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Vol.12「真言宗」

顕教と密教

密教とは、読んで字のごとく「秘密の教え」。

教えや作法に神秘的な部分が多く、段階を経ないと公開されない秘密の部分が多いからだそうです。

対して密教以外の、経典などでお釈迦様の教えを顕わにしたものを「顕教」といいます。

顕教では輪廻転生をくり返し、長い時間をかけなければ悟りを得られないのに対して、密教では生身のままで悟りを開けるとしています。

インドで生まれた密教は中国に伝わり、七人の祖を経て空海へと教え継がれます。八祖となった空海は、密教の正当な教えを日本に持ち帰りました。

仏教界のカリスマ・空海は、1200年経った今でも高野山で生きています。

そう、今でも、、、

密教の正統な継承者

天台宗の開祖・最澄は767年生まれ。
真言宗の開祖・空海は774年生まれで7歳年下です。

讃岐(今の香川県)の役人の子として生まれた空海は、早くから京の大学で学びエリート街道を進みます。ところが宗教にのめり込み、大学を中退。官の許可を得ない僧侶・私度僧(しどそう)となり山岳修行に励みます。

30歳の時に遣唐使として中国へ船で渡ります。この時、別の船には最澄も乗っていました。すでに仏教界の第一人者だった最澄は1年間の通訳付き国費派遣だったのに対し、空海は自費留学で20年の在唐予定でした。

空海は唐の都・長安で、大日如来から密教の経典と教えを正統に受け継ぐ
恵果(けいか/えか)に弟子入り。恵果は密教の教えの全てを空海に伝え、正統な継承者として灌頂(かんじょう)を授けます。

灌頂とは、煩悩を洗い流す智水(ちすい)を頭に注ぐ儀式です。密教では授戒やひとつ上の位に上がる時に用いられ、これをもって師から弟子へ教えが正当に継承されたと考えます。

密教をたった2年でマスターした空海は予定を早めて帰国。密教の正統は、中国から日本へと伝わってきたのです。

台密と東密

空海は帰国後、鎮護国家の御修法(みしほ)を行い、その名が天下に知れ渡ります。御修法とは、天皇の安寧や国家の安泰を祈る秘法です。宮中の正月行事でしたが、現在でも真言宗の最高儀式として、毎年1月8日に東寺で「後七日御修法」が行われています。

空海の下にはたくさんの僧侶が弟子入りし、最澄も弟子の筆頭として灌頂を授かっています。(のちに経典の貸し借りをめぐり、絶縁)

空海は高野山金剛峯寺(こんごうぶじ)を修禅(瞑想)の道場として開山。京都の東寺=教王護国寺(きょうおうごこくじ)を根本道場として真言宗の宗団を確立しました。

天台密教を台密(たいみつ)と呼ぶのに対し、真言密教は東寺を基盤としたので東密(とうみつ)と呼ばれました。

真言宗と天台宗

密教の正統な伝承者となった空海が開宗した真言宗は、大日如来を根本本尊としてまつり、大日如来の教えを説いた『大日経(だいにちきょう)』と『金剛頂経(こんごうちょうきょう)』の経典をよりどころとしています。真言宗以外はすべて顕教であり、密教は顕教を包括するという考えです。

一方、天台宗では顕教も密教と同じと考え、釈迦牟尼仏をご本尊としてまつり、お釈迦様の最終的な教えとされる『法華経』をよりどころとします。  

弘法大師・空海

入定(にゅうじょう)とは、真言密教の究極の修行法のひとつで、永遠の瞑想に入ることを言います。肉体は現し身のままで即ち仏となるため、即身仏(そくしんぶつ)と呼ばれます。

日本で初めて入定したのは空海です。高野山では、空海は今も奥之院で禅定を続けており、1200年もの間、毎日二度の食事が届けられています。

空海の入定後、仏の教えを世間に広め、衆生に利益を与えた「弘法利生(こうぼうりしょう)」の功績を讃え、弘法大師(こうぼうだいし)の諡号が贈られました。歴史上、朝廷から大師号の諡号(しごう)を下賜された高僧は24名いますが、一般に「大師」と言えば弘法大師を表します。

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南無大師遍照金剛

真言宗の葬儀の際に、『南無大師遍照金剛』の軸(ご本尊)を掛けます。
この八文字はご宝号(ほうごう)とも、弘法名号(こうぼうみょうごう)とも呼ばれます。

南無とは、「帰依(きえ)する」ということ。帰依とは、尊いものを全身全霊で信じ、よりどころにする=すがるという意味があります。
大師はそのまま「弘法大師」空海のことです。
遍照金剛は、「太陽のごとくすべてを照らす慈悲と、人を幸せにする砕けることなき智慧の持ち主」という意味があり、大日如来の別名でもあります。

空海が唐で密教を極めて灌頂を授かったときに「遍照金剛」の名を師・恵果より贈られました。「南無大師遍照金剛」とはつまり、「弘法大師・空海に帰依します」という意味です。 

真言宗の葬儀

真言宗の葬儀は「即身成仏(そくしんじょうぶつ)」へ導く儀式です。即身成仏とは、この身このままで成仏することです。これまでの仏教では、成仏するためには人間の寿命をはるかに超えた長い修行を必要とするのに対し、空海は、「人間は生きている間にこの身このままでの成仏が可能である」と説いたのです。

剃髪授戒によって死者を仏弟子として戒名を与え、灌頂(水を頭に注ぐ儀式)を施します。師から弟子へ仏の教えを授ける血脈(けちみゃく)を授けて引導(いんどう)とし、死者が大日如来と一体であることを悟らせ、成仏のためのさまざまな秘印明(ひいんみょう)印の結び方と真言を授けます。

真言(しんごん)

真言とは、真実の言葉で仏様の真理を説き、その徳をたたえる短いお経のことです。古代インドに伝わるサンスクリット語(梵語)を翻訳せずにそのまま音写しています。真言をサンスクリット語では「マントラ」と言います。

真言宗で最も多く唱えられるのが光明真言です。

「おん あぼきゃ べいろしゃのう
  まかぼだら まに はんどま 
  じんばら はらばりたや うん」

光明真言とは大日如来の祈りの言葉で、すべての災いを振り払う最強の真言と言われています。

洒水(しゃすい)と五鈷杵(ごこしょ)

葬儀でさまざまな仏具を使うのも真言宗の特徴です。

洒水器(しゃすいき)と呼ばれる金属製の小鉢に水を入れ、散杖(さんじょう)の先でかき混ぜながら真言を唱え、散杖を振って水を散らして場を浄めます。

上のイラストで空海が手にしているのが、金剛杵(こんごうしょ)と呼ばれる法具です。仏様の教えが煩悩を滅ぼして悟りを求める心を表すシンボルとして、古代インドの武器を模して作られています。棒状の両端に槍状の刃が付いており、その刃の数から独鈷杵(とっこしょ)、五鈷杵などがあります。寺院が用意した五鈷杵をお守りとして棺に納める場合もあります。  

真言宗の焼香作法

真言宗の正式な焼香回数は3回、線香は3本立てるのが一般的とされています。仏・法・僧の三宝への帰依や、身・口・意の三密行に精進することを表すといわれます。

また、1回目は戒香(かいこう。身を戒める)、2回目は定香(じょうこう。心を静める)、3回目は解脱香(げだつこう。煩悩からの解放)を
意味するとも言われています。

阿字観

「阿字の子が 阿字の古里 立ち出でて また立ち返る 阿字の古里」という御詠歌は、梵字の「阿」が表す大日如来とその生命に万物が還っていくことを示しており、真言宗の葬儀感を端的に物語るものと言われています。この御詠歌は、愛弟子を亡くした空海がその満中陰の時に詠まれたそうです。  

御詠歌とは仏教の教えを五・七・五・七・七の和歌にし、旋律や曲に乗せて唱えるものです。五七調あるいは七五調の詞に曲をつけたものを「和讃(わさん)」と呼びます。

「阿字の古里」とは、仏様の世界のこと。私たちは仏様の世界より生まれ、死ぬとまた仏様の世界に還る、という意味の歌です。

大日とは「大いなる日輪」を意味し、太陽を司る毘盧舎那如来がさらに進化した姿とされる大日如来。密教では宇宙そのものを指します。

三つ折り本尊の、中央が大日如来です。右が真言宗の開祖・弘法大師空海、
左が不動明王(ふどうみょうおう)です。不動明王は大日如来が変化した姿です。如来の姿では言うことを聞かない衆生に、悪を絶ち仏道に導くことで救済する役目を担っていることから、恐ろしい表情をしているとされています。

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真言宗のおもな宗派

真言宗は数多くの門派に分かれ、主要な18の本山が連合して「真言宗各派総大本山会」を組織しています。
大まかには3つのグループ分けができます。

古義真言宗(こぎしんごんしゅう)

新義真言宗に対して、古くからの教義を重んじるため、古義真言宗と呼ばれるようになりました。
・高野山真言宗…金剛峯寺
・東寺真言宗…教王護国寺(東寺)
・真言宗善通寺(ぜんつうじ)派…善通寺(香川県)
・真言宗御室(おむろ)派…仁和(にんな)寺
・真言宗醍醐派…醍醐寺(だいごじ)
醍醐寺は修験道当山(とうざん)派の総本山も兼ねます。
など

新義真言宗(しんぎしんごんしゅう)

平安時代後期に宗派の改革を図り、反発を受けて高野山をおりた覚鑁(かくばん)が和歌山の根来寺(ねごろじ)に根本道場を開きます。古義真言宗との違いは、即身成仏に加えて浄土思想も引導を行う際の中心的な考えとしている点です。
・新義真言宗…根来寺
・真言宗豊山派(ぶざんは)…長谷寺(はせでら)
・真言宗智山派(ちさんは)…智積院(ちしゃくいん)
など

真言律宗(しんごんりっしゅう)

鎌倉時代に叡尊(えいぞん)が奈良の西大寺を復興し、律宗の教えである戒律を取り入れました。
・真言律宗…西大寺(さいだいじ)

生生生生暗生始死死死死冥死終

「生まれ生まれ生まれ生まれて生の始めに暗く、死に死に死に死んで死の終わりに冥(くら)し」という空海の言葉があります。
人は何度生き死にを繰り返そうとも、なぜ生まれるのか、なぜ死ぬのかを知らない。「人間の一生は限りがあるが、それでも人のために、自己の向上を目指して生きよう」と言っています。

死ぬ気でなにかに取り組んでみる。
時には覚悟も必要です!

まとめ

・密教は「即身成仏」。空海は高野山で、今でも瞑想しています
・真言密教の教主は大日如来。大日如来は宇宙そのもの
・南無大師遍照金剛は空海に帰依しますという意味


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