りたい。

どうしても元カノがいいなら仕方ないけど。
仕事から解放されて、普段の彼とソファに並んでアイス食べたい。」


「大勢のお客さんに囲まれた彼が格好良すぎて、等身大に感じられなくなってるんだね。
彼のぬくもりを感じながら、きちんと話す機会が欲しいよね。」


「そうね。あまりに会ってなくて、彼女らしく扱われてなくて、元カノの存在もあるし、私は何なんだろうって。
求められてる気がしない。

彼はあったかいし、いい匂いがするの。
でもそれを元カノと共有してた、っていうのが悲しい。私だけの彼だと思ってた。
話す機会が欲しいよ。」


「彼は会ってくれないんだ…。

咲笑ちゃんの覚悟も伝えられないし、前にも進めない、それが悲しいね。」


「すごく忙しいのはわかってる。
忙しくて寝てないのも知ってる。
だから来週会えたらいいなって、明日伝えるつもり。

うん、今は動けないの。
伝えられないなら、選ばれないなら仕方ないの。

多分彼は何も分かってない。
人気者でいるのが普通すぎて。」


「そうか。彼のことを、本当に分かってるのは咲笑ちゃんだけかもしれないね…。

明日、きちんと話して、それが彼に伝わるといいね。」


「私はそうだと思ってる。
彼を一人の人として、仕事とか見た目とか置いといて、本当に愛してるのは私だと思う。
ちゃんと言いたいよ。聞いて欲しいし知って欲しい。」




 このタイミングで僕は偶然、咲笑ちゃんと会うタイミングを手にした。
久しぶりに僕は自分から咲笑ちゃんと連絡を取った。


「突然こちらから連絡してすみません。
出張があって、帰る前に少し時間が自由になります。

その後の展開で、もし話したいことや僕に聞きたいことがあったら直接話せます。

特にないなら、それは良い事なのでスルーしてくれて構いません。
でももし何かあれば、言ってください。」


「話しましょう。話したいです。」










幸せを手に入れる最後の方法
~2年間のカウンセリング実録~




最後までお読みくださり、ありがとうございました。


自分のしたいことを見つけて、歩き出そうとするには覚悟がいる。

新しいことを始めるのは前向きであってもストレスが伴うことだと思う。


でも、進もうと思っても環境がそれを許してくれないことがある。

車は進み始めてからはそれほど燃料を必要としないが、いったんブレーキを踏んでしまうと、進むためにはまた大きな力が必要となる。


そんなとき、背中を押してくれる人に頼ること、いったん止まって自分を見直すこと、それはどちらも有効な方法だと思う。



続きは明日更新します。

咲笑ちゃんが多くの問題を語ってくれます。

ぜひおつきあいください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?