焼酎記念日
夢に父方の祖父が出てきた。
こう書くとなんだか、祖父がもう亡き人のように思えるけれどまだまだ存命である。夢の中の祖父は自転車に乗っていた気がする。
小さいとき見ていたままの景色が再生されていた。祖父と妹といつの間にか祖母もいて、みんなで一緒に自転車に乗って、なんだかおいしいものを食べて、また明日ね、と言って別れたところで目が覚めた。仕事の日なのにとてもいい目覚めだった。少し寝坊したけれど余裕で出社に間に合ったし、得した気分とはこれのことかね、と思う。
最近は関東でも初雪が降ったと、会社の人がひぃひぃ言いながら話していた。確かに寒い。雪が降らないのが不思議なくらい寒い。
鍋食べたいなぁ、と思う。厚揚げとねぎのそんなに凝っていない、さっぱりした味のやつを食べたい。塩辛なんかもつけて、ビールとか日本酒とか甘くないお酒でふくふくと温まりたい。家にお猪口があるのだ。あれを使って吞むのもいいよなぁ、と思う。
あと、冬に食べたいもの(ツマミ)と言えば、焼き魚と、白菜の漬物(七味を少しかけてもいい)と、デザートに焼いたあんこ入りの丸い餅(名前がわからない)も食べたい。
食べたいものにあふれている。これではただの食べ過ぎだ。ダイエット宣言を撤回してしまいそうだし、普通に体にもよくない。正月太りのまえに一二月太りである。やることが早すぎる。仕事は早い方がいいとよく言われるけれど、なんでも早けりゃいいってもんじゃない。
そう言えば、祖父は焼酎派なのである。大五郎という、大きなペットボトルに入ったお酒をご存じだろうか。中身は、ひたすら焼酎である。祖父が言うには、朝は焼酎で夜にビールを吞む方がおなかの調子がいいそうだ。
私が子供の頃は、朝、酔わない程度に焼酎を吞んでから、自転車で出かけたりなんやらして、夜はまた焼酎を少しとビールを吞んでいた。遺伝なのかなんなのかわからないけれど、ビールを吞み始めてしばらくは私もよくお腹を壊していた。
祖父はもう寝たきりなのだそうだ。先日、母に会った時、ぽそりと漏らした。やけにじいちゃんの思い出話するなぁ、と思ったら突然言い出した。七月から寝たきりだと言っていて、話す時はこちらを見てくれなかった。
あなたのそういうところが嫌い、と言えばい
いのか、祖父の病状を聞けばいいのかわからない。黙っていると、母が勝手に祖父の状態を話し出した。何を言っているのか細かいことはわからなかったけれど、命に別状はないようだった。
父と母の離婚の事情で、最近は年末にしか祖父母に会えていなかった。もう、自転車に乗る祖父を見ることはできない。
気が付いたら、どうにもならないものをたくさん手にしていた。私と祖父の思い出を楽しそうに話し続ける母が理解できなかった。