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爛漫2の2 織末彬義【創作BL小説・18禁】

第十六章
 
「椿、手伝う」
 日常の食事は会社で朝昼晩とすませられるが。
 椿は新しい食材を食べ比べたりする為に家に持ち込むことがあった。
「これ、運ぶ?」
 逞は大皿に盛られた料理を観て尋ねる。
 まだ盛り付け中かもしれないから勝手には持って行けない。
「…逞、座ってていいぞ」
 椿は、お皿は宝来に運ばせようと思っていた。
大皿に料理が乗っているから、かなり重量がある。
 椿は手伝わせず、逞に着席を薦める。
「大丈夫、俺運ぶ」
 六人分の料理だ。
 手分けして運んだほうが良いだろう。
「なら、あれを運んでれ」
 苦笑した椿は譲歩して、銘皿を乗せたトレイを指差す。
逞は言われたトレイにあるのを運ぶ。
「ちび共、お箸とグラスを用意できるか?」
「出来ると」
「ラジャ」
 ピンと直立不動になってから二人は動き出す。
 椿に用事を言い付けられ、キッチンに寄って来る。
 双子にトレイに乗せた料理を運ばせる。
 言われなければしないかもしれないが、やることがわかれば手伝いも楽しいものだ。
 
「なんか不思議な‥和風ってことか?」
 晃は首を捻(ひね)る。
 テーブルが料理で埋まっていくのを最初から観ていた
 鶏の唐揚げ、筑前煮、豚の角煮、ここまでは和。
 そこに肉まんが大皿に盛られ湯気をたてている。
 ごはんが出てくるかと思っていたのに予想外だ。
 晃が【こちらの世界】に来てから肉まんを食べたことがない。
 宝来が連れて行ってくれる高級中華で豪奢な点心は色々堪能しているが、肉まんやあんまんはない。
 向こうの世界で、冬になるとコンビニで売られる肉まんを買って腹を満たすことが多々あったが。
 腹を満たせればよい食材で、晃は、家で食べたことはない。
 逞も、やはり怪訝けげんな顔をしていた。
 子供達は椿に言い付けられた用事を済ませるべく、ちょろちょろキッチンを行き来していた。
「足りないものないと?」
 覇彦と蓮司が着席した四人を見回し尋ねる。
「完璧」
「ありがとう」
「さ、ごはんにするぞ」
「座れるか?」
「座れる」
 覇彦がそれぞれの飲み物のリクエストを聞きだしたので、それを揃えるのに時間がかかった。
 
 覇彦は両親の間にある椅子、蓮司は椿と逞の間にある椅子に、大人に手伝ってもらい着席する。
 
 六人全員が食卓を囲んで着席する。
「いっただきまーす」
「いただきます」
 双子は祖父母に育てられている。
 両手を合わせてきちんと食事の挨拶をしている。
 双子は揃って迷わず肉まんに手をのばす。
「あちっ」
 言いながら、蓮司は肉まんを小皿の醤油につける。
「蓮司、肉まんに醤油つけて食べるんか?」
 逞が目を丸くして尋ねる。
 肉まんはそのまま食べるもんだろうと思う。
「醤油や無いと。肉まんは酢醤油で食べるとね。」
 動きを止めず、肉まんに酢醤油をちょいと付けてパクッと食べた。
「美味(うま)か~ッ」
 蓮司が叫ぶ。
「本場の肉まんを取り寄せてあるからな」
 椿がにこにこと笑う。
「肉まんに酢醤油?」
 言われても首を傾げ逞は不思議そうだ。
情報として知っている椿以外は、大なり小なり驚いていた。

 
 宝来家の発祥は九州だが。
 明治期に東京に出て来ているから、宝来の食生活も関東寄りだ。
 宝来の母親の実家は九州にあり、九州からお嫁に来ていたが、郷に入っては郷に従えで食生活は関東よりの味覚になっていた。
 
 生物学的母親との致命的な確執で体調を崩してる双子を連れて祖父母は九州に移転した。
 それくらい距離が離れていたほうが良いと判断されるほど冷え切った関係であったのだが…。
 
 事故により記憶が欠落した晃は双子の存在を認め、彼らを抱き締めた。
 晃の実弟とも再会し、初めてのクリスマスだ。
 覇彦と蓮司が来るから、歓迎の意味を込めて椿は九州の食材を研究し、たっぷりと取り寄せてある。
 肉まんあんまんも九州からのお取り寄せだ。
「あ、なんだかこっちの肉まんより皮も分厚いし、肉餡もしっとりこってりしているぜ。こうなるとなんかべつもんだな」
 旺盛な食欲で美味しそうに肉まんをぱくつく蓮司を観てたら、興味をそそられ肉まんを口にした逞が、自身の噛み痕を凝視している。
 いつも食べている肉まんと全く味が違う。
 何て言うのか、数段格上の肉まんだ。
 初めて食べて気に入った。
 自分達で用意した双子の前にしか酢醤油がない。
 
 逞がフットワーク軽く大人分の小皿を用意した。
 逞が動くと椿が連動する。
 テーブルに醤油とお酢を用意する。
「あっ これは」
 晃も双子の食べ方に倣(なら)い酢醤油に浸した肉まんを口にする。
 感心して伏せた目線で肉まんをジッと観ている。
 皮は全体的にふかふかしていて、コンビニのとは完璧に別物だ。それに肉餡が恐ろしくジュシーだ。
 酢醤油を付けて食べなくても食べられるが。
 あまりに肉肉しくて、酢醤油を付けた方が確実に美味しくなる。
「ママも美味かと?」
蓮司が嬉しそうに斜め向かいに座る晃を見上げた。
 
「確かに、これは美味いな。」
澄んだ声で応え、晃は深く頷いた。
「良かったと、美味うまかたいね」
 素晴らしくジューシー過ぎる肉まんだ。
 単独ならば途中で重く感じてしまい、食べきれず満足してしまうだろう。
 それが酢醤油があると味に奥行きができ、とても食べやすい。
 
 皆が感心しているのを双子が嬉しそうに見回している。
「これはおきうとと」
 誰も食べない小鉢を手に珍しく覇彦が話した。
「おきうと?」
「むむ。ところてんの別名か?」
 他の大人が見ているだけの中、果敢に逞が口にし首を傾げた。
 ところてんだとタレは酢醤油が多いが。
 後味に甘さがよぎる。
 
「似てるけど違うとね、ところてんも別にあると」
 蓮司が一口だけ食べて言う。
 双子はおきうとにそれ以上の情報がない。
 覇彦は完食するが、蓮司は一口で終わりだ。
 下味がしっかりついた唐揚げが美味しい。
 こんなに九州に特化したメニューがあると思わなかった。
 あれこれと話しながら食べる。
 なんともボリュームがあるのに美味しく健康的な朝食だ。
 
「美味しかった ごちそうさま」
「今日はどうすると?」
 言いながらツリーの下のプレゼントに嬉しそうに向かう。

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