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幸せを手に入れる最後の方法 ~2年間のカウンセリング実録~ 32.誓う日

「昨日はありがとうございました。

無事に引っ越しをしました。
きれいなところです。


でも、家族を捨てたような感覚、昨日まで住んでいた家を裏切ったような気持ち、犬に対して優先順位を落としてしまったかのような錯覚、いろんな罪悪感に苛まれています。

頑張ります。」




「こちらこそ、昨日はありがとう。
最後に会えて、話せて良かった。


身体も心も変化することにストレスを感じるからね。

頭で分かってることでも抵抗を感じちゃうんだね。咲笑ちゃんの幸せに慣れる努力を応援してます。」



「幸せそうな顔はできていると思います。
慣れることは大変です。」




 「思いっきり幸せになることが恩返し。」こんな言葉をもらえることが、何よりも幸せなことだと思う。


そしてこの言葉をもらえたから、僕は安心して咲笑ちゃんの苦しい言葉を受け止めることができていた。

そして咲笑ちゃんが入籍すると言っていた日が来た。



「咲笑ちゃん、いよいよ今日が入籍ですね。

既に新しい道を歩き出してるとは思うけど、あらためて区切りとなる一日をしっかり味わってください。

幸せになってね。おめでとう。」


「覚えててくださって、ありがとうございます。

今日、婚姻届を提出してきます。


でも、私にとって今日は『誓う日』です。

戸籍謄本の取り寄せでまた一騒動ありました。彼に『家族』を教えてもらいます。」



「『誓う日』、いいですね。

彼と作っていくものが素敵な家族であることを祈っています。」




 このまま咲笑ちゃんが、幸せな道をまっすぐ立ち止まらずに進んで行くかというと、そうではない。

この後も、僕はもう少しだけカウンセラーとして頼られる機会があった。



 でも咲笑ちゃんは少しずつ、でも確実に前に進んでいた。



「幸せに慣れるのは、相当の体力がいります。

旦那様と旅行に出かけていました。

こんなに幸せでいいのか、と何度も不安になりました。でも、とても楽しい旅行でした。」



「幸せに慣れるってほんとに大変だと思うけど、歯を食いしばって進んでください。

そして、咲笑ちゃんは幸せでいいんです。

是非自分でも、自分が幸せになることを許可してくださいね。」



「はい。ありがとうございます。

旦那様はとても健康で、死にたい人の気持ちが分からない人です。

だからこそ良いのですが、たまに苦しいです。」



「心身共に健康。咲笑ちゃん自身が、そんな風になれる日まで頑張ろうね。

その時には、健康じゃない人のことも理解できる咲笑ちゃんが、今度は誰かの力になれるかもしれないね。」



「そうですね。彼は『分からんのにいろいろ言ってごめん。』と言ってくれます。」


「優しい旦那さんだね。

きっと彼が咲笑ちゃんを導いてくれるんだろうね。

咲笑ちゃんには使いたくなかった言葉を、今は使う時だと信じて僕は願い、使い続けます。

咲笑ちゃん、頑張れ!」




「ありがとうございます。」




「報告です。

旦那様が怒った時、『怖いから怒らないで』と言えました!」



きちんと伝えられる、そんな素敵な変化があったんだね。

少しずつ、一歩ずつ、前に進んで行こうね。

報告ありがとう。」




 そして、僕が知り合ってから3度目となる咲笑ちゃんの誕生日。

僕からのメッセージに対して、これまでとは全く違う言葉が返ってきた。



「咲笑ちゃん、誕生日おめでとう。

幸せに慣れるには時間が必要だから、苦しいことも多いと思うけど、いつも応援しています。

過去を上書きする幸せな一日を過ごしてね。」



「ありがとうございます。
少しずつ、分かってきました。」




 そしてこの言葉の後も、咲笑ちゃんはまだ頑張り続ける。


 自分の苦しさを素直に受け止め、過去を冷静に振り返る姿。それを僕に報告してくれる時も、「以上、報告です。言いたかったんです。」「幸せにはまだ慣れません。」と苦しさをぶつけるのではなく、溜め込むのでもない。
僕はその成長した姿と新しい頑張りを嬉しく、誇らしく思っていた。



 これから先も、咲笑ちゃんは悩み続けるのかもしれない。
苦しみはなくならないかもしれない。

でもきっと、彼女は前に向かって歩み続けてくれると僕は思う。

咲笑ちゃんが進むその道に、僕はいない。
もう既に、僕の役割は終わっているんだろう。

僕は、咲笑ちゃんに出会えて幸せだった。









幸せを手に入れる最後の方法
~2年間のカウンセリング実録~



最後までお読みくださり、ありがとうございました。



次回はまた明日の更新です。

いよいよ残り2回、ぜひ最後までおつきあいください。

よろしくお願いします。

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