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Vol.23「検視」

監察医制度

死体解剖保存法第8条第1項に、政令で定める地を管轄する都道府県知事は、その地域内における伝染病、中毒又は災害により死亡した疑のある死体その他死因の明らかでない死体について、その死因を明らかにするため監察医を置き、これに検案をさせ、又は検案によつても死因の判明しない場合には解剖させることができる。とあります。

よくドラマの舞台にもなっていますが、「監察医を置くべき地域を定める政令」により東京23区、横浜市、名古屋市、神戸市、そして大阪市の5地区に監察医を置くことが定められています。
しかし、現在も制度が残るのは事実上東京23区、神戸市、大阪市の3カ所のみで、大阪でも年間1億円超の財政負担を考慮して廃止が検討されていましたが、2017年12月、「監察医制度」の当面存続が決まったことが話題になりました。

平成30年度の大阪府監察医事務所での検案数は4,772、
解剖数は918にのぼります。

大阪府監察医事務所

監察医制度の本来の目的は、「公衆衛生の向上」のため、感染症かどうかを調べるのが狙いでした。

森之宮にある大阪府監察医事務所には、約40人の非常勤監察医が1日2人体制で勤務しています。事件性が薄いと判断した大阪市内の変死体を検案し、死因がわからない場合は解剖(行政解剖)を行います。

大阪市外では警察が委嘱する「警察医」が検案を行います。

検視と検案の違い

検視は、変死の疑いがある場合、犯罪の嫌疑の有無を明らかにするための
刑事手続きです(刑事訴訟法第229条)。
大阪府警察には日本で唯一の「検視調査課」という専門部署があり、2019年4月からは監察医事務所に常駐して、不審死の「見逃し」を防いでいます。
所轄の警察署では刑事課強行犯係が担当します。

検案は、監察医などが遺体の外表面を検査し、病歴や死亡時の状況などから
死因や死亡時間を医学的に判定します。検視や検案で死因や犯罪性を特定できない時に「解剖」を行います。

検視」「検案」「解剖」までをまとめて「検死」と言いますが、
「検死」という法律用語はありません。

行政解剖

検案の結果、死因が明らかではない場合には解剖して調べることになります。これを「行政解剖」と言います。
行政解剖は「犯罪性の疑いが認められない」場合に監察医が執り行ないます。監察医が検案する大阪市では死体解剖保存法に基づき、遺族の承諾なしで解剖が可能です。

監察医のいない地域では「行政解剖」のことを「承諾解剖」と呼び、遺族の承諾が必要となります。

食中毒で亡くなった場合は、食品衛生法に基づいて行政解剖が行われます。重大な被害が出ている場合は、遺族の承諾なしで解剖するケースもあります。

司法解剖

犯罪の可能性が認められる遺体について、刑事訴訟法および死体解剖保存法に基づき、刑事事件の処理の目的のために行われるのが「司法解剖」です。
行政解剖と司法解剖をまとめて「法医解剖」と言います。

司法解剖には遺族の承諾が必要ですが、裁判所から「鑑定処分許可状」が発行されれば遺族の許可がなくても強制的に行えます。

行政解剖の途中で犯罪死の疑いが出れば、司法解剖に移行することもあります。

司法解剖は、その結果によって事件の真相が解明できたり、裁判の証拠に影響が出るため、最寄りの大学病院の医学部で法医学者が執行するのが原則です。よって、行政解剖よりも時間がかかります。

新法解剖

2013年4月から、新たな法医解剖として「死因・身元調査法解剖」こと「新法解剖」が加わりました。
警察署長の権限で実行され、司法解剖と同様大学の法医学教室で解剖されます。司法解剖のような司法手続きは不要で、身元不明の場合は遺族の承諾なしで解剖ができます。
司法解剖ほど犯罪性はないが、乳幼児突然死や若年者の突然死、ホームレスや独居老人の在宅死など、解剖したほうが良いと考えられるときに実施されます。
東京都では司法解剖よりも新法解剖の実施件数が増え、今後全国的に多くなると考えられます。

解剖の費用

大阪市の場合、死体検案書は森之宮にある大阪府監察医事務所で発行されます。大阪市以外の地域では、警察指定の警察医で発行されます。検案書の料金は大阪市内だと2万円ですが、警察医では3万〜6万と高額になります。

解剖の費用は、司法解剖の場合は国が、行政解剖の場合は市区町村が負担しますが、承諾解剖の場合は解剖費用の一部、あるいは全額を遺族が負担しなければならない自治体もあります。
横浜市や川崎市では解剖費用に数万円〜10万円ほどかかるそうです。

検視後のご遺体のお迎えは、一般的には所轄の警察署の霊安室、行政解剖の場合は監察医事務所、または大学病院の霊安室、司法解剖の場合は大学病院の霊安室、または所轄の警察署に移送される事があり、確認が必要です。

交通事故死の場合、交通課が捜査をするため遺体や検案書の引き渡し方法が異なることがあります。その都度確認してください。

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解剖の種類

解剖は、それを執行する者によって3種類にわかれます。

一つ目が、ここまで述べてきた観察医、警察医、法医学者が法医学上の目的で行う法医解剖。法医学とは「法律医学」「裁判医学」とも呼ばれるように、犯罪捜査や裁判で必要とされる医学的項目を研究・応用する学問です。

二つ目が病理解剖
三つ目が正常解剖です。

病理解剖

病気が原因で亡くなった人の、死因となった病気の種類などの解明や、公衆衛生の向上、医学の教育に役立てる事を目的とした解剖を「病理解剖」と言います。病理解剖は死体解剖保存法に基づき行われ、遺族の同意が必要です。

病理解剖は、死後24時間以内に、病理医によって執行されます。
病理解剖後、遺族に寝台料金の負担を申し出る病院もあります。

正常解剖

正常解剖とは、人体の構造を調べるために医学部の解剖学教室で行う解剖です。この時に解剖される遺体は、いわゆる献体(けんたい)によるものです。「系統解剖」とも言います。

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献体とは、医学生や歯学生等の教育のための解剖実習に遺体を提供することです。人生最後の社会貢献と、献体登録されている方が増えているそうです。(献体登録者数は2014年で26万人)

献体登録は、献体篤志家団体(献体の会)または医科大学(大学病院ではない)に登録申請を行います。献体登録には肉親の同意が必要です。

献体登録されたご遺体は、遺族が献体登録先に連絡することによりはじめて実行されます。大学では適切な防腐処置を行うために、原則死後48時間以内の引き取りを希望しています。
当然、お葬式は可能です。
腐敗防止のためにドライアイスをあてますが、直接ご遺体に触れないように注意しましょう。

出棺では大学側が用意した車に遺体を載せ、火葬場ではなく大学に移送します。献体されたご遺体は、正常解剖後、1〜3年後に遺骨となって遺族の元に帰ります。大学側が指定する斎場での火葬許可証が必要となります。

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表紙イラスト きむら

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