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ライトなラストランチ。

マネージャーと二人三脚で丸6年やってきた事務所を本日をもって退所する。「退所したい」と話したのは、6月半ばのこと。今までにもたくさんのことを話してきたけど、考えた末この決断に至った。
話した後、駅に向かうマネージャーの背中を見えなくなるまで見送った。下を向いて、いつもより小さい背中に見えた。その小ささも目に焼きつけた。

それから、初めて会うある日。
離れることがお互いわかりながら会うというのは、目を合わせるタイミングも考えてしまうくらい、むずそわする。いろんな事務的なことの話し合いをしましょうという今回だったけど、マネージャーの方から「ランチでもどうですか?」と連絡が来たので、なんの躊躇もなく「是非しましょう!」と返信した。

嬉しかった。話し合うだけでなく、食べ合いながら話せるというのは話だけに集中せず、自然と空気がほころぶため、そのお誘いが嬉しかった。

食べることが大好きだった私たちは、メニューを開いて「あ、デザートも美味しそう」となる。ランチからの、後でデザート注文だなという暗黙のコースが決まる。マネージャーが「煮込みハンバーグだなー」と言った。「私もだなー」と言った。

今までなら「じゃあ違うの注文するから、ちょっと食べる?」という展開もあった。でも今日は違う。そりゃそうだよね、とは思ったけど、その「今まで」がふと浮かんだんだなぁ。

「堅苦しい話はこれで終わり」とハンバーグを食べ終わったくらいにマネージャーが言った。そこから何の話をしたかというと、出会った7年前からほんとにいろんな場所で美味しいものを食べたよね、という話。

日帰りで静岡に撮影で行った時は、せっかく来たのだからと、静岡の地酒と地魚を食べて東京に戻った。撮影がお昼過ぎに終わった時には、唐揚げ専門店からのお寿司からのラーメンと、夕暮れ前の罪悪感のなさを言い訳にたらふく食べたこともあった。

各場所に各美味がある。
それが2人の歴史でもあるのかもしれない。
そんな美味しい話をしながら、デザートを注文する。「やっぱりこれだよね」と同じチーズケーキで合致。

長い歩みの間に食べたいものや好みも分かち合っていたんだなと、ふと思えた。「退所」というある種の大きな変化は、こんな「ふと」をたくさんもたらしてくれるのだなとも思った。

いつものランチなら「いつものこと」と流せることが、関係性が変わる「ラストランチ」と思うと、いろんな瞬間に歴史と些細な感情が垣間見えたりする。

だからかな。ずっと軽やかに口角が上がっていたと思う。「離れる」って一見暗くなりそうだけど、全然そんなことなくて、ケーキを食べ終わっても話が止まらなくて、もう一杯ティーを頼んだくらい話が終わらなかった。重い感じの「終わらせたくなかった」とかじゃなくて、「話しておきたかった」が近いのかな。

私の髪、ロングヘアだったよねって話なんて普段「日常」だとしない。長かった髪が坊主になるなんてねって笑ったり。今までさらりと過ぎ去っていったことを、改めて一緒に振り返られて、言葉にし合えた。思い出の駅と味の多さには驚いて笑ったけど、二人三脚でやってきたこの年月の何にも代えがたい証拠なのかなとも思った。

忘れていることも、きっとたくさんある。でもまた「ふと」思い出すあの瞬間が、これからたくさんあるのかな、なんて。

私が映像作品に出演できたのはマネージャーと出会えたから。一緒に事務所名を考えたのも懐かしいなぁ。決まった経緯もはっきり覚えている。考えること、身の回りの変化が増えて、このような形にはなったけど、きっと終わりじゃないよね。

「辞めると聞いて驚いた〇〇くんが、二言目には送別会しましょ!って言ってたよ」

私が自分から事務所を辞めたいと突然言ったのに。思いもしなかった「送別会」という言葉に、走馬灯のように事務所の皆さんの顔が浮かんだ。

私以外はみんな音楽スタッフで、ジャンル違えど切磋琢磨し合える関係の面白い方たちで、好き。年間通してもそれほど会う機会もないけど、そんな提案をしていただき、私の周りの素敵な方たちに心から感謝した。オファーしてくださる方々もキッカケはマネージャーの繋がりで、たくさんの方と知り合えているのもマネージャーとの今までの確実な痕跡だね。

自分の中でのこの変化と決断を周りの方々のやさしい言葉によって、良かったものと思わせていただいている。次の所属先が決まってるわけではないため、実質「フリースタイル」という形にはなるけど、今までの関係性を変えないでいてくれる人ばかりなことに感謝し、しっかり前を向いて芝居を続けていこうという気持ちが増すキッカケにもなる大きな決断になった。

帰り際にマネージャーが言った。

「お互い、これからに向かってがんばろう!」

「うん!がんばろうね!」

「違うな。未来に向かって楽しもう!」

「そうね。ほんと、楽しんでやってこう!」

こんな風に最後に言い合える有難みが、全身の血流を流してくれるかのように身も心もほぐしてくれた。

たまたまなんだけど、退所日の今日、祖母の誕生日で、母に様子を聞いた。

「92歳!めでたい!骨折したけど、もう大丈夫です。ご心配なく」

「おじいちゃんは?」

「施設変わって、ご飯全部食べてるから大丈夫。生きてます。頑張ってる!」

「それはよかった!すごいね。その生き様を見たいよ」

と送ったら、

「生き抜くのよ」

と来た。

予想超えた言葉に痺れながら
「そうやな。ママもねっ!」と送ったら

「ママはいつも走り抜けてるわ。
12秒くらいかかるけど」

笑った。やはり母は愉快に偉大だよ。
今日を前向きに笑えられて嬉しいです。

事務所アベニールを通じて出会った皆様、そして、事務所関係者の皆様、本当にありがとうございました!!!芝居に対する気持ちも、未来に向けて引き締まる気持ちも増しております。アベニールとはクリエイティブなことで一緒にやりたいですし、変わらず接してくださることにも感謝です。

今後とも、長内映里香をどうぞよろしくお願い致します!!!

マネージャーを紹介してくださった方には直接お話する約束をした。この方がいなかったら始まってなかった事務所アベニールです。そしてこの方は、前回のnoteに書いたお墓参りに行った方のご紹介でした。人の繋がりで生かされてるなと実感することばかりです。

「アベニール」はフランス語で未来、将来という意味です。これからもきっと人との繋がりで生かされ、どんな未来でも生き抜く私でありたいなと思う今日になりました。

阿部さん、大変お世話になりました。
ありがとうございます。また笑顔で逢いましょね。

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