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親切の跡

なぜそんなところに。
そこにあるはずのないもの、あるべきでないものがあると人は見てしまう。洗濯機の上に置かれた財布、電車の座席に置き去りにされたスマホ、ぶつけようもなさそうな場所に出来た痣。

電柱にキャップが貼り付けられている。ガムテープで。なぜそんなところに。

お昼を買いに出たときのことだ。キャップ(フタのことではない、帽子のほう)が電柱に貼り付けられていた。おそらくは道に落ちていたものを落とし主が気付くように誰かが目線の高さに貼り付けたのだろう。ここは住宅街だから毎日通勤や通学でここを通る人が落としたのなら、次に通るときに気づくだろうと考えて貼り付けたのかもしれない。
よく見るとキャップはベースボールキャップではなく、登山やトレイルランのときに被るようなジェットキャップだ。アウトドア好きの人が落としたのだろうか。

キャップに気づいてから2週間、キャップは貼り付けられたままだ。落とし主は近所の人ではなかったのだろうか。それとも。

今日は雨。親切の跡が濡れそぼっている。

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