Kindle unlimtedのおすすめ:『トラブルなう』

 著者が、『月刊実話ナックスルズ』という雑誌の編集者をしていた当時に寄せられた苦情の数々、そしてそれへの対応の一部、極一部が収められている。『トラブルなう』というタイトルは、まさにそうして寄せられた苦情やクレームの対応に四苦八苦している状況を端的に表している。
 こうして編集部に送られてくるクレームや苦情は決して理不尽なクレームなどではないのだ。なぜか?

編集者とは恫喝、脅迫、恐喝、暴力、拉致、などに耐えうる者である。

トラブルなう 久田将義  ミリオン出版/大洋図書 2014年 位置No.5

 そう。編集者の主な仕事であるから、それらは理不尽なクレームなどでは決してない。はずだ。なぜなら、これが編集者の仕事であるためだ。実際にクレームや苦情が理不尽かどうかは、是非皆さん自分で読んでみてから判断して欲しい。

 本の構成というか、著者の意図としては、まず基本的には面白おかしい読み物として。そして、人によっては何か得る物のある教本として役立つだろうという意識で作られている。どちらの読み方をしても十分面白いだろう。

 まず、面白おかしい読み物として見る場合。これはそのまま読めば良い。著者が状況からやや距離を置いて、状況を俯瞰して記述している。それと、話の最後に「反省点」という、一種の振り返りがある。「あの時はこういう対応をしたけども、こうした方がよかったなあ」とか、「この対応は正しかったなあ」とか、そうした総括がなされている。つまり反省点とは名ばかりで反省していない事もあるから、やはり振り返りという認識が正しいのだろう。

クレームや苦情を入れてくる相手は、もちろん暇つぶしにやっている例も載っているが、何も暇つぶしでやっている相手ばかりではない。仕事の一環として、こうした苦情やクレームをしている。仕事というと語弊があるかも知れないが、何らかの目的があってクレームを入れてくる。次の選挙対策であったり、金銭を得ようとか、なんとなく癪にさわるからだとか、癪にさわるというのは目的があるとは言い難いかも知れないが、動機としては成り立つ。
 というとつまり、クレームの目的(動機)は恐らく三つに分けられよう。1金銭を得る商売として、2 評判のため、3 存在が気に喰わないため。この三つだ。1と2は目的から現れるクレーム、3は動機だ。
 アウトロー編が最初にあるが、これを分類するなら1。政治家編は主に2、場合によっては2と3が渾然一体となって同居している。最後にある文化人編も、2あるいは3と言ったところだろう。とはいえ、裁判沙汰にして示談金を目的としているように受け取れる例もあったから、これを2ではなく1として判断する事も可能だろう。
 こうした諸々の理由により、クレームは編集長の下に現れる。特に、政治家のクレームは性質が悪い。司法もちょこっと登場するのだが、国の機関というか、運営する人材がこんなのでいいのかな?という不安を禁じ得ない場面が多々ある。

 これらを教本として役立てようとするのであれば、著者の立ち振る舞いを参考にすればいいだろう。相手のいう事を聞く必要はないが、突っぱねるだけでは問題は解決しない。どうにか落としどころを見つける必要があるのだが、その落としどころを見つける方法の参考になる事は間違いない。先程挙げた3つのどれがクレーマーの動機であったとしても、落としどころは必ず見つかる。1と2の場合であっても、こちらが要求をのまないという主張を徹底できれば、相手も折れる。目的があってやっているのだから、その目的がどうにも達成できそうではない、あるいは達成するにしても損の方が上回ると悟ればやめる。3のような場合でも、対処を誤らなければ、解決させる事は可能だという事が掲載されている。
 本書は二回、つまり最初はドキドキハラハラの読み物として、次は冷静に自分の身に起きた現象であると仮定して、教本として読むのが良いだろう。本の内容は変わらないが、受け止められ方はそれぞれで全く違って見えるはずだ。

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