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M-1グランプリ2019 レビュー(後編)

超絶今さら企画「M-1グランプリ2019 レビュー」の後編。
前編はこちらです。

7.ミルクボーイ

決勝ラウンドぶっちぎりの1位。
ここに関しては、ネタのおもしろさでもウケ量でも文句なしの1位だろう。

シンプルにめちゃくちゃ笑った。
やっていることはあるあるネタ、大喜利的なことではあるものの、内海さんの言い回しだけでもシンプルにおもしろいし、なんと言っても毒の温度が絶妙で、どうしたって笑わされてしまう。

特定の商品を指してイジるネタなので、やり方を間違えると反感を買いかねないのだけれど、いわゆる「愛のあるイジり」の本当に丁度いいラインをついてくる。
「昔からよく食べていたからこそイジれる」というのもあるのかもしれない。
現に、ネタ元となったケロッグもTwitterで盛り上がりを見せて、見事にバズっていたあたり、まさにお墨付きということになる。

また、「コーンフレーク」というネタのチョイスも素晴らしかった。
彼らのネタは、特に特定の商品を指す場合、どうしても「わからない人は全くわからない」という弱みがある。

しかし、コーンフレークは僕らの世代(20〜30代前後、40代もなのかな?)は子どもの頃に通ってきていることが多い。
そして、その親世代はコーンフレークを子どもに買って朝ごはんとして出していたことになる。
結果、M-1を見る層のほとんどにハマるネタとなったというわけだ。

「純粋に過去のM-1ネタの中でもっとも面白いか」と言われればいろいろ意見はあるだろうが、会場のウケ方や勢いを見ていると、歴代最高得点もうなずける出来だったと言えるのではないだろうか。

8.オズワルド

みんな思っていることだけれど、ミルクボーイの後はきつかった。
これに尽きる。

あの会場がうねるウケ方と最高得点の余韻の中に飲まれてしまったという印象が強い。
大会直後でも、どんなネタだったか忘れてしまったという人は多いのではないだろうか。

彼らの出来自体が悪かったわけではない。
いつもの彼らの持ち味が出ていたと思うし、笑いもきちんととれていた。
ただ、からし蓮根のところでも書いたが、M-1は「いつもの彼ら」ではなかなか獲れない。

過去のチャンピオンや、話題になった組を見ると「M-1のときが一番おもしろかった!」というケースが多い。
会場の雰囲気だったり、もしかしたら色眼鏡もあるのかもしれないけれど、それでも突き抜けるコンビは普段と迫力が違うのが、テレビからでも伝わってくるのだ。

そういう意味では、オズワルドもまだまだこれからだ。

9.インディアンス

理想的な順を引き当てた! と思ったけれど、会場の雰囲気に完全にやられたパターンだった。
田渕さんが派手にネタを飛ばしたようで、それが最後まで尾を引いた。

ハマりさえすればめちゃくちゃ強かったと思うけれど、ハマらず不完全燃焼に終わったのは残念だった。
キャラに似合わず大舞台に弱いというのは、むしろバラエティでは面白がられるかもしれない。

そこにもつながるのだけれど、審査員の礼二さんから受けた「素の部分がもう少し出れば」という指摘は、今後の彼らの振る舞いへのヒントになるような感じもした。

10.ぺこぱ

今回のM-1の決勝は、雰囲気的にはミルクボーイで完全に一段落してしまっていた。
落ち着いたトーンのオズワルド、勢いに乗れないインディアンスで、「最後に色もので締め、最終決戦はミルクボーイvsベテラン2組の構図かな」と、無意識のうちに思ってしまった人も少なからずいたはずだ。

ネタの最初の30秒くらいまでは、たぶんその想像が現実のものになると、確信に近づいていくムードだったように思う。

しかし、志らくさんが評した通り、「最初嫌いだったけど、どんどん好きになる」のだ。
予習で何本かネタを見ていたけれど、それでも同じように感じさせられた。
まさに彼らの術中にハマったと言える。

ネタ自体がめちゃくちゃ面白いわけではないのだけれど、その独自のスタイルと相まって、「ああ、なんかいいな」「応援したいな」と思わせる魅力が、舞台の彼らにはあった。
見事に3位に食い込んだのは、その魅力が、会場の雰囲気とウケ方と、そして得点に表れた結果だろう。

まさに「キャラ芸人」。
ただし、ネタ中でイジったような単なる「色もの」的な意味ではなく、人間的な魅力を寝た中で感じさせるタイプのキャラ芸人だった。

最終決戦

ということで、最終決戦に残ったのはミルクボーイ、かまいたち、ぺこぱの3組。

ぺこぱは決勝のトリで最終決戦は1番手だったので、連続で披露することになった。
順番の妙なので仕方がないが、これは不利に働いただろう。

ネタとしては彼らも「型」で笑いを取るタイプなので、どうしても飽きがきてしまう。
結果的に最終決戦は厳しい戦いとなったが、彼らは十分すぎるほどインパクトを残して、大会後半の雰囲気を作り上げた。
間違いなく、今回の功労者の一人(一組)だったと言えるだろう。

かまいたちは、相変わらずさすがであった。
「変なこと言ってるけど、言われてみれば正しいかも」という可笑しさをベースに進めていく漫才で、スタイルとしては昨年のポイントカードネタに近かった。
山内さんのあの何を考えているのかわからないのに、それでいて人間臭い感じに、なんとも言えず惹きつけられる。
だから、僕個人的にはかまいたちはコントよりも漫才が好きだ。

たぶん、こっちを1本目にしていてもほとんど同じくらいの高得点を叩き出していたであろう、と思わせる安定感だった。

ミルクボーイは、当たり前かもしれないが、1本目ほどの勢いはなかったかな、という印象。
かなり高いレベルでの話でのことだけれど、1本目に比べると一つひとつのボケ(ツッコミ)はハマっていなかったように思う。
彼らのスタイルに対してすでに耐性ができていたあの場だったので、食べ物ネタからは離れても良かったかも。
また、1本目が固有の商品だったのに対して「最中」全般の話になったのも、毒の切れ味を弱める一因になったかな、という印象だった。

1本目の出来が良すぎただけに苦言みたいになったけれど、面白かったことに違いはない。
彼らほど色んなパターンのネタが見たい!と思わせたコンビもそうそういなかっただろう。
同じく彼らほど真似したい! と思わせたコンビも。

結果は、皆さんご存知の通り。

元も子もないことを言えば、決勝で勝負は決まっていたかな、という感じであった。
1本目のあのインパクトに魅せられて、今大会はミルクボーイの圧勝という結果で幕を閉じた。

最終決戦の結果は妥当か?

上にも書いたけれど、ミルクボーイの最終決戦のネタは決勝ほどではなかったかな? というのが僕の感想であった。
「最終決戦だけを公平に見れば、かまいたちが優勝だった」という感想を抱いた人もいるだろう。

もしこれが、キングオブコントのように2本のネタの得点合計で決まるシステムだったら、もしかしたらかまいたちが獲っていたかもしれない。
しかし、これは決して不公平だと言っているわけではなくて、単に「システムによって結果は変わるかもね」というだけのことである。

「最終決戦は1本目の内容は見ずに、最終決戦のネタだけで審査するべき」という意見もあるだろうけれど、これは無理というものだ。

なぜなら、お客さんは確実に1本目に影響されるから。
「飽き」を感じさせてしまえばウケは減るし、逆に1本目を伏線にしてウケを取るケースもある。
審査員も人間だし、そもそもウケ量や会場の盛り上がりも審査基準になるという時点で、「最終決戦のネタだけ」で判断するのは不可能だ。

さらに言えば、「そのコンビのことをどのくらい知っているか」によっても大きく左右される。
(この話については、「フリと笑い」みたいなテーマで後日記事にしてもいいなぁ)

このnoteでも何度か触れているが、「初見だからこそウケるネタ」も、「キャラクターを知っているからこそウケるネタ(コンビ)」もある。

つまり、どんな大会であっても、純粋に「その日の出来、4分の出来」だけで審査することは不可能なのだ。

だからこそ、今回のミルクボーイの優勝は、僕は文句のつけようがない結果だと思っている。

決勝の4分間で完全に会場(と審査員)を味方につけた。
あの瞬間に、「ミルクボーイの優勝だ」と思わせた。
これで完全に彼らの勝利だった。

「歴代最高のM-1」とも評された2019年大会。

ネタの完成度やおもしろさの面では、色んな意見があるだろう。
僕自身も、いやいや、他の年にも捨てがたい大会がいくつかあるぞ、と思う。
ただ、「いままでで一番良い大会だった」と言われると、ああ、そうかも、と思わされるものがあった。

うん、良い大会だった。

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