クリエイターの仕事(後編) 〜クライアントの要望を飲むリスク〜

昨日書いた「クリエイターの仕事(前編)〜制作と課題解決〜」の続き。


前編の内容を大まかに言うと、

クリエイターには「制作物をつくる仕事(A)」と「課題を解決する仕事(B)」があって、自分が今している仕事がどちらなのかをしっかり認識しておく必要がありますよ

という話です。
前編は前置きみたいなもので、こっちだけでもいいくらいだったかも。

後編は、それを踏まえて、クリエイター側の目線で気をつけることについて書いていきます。

課題解決を売るクリエイター

Bの仕事を売ろうとするクリエイターであれば、まずクライアントから制作物の目的を確認して、その上で発注の内容と目的が結びついているのかを判断しなければならない

「チラシやWebサイトをつくってほしい」という発注の背景にある目的が、「集客したい」なのか「ブランディングしたい」なのか「名刺代わりにしたい」なのか、ということだ。

そして、もしそこに食い違いが生じている場合、クライアントにそれを説明して、目的に沿った別のものを提案する
それをクライアントが拒んで、あくまでも当初の発注通りの制作を要望するなら、Aの仕事に切り替えるか、あるいは仕事そのものを断ることになる。

ここの区別ができていなかったり、見誤ったまま仕事を進めていくクリエイターは、クライアントとのコミュニケーションに摩擦が生まれたり、適正な報酬を得られないという事態に陥っていく。

そして、この先求められるクリエイターというのは、言うまでもなくBの仕事を得意としたクリエイターであろう。

モノを作れるツールも、発信できるプラットフォームももうたくさんあって、何かを形にして外に出すハードルというのは極端に下がっている。
チラシや冊子くらいならもう誰でも作れるし、WebサイトだってwixなりBASEなりで簡単に作れてしまう。

これから先、もっと簡単にハイクオリティなものを作れるようになっていくのは明確なので、言われたものを形にするAの仕事だけをやっているクリエイターは、ちょっと厳しくなっていくはずだ。

とすると、クライアントの目的を達成するための課題解決を仕事に取り入れていくことが、クリエイターが生きていくためのキーになっていくことは間違いない。
(あくまでもクライアントを相手に仕事をしていく場合、の話である)

実際に、数年(十数年?)前くらいからそういう謳い文句で営業している広告代理店や制作会社は多くて、企業サイトを見ると、ソリューションとか「結果につなげる」という言葉が踊っている。
(クオリティはピンキリなので、発注者側としては、その実態をどうにかして見極めないといけない)

どこに責任が生じるか?

ここで、クリエイターが気をつけなければならないことがある。

先述のとおり、Aの仕事で発生する責任は「発注通りのものを仕上げること」である。
「売上を上げるために、このチラシをつくってほしい」と言われたのなら、そのチラシをつくればOK、という仕事なのだ。

では、Bの仕事で発生する仕事はというと、「クライアントの目的を達成すること」になる。
売上を上げることを目的とした仕事を受けたら「売上を上げる」ことに自分の責任が生じるのだ。

だから、まず自分が受注するのがAの仕事なのかBの仕事なのかを明確にして、あらかじめクライアントと共有しておかなければならない。

そして、Bの仕事を受けるなら、制作過程でクライアントの要望を飲むことにはリスクが生じることを肝に銘じておくことが大切だ。

クライアントの要望を飲むリスク

AとBの仕事では、全くその性質が異なるが、前編にも書いたとおり、クライアントはそこまで意識してはくれないケースが多い。
となると、仕事を受けるクリエイター側が、その部分の手綱をしっかり握っておく必要がある。

クライアントへのヒアリングと打ち合わせで、「売上10%アップ」という課題を解決する仕事を請けたとする。
そして、それを達成するためにこんなチラシを打ちましょう、となった。

ところが、いざそのチラシのデザインを仕上げて持っていくと、クライアントから細かい要望が色々と入ってくる。

コピーはこれに変えてほしい、色味をこうして、写真のサイズをこうしてほしい。

それが当初立てた戦略からそれる場合は、一旦ストップを掛けなければならない。

クライアントからの要望は突っぱねるべきだ、ということではなくて、果たしてそれが「売上アップ」につながる変更かどうかを再考する必要がある、ということだ。

クライアントの要望が当初の目的達成に結びつかないと判断されたら、こういう根拠があるから、その要望を反映すると売上が上がらない(もしくは、反映しないほうがプラスになる)ということを説明しなければらならない

もし、それでもその要望通りにつくってくれとクライアントが言うのであれば、できればその仕事を降りたほうがいい。
しかし、そこまでいって断ることはできない、だいたいの要望を飲まざるを得ない、というのが多くのクリエイターの現実だろうと思う。

ただ、少なくとも認識しておかなければならないのが、その要望を飲んだ結果「売上アップ」を達成できなかったときに、自分自身の価値が落ちるリスクがある、ということだ。
「クライアントの売上を上げる」というミッションを達成できなかったのだから、当然である。

チラシ1枚を例にしているから大げさに見えるかもしれないが、10万円のチラシだろうが、1億円かけるプロジェクトだろうが、これは同じことである。

だから、クライアントが目的達成への道のりを無視して要望を押し通そうとしてきた場合、そして断ることもできない場合は、せめてAの仕事に切り替える、という合意を得たほうがいい。

つまり、自分のつくったものが売上アップにつながらなくても、自分に責任がないことをはっきりさせておく、ということだ。

お金を受け取って仕事をする立場なのにそんな姿勢でいいのか、という指摘はまったくもって的外れだ。

レストランに行って、コックさんに豚肉とパイナップルとあんことパクチーと山芋と納豆を渡して、「これを全部混ぜ合わせて蒸し器にかけて、酢を多さじ10入れた料理を出してくれ」と発注したら、「おいしくならなくても知らないですよ」と言われるのと同じ理論である。

クライアントとの関係性とか、会社の中で自分の立ち位置とか、各々いろんな事情があって簡単な話ではないだろうとは思う。

でも、だからこそ、自分たちがやっている仕事にはAとBの種類の仕事があることや、自分の提供している(できる)のがどんなものであるか、またクライアントの目的と要望の関係性などについて、きちんと説明することが重要で、またそれもひとつの責任となる。

こういうことをきちんと説明しても理解してもらえない(自分の要望は通した上で、結果まで求めてくる)相手とは、強引にでも関係を断ち切ってしまったほうが、長期的には自分のためになるだろう。

会社に属していようが、フリーだろうが、経営者だろうが、自分の仕事を管理できないクリエイターは、どんどん信用を失っていくことになる。

自分の身を守るために、まずは自分の責任の範囲を明確にする習慣をつけていこう。

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