野獣ちゃん4の1 織末彬義【創作BL小説・18禁】

野獣ちゃんシリーズについて
創作BLハッピーエンド小説として、世界観は雰囲気でお楽しみを💓
歴史ある任侠ヤクザの系譜を継ぐスパダリ吉柳きりゅう
崩壊した家育ちの躾られてない美貌を頼りに生き抜いてきた野獣ちゃん
には肉体の秘密があった小太郎との続編。

同人誌販売BOOTH 『野獣ちゃん1~3』
電子書籍販売  『野獣ちゃん1~3』

第一章
 
 遠目でも人目につくものがある。
 それには、なんというのか強いオーラがあるのだ。
 引っ張られるように無意識に自然と目が向けられ、磁力に魅かれて目が離せなくなることがある。
 
 そのコーヒーショップはたいへんな人気で大勢のスタッフが立ち働いている。
 古田も憧れからここで働きたいと思っていた。
 大学に合格すると、大学近くにある店に連絡してバイトエントリーした。
 人気店だから採用の競争が激しいかと思ったが、意外にも敷居の低い採用だった。
 あまりに簡単なのにラッキーと喜んだのも束の間。
 バイト一日目でその理由がわかった。
 覚えることが膨大過ぎる。
 中学受験で塾通いするのに、ここのソーダを買うのを楽しみにした。
 それから成長する年齢に合わせ、気分に合わせて色んなドリンクを楽しんでいた。
 季節に合わせ次々とリリースされる新作もかなり網羅していた。
 客としてヘビーユーズしていなければ音を上げたに違いない。
 それでも知っていたのは全メニューの半分に満たない。
 根っからの負けん気と、コレクター気質が良い意味で発動し、古田はしゃかりきに働いた。
 暗黙な流れでバイトの立場ながら店長代理扱い、卒業と同時に正社員となった。
 大きな都心にあるショッピングモールの店長に抜擢された。
 全面ガラス張りの窓からショッピングを楽しむ客の往来が眺められた。
 都心一等地なのもあり、芸能人の姿も珍しくない。
 そうでない人達でも、ここへ足を運ぶのに誰もがおしゃれをして集う街でもあった。
 そんな人の流れを古田は目配りしていた。
 店の中だけ神経を集中していると、場の流れに翻弄されることがある。
 分りやすいのは何かの開演前には急ぎ客の流れがある。
 ここに増員して、スムーズに注文を通せば必然的に売り上げもあがる。
 古田はそういう些細な目配りを心掛けていた。
 視線から一番遠い視界の端にふと引っ掛かった。
 なんだろうと焦点を合わせた視線を向ける。
 古田の視力が良いので、まだまだ遠い。
 アーケードの向こうから、こちらの方に向かって来ている。
 全体のシルエットにメリハリがきいて人目を惹く。
 
 シャツにベストとズボン姿は制服に見えた。
 どこの高校だろうか。
 古田は目が離せず、観察を続けていた。
 目敏めざといバイトの子達も彼を見つけた。
「あ、可愛い制服」
 やはり制服に見えるようだ。
 古田は自身の判断が間違ってないと思う。
「どこのかな」
「どこかしら」
 ピンと来ず、ひそひそと話している。
 仕事の手は止まっていないから古田は黙っていた。
 店長の古田に目端から注目され、バイトの子達に噂されている少年はまっすぐ店に入って来た。
 間近に迫り、まっ白なシャツは襟の形、袖のラインの優雅さから恐ろしく上質なものだと判る。
 身体のラインをくっきりと浮き立たせるボディに沿ったベストが描く線が華奢な細腰を強調した。
 遠目で高校生かと思っていたが。
 もう少し成長しきらぬ中学生と言える少年らしさが濃厚に感じられる。
 ふっくらした頬の優美さに賛辞しか浮かばない。
 ウェーブする肩に届く艶やかな黒髪、大きな瞳は長いカールした睫毛に縁どられて形が良い。
 唇は朝露に濡れた薔薇ばらの花弁のように輝いている。
 席に着いている客も、列に並んでいる客も、気が付いたら、ちらちら目を走らせている。
 突然降臨した絶世の美少年を人々が注目していた。
 
 

第二章
 
 遠目に制服に見えた清潔感のある服は、制服じゃないと古田は判断した。
 有名な英国ブランド服だと判る。
 特徴的なタータンチェックとシャツの袖口の折り返しなどハイソでとてもオシャレだ。
 気品のある美貌を際立たせる服を無造作むぞうさに着こなしている。
 彼は迷いなく店内に入り、レジ列に並んだ。
 
 少年の順番になる頃合いで古田はレジに出た。
 店長命令に逆らえず、レジ担当スタッフは渋々と入れ替わる。
 芸能人が来た時など、そういう配慮した措置は必要に応じ、しているからスタッフに混乱はない。
 カウンター前に立ち、次の番の少年を手招く。
「お待たせしました。ご注文はお決まりですか。」
 考える間があるように明瞭に、ゆっくりと言う。
 こくりと頷いた。
 目の前にして古田はマジ生きているんだと変な実感をする。
 地域的に外人モデルも良く目にするが、それとは別な優美な端麗さに目を奪われる。
 周囲からは息を呑む音や、小さく可愛いという声すらするが、少年は平静だ。
 熱心にメニューを見るのに没頭していた。
 自分のことと気付いてないように映る。
「店内でお召し上がりですか?」
 また頷いた。
 つくづくとこんな間近でも、恐ろしく整った顔立ちだ。
 全てのパーツが美しく極めてバランスが良い。
「スコーンとキャラメルラテをコーヒー半分でミルク増量、トッピングにラム酒」
 澄んだ甘い声も容姿に合っている。
 どれを披歴しても、やはり未成年だ。
「…」
 子供の好奇心か。
 アルコールを飛ばしてお菓子にも使われている。
 子供でもなじみがあるものだが。
 ラムはそのままだとアルコール度数が高い。
 これは大人向けに提供しているトッピングだ。
 店として、知らん振りは出来ない。
「学生証か、何か年齢証明するものございませんか。」
 古田は静かに毅然と応じた。
「‥日本でもなのぅ」
 一呼吸、息を呑む間があった。
 瞬時に不機嫌になるのが伝わった。
 大きな瞳に不満を宿し、急に鋭さを感じさせる。
 下からすくう様に三白眼気味に睨まれると蒼白さが感じられる白目の白さが際立つ。
 怒りを滲ませキリッとした印象にされても誤魔化されない。
 古田はにこやかさを崩さず、相手の出方を待つ。
 唇をへの字にしておもむろにポケットに手を入れた。
「俺、学生じゃないから、学生証はない」
 動向を注目していた周囲が騒めく。
 誰もが少年の容姿から中高くらいを想定していたのであろう。
古田もそうだ。
「はい」
 パスポートを渡された。
「‥それでは失礼して」
 ページを開けば、顔写真で本人確認。
「たいへん失礼しました」
 言いながら、パスポートと本人を何度も目が行き来してしまう。
 すぐには信じられない。
 詐欺なんじゃないかと思う。
 目の前の容姿で、俺の一歳上はない。
 この美少年振りで二十五歳とは絶句するしかない。
 古田店長は丁寧にパスポートを小太郎へ返した。
吉柳きりゅう様、誠に失礼いたしました」
「ラム酒入りね」
 満足そうに小太郎は艶然と微笑む。
 トレイには注文されたスコーンとラム酒入りホットキャラメルラテのカップと、パウンドケーキを追加する。
「‥」
 トレイを観て、古田の目を見る。瞳が頼んでないと物語る。
「年齢確認のご協力ありがとうございました。お礼にこれは新商品です。どうぞお試しください」
 確かに新商品で配っているものだが、お試しだと六等分したものを配布していた。
 これは正規サイズのものだ。
 実年齢よりも若く見えるから、法的なこともあり問い質(ただ)さざるを得なかったが。
 接客としてここは難しいところがある。
 実年齢より年上にみえる客に、気付かず提供してしまうこともある。
 どちらにしても客に対し年齢確認をした場合は、相応のサービスをするように心掛けていた。
「そうなんだ ならサンキュ」
 にこりと小太郎は満面の微笑みを浮かべた。
 注目し店とのやりとりを観ている人々から感嘆の息が迸る。
 まばゆいほど綺麗な笑顔だ。

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